並んで立ちたいから
「すごい……」
アマリリスの圧倒的な強さを目の当たりにして、ピアがそんな感想を漏らす。
よく分かってはいるつもりだったが、それでもフェイト達ではまだ勝てない4年生ですら全く寄せ付けない強さ。
思えばよくこんな人から稽古を積んでもらえたものだ。
「にしても、これが先輩の本気なのか?なんていうか--フェイトとぶつかった時なんかはもっと迅かった気がするんだが?」
ゲイトがそう思うのも無理はない。アマリリスは確かに圧倒的な強さを見せてはいるが、全力には見えない。
何十人もの相手をする以上作戦として、体力の浪費を避けるのも目的なのだろうが、とにかくバトルロイヤが終了しても汗一つかいていないのは不自然だ。
「まあいいんじゃないか?ほら、個人戦始まるぞ」
胸に溜まるモヤモヤに一瞥し、フェイトは無理にでも明るく声を出す。
「そうね、見て学べるものだってきっとあるはずだし、見学しましょ」
そして4年生個人トーナメントが開催された。
結果は言わずもがな
早々にベスト4入りを果たし、続く5年生バトルロイヤルへの出場の切符を手にしていた。
しかしなんだろう、本当にアマリリスは綺麗だ。
制服の鮮烈な赤にも譲らない、高貴な緋色の髪が戦場で揺れる度に幻想的な緋色の風を生み出し、見るものを妖精郷へと誘う。
そして女子としてはファッションでもあるが、気を付けるべき点でもあるスカートは風に同化するかの如く一切揺れず、未だに姫の下腹部の神秘は誰も目にすることが叶わない。(余談だが、他の女子の大半はこの大会中スパッツを着用している)
まるで風の精霊の加護でも受けているかのように、真なる緋色は風に舞う。
そんな光景にまたファンを増やした罪作りな先輩は、トーナメントが終わるとすぐにこちらに来てくれた。
「応援してくれてたんだ?ありがと」
……なんだろう?なんか昨日までとちょっと雰囲気が違うような??
そう、あんなに見惚れてしまったのも今日からだし--?
そんな疑問も、先輩に真摯に見つめられればけし飛ぶ些細な問題に過ぎない。
「勿論ですよ、もっとも応援するまでもなく俺は信じていましたけどね」
ガッツポーズで応えるこちらに、アマリリスは微笑みを返す。
「アリガト、皆も午後のチーム戦に向けて調整しておいてね。私は次の5年生のバトルロイヤルも勝ち抜いてくるから」
さもありなん、余裕を見せる微笑に周囲で聞き耳を立てていた生徒は苦笑を漏らすばかりだが、フェイトはそんなことはない。
「頑張って下さい!俺、応援しか出来ませんけど、先輩の事信じるのは誰よりも出来ますから!!」
「ふふっ、アリガト。それじゃね、フェイト」
そう答えて踵を返すアマリリス。
うん、なんだか今日の先輩綺麗で可愛いな、と不覚にも思ってしまった。
「……フェイト、鼻が伸びてる」
「ウソッ!?」
レイやピアから冷たい目線で蔑まれると、気を取り直し、いや話題を強制的に入れ替える。
「俺らは午後の準備だな、準備運動でもしておくか?」
「誰かさんはお一人でどうぞ、行こう、ピア」
「ね。フェイトのバーカ」
「そういう訳だ、フェイトお前も姫様を追うのもいいが、内のチームの姫様の機嫌もちゃんと見ておけよ」
唯一分かってくれていると思っていた、男友達のゲイトにすらその場は見放され、フェイトは午後まで一人虚しく準備運動に励むのであった……
「さて」
校庭に再び舞い立つアマリリスは、今回も難なくポジションを確保し開始の合図を待つ。
「5年生は40人、上位進出を含めて44人しかいないから、ポジションって実はあんまり意味がないのよね」
先ほどまでの4年生までは100人超えの乱戦であったが、最上級の5年生ともなれば人数が大幅に削減され、僅か40人だ。
5年生に昇るための条件とは、教師の推薦を得ること。ただそれだけだ。
しかし、教師もバカではないので4年生にもなって見所がない者では、将来5年生になっても道が拓けないと判断し、中退者を多く出す。
ただ、これは教師なりの配慮であり優しさでもあるのだが、前途明るき若者にとって挫折とは暗い闇に他ならない。
この学校のカリキュラムに乗っ取り訓練を重ねたとしても、将来が期待出来ない者は数多く存在する。
遅咲きの大輪という花も勿論存在するが、大体は肉体の成長期のピークでもある19歳前後で花開く。
それ以降で開花するという事例は極端に少なくなるため、4年生が丁度境目となるのだ。
よって、4年生まで100人を超えていようが、こうして現実には40人しか進級出来ていない。
他の者は今までの経験こそあるため、ギルドに所属しながら腕を磨いて日銭を稼いだり、中には転職を決意するものや学者に進む者もいる。
だからこそなのだが、進級出来た5年生40人は本当に選りすぐりばかりだ。
どの人も将来騎士となることを望まれ、また本人もそうであると確信しているような野心家ばかり。
それでも騎士の席は毎年数十も空く訳でもないので、この中で更に競争が起こるのだ。
今回の校内対抗戦は、いわばその総本山。卒業試験の前座とも言うべき大事な行事なのだ。
そんなことはアマリリスもよく理解している。
もし自分が気まぐれに徘徊し、見つけ次第排除していけば見つかった5年生には正に青天の霹靂。
同じ5年生との競争すら望むことすら出来ず、敗者へと名を散らすのだ。
アマリリスもそんな事は無為にはしたくない、結果としてアマリリスが優勝しようが、このバトルロイヤルで無理に目立つ必要は全くないのだ。
「やれやれ、人と人の気遣いというのも難しい所だ」
そんな胸中の想いを誰に打ち明けることなく、最終学年、バトルロイヤルの火蓋が切って落とされた。
そんな校庭に佇むアマリリスの様子を、フェイトは柔軟を行いながら眺めていた。
(……先輩、さっきと違って全く動かない。……それに、他の5年生も北側には陣取らないし、近寄りもしない。これって、まさしく避けられている、よなあ)
先のアマリリスの想いを察するには、学校の知識も、人生経験も足りないフェイトには推測しようがないことだった。
「こんな状態だったら、クロ先輩だってトーナメントを待たずに対戦出来たのかもしれないのにな」
そんな事をぼやきつつもノンビリ眺めることにする。
その場から一歩も動かず彫刻の如く直立不動を保つアマリリスは、彫刻にしてはあまりにも生命力に満ち溢れ、美貌は讃えられるが似つかわしくはなかった。
強いていうならば戦場の女神、といった象徴の方がしっくりくると思うが、これも所詮言葉遊び。
ついにアマリリスの沈黙が解かれる事はなく、5年生バトルロイヤルは終結を迎えた。
「で、次が待望の個人戦だが--上手くいかないみたいだな」
アマリリスとクロは別ブロック、決勝にいくまで当たる事は叶わなかった。
一方、クロの右腕でもあり親友でもあるマキ先輩がアマリリスと1回戦で当たる事となった。
「マキ先輩も双剣って聞くけど、どんなスタイルなんだろ?」
昨日実感した事だが、ピアに対してもキャロルルに対しても双剣使いに対して、どうやら苦手意識があるようだ。
様々な双剣使いのスタイルを見る事が出来れば、それも勉強になるかと思い早速試合を観戦しに行くが--
「なにあれ?」
そう呟いてしまった。
一度も見た事がなかったが、マキ先輩の双剣のスタイルとは右手に大剣、左手に細剣と左右非対称の双剣使いだったのだ。
「…………どう振り回すんだ?」
アマリリスみたいな怪力(失礼)でなくては大剣を片手で振り回すのは難しい。
それに、万一扱えたとしても左手の細剣は精密さと機動力、そして奇襲性が武器だ。
大剣を抱えている限り、細剣のメリットは活かせないし、逆に細剣を使っている間は大剣が邪魔になる。
全く予想が付かない双剣のスタイルに戸惑うフェイトだったが、
「あれがマキ先輩のやり方よ」
と、背後より聞き慣れた女子の声がしたと思えば、案の定ピアだった。
「お帰り、んで質問していいなら聞きたいんだけど、あれって実戦レベル?」
その問いにはピアは首を振る。
「ううん、予想通り双剣としての実力は無いわ。でも仮にも選抜に生き残った5年生だもの、双剣使いとしては目立たないけれど、剣士としてみれば群を抜くわ」
「それってどういう--」
質問は宙にぶら下がったまま、試合が開始された。
「初めまして、マキ先輩。先輩の剣術はクロ先輩より聞き及んでおります」
「愚問だな、アマリリスの方が剣術に関しては上だろう。どちらで相手しても勝てないのは明白」
「そうでしょうか?実際に剣を交えてみなければ分かりませんよ?」
「勝てない勝負はしたくないものでね、お前には悪いが棄権させてもらうよ」
そしてマキ先輩は剣すら抜かないまま、両手を上げ試合はアマリリスの勝ちとなった。
「…………なんだありゃ?」
フェイトが背後のピアに問うと、
「私だって分かんない、マキ先輩ってずーーっとクロ先輩と一緒にいるから、なんか話しかけ辛いのよね」
それはご愁傷様に、と思ったが決して口に出さない。
「次勝ち上がって当たるとすれば--騎士剣使いの正統派、エンドルフィ先輩か」
40人しかいないとはいえ、それでも実力が目立つ者が噂になるのは当然で、教師達も密かに実力者ランキングなるものを制作しているとか。
その中で言えばエンドルフィ先輩は5年生の中でもNo.2だ。
クロ先輩とも五分五分の試合をするということからみて、次の試合が今日一番の山となるだろう。
「そういえばレイ達は?」
「ゲイトが武器点検のための布を忘れたから、お姉ちゃんが一緒に行ってるわ」
「ふーん、ピアはゲイトと一緒じゃなくて良かったの?」
「バカ!何言ってんのよ!!……ホンっとバカなんだから」
怒られてしまったが、ゲイトとピアの仲が良い事はレイも知っているだろう。
同じカリキュラムでもないのに、放課後とかよく待ってたりする二人は仲が良いんだと思う。
「仲良きことは、美しきかな」
「うるさい、バカ!沈めるわよ!」
といいつつ、既に殴っているのは反則だと思います。ピアさん
そして午前の部、一番の好カードとなるアマリリスVSエンドルフィの試合も、ついに始まった。
アマリリスの扱う剣が人外に設計されたクレイモアという点を覗けば、スタイル自体は剣盾の正統派騎士と、同じく騎士剣使いの正統派騎士の対決。
校内対抗戦とはいえ、これ以上の好カードは中々存在しないだろう。
「ぜぇあ!!」
アマリリスが大上段から渾身の一撃を振り下ろすが、
ヒュッ、
巧みな体裁きだけで、針の穴を通すかの如く繊細に紙一重でかわしきる。
「フッ!!」
動きを最小限で抑えたエンドルフィは、代わりに反撃の一閃を繰り出すが、アマリリスは冷静に判断し盾にてガード。
剣が残っている隙を逃さず、今度は下段より振り上げての一閃を御見舞する。
一方、盾を使わないエンドルフィは体裁きを重点的に修めており、今の下段からの高速剣すら当たってはくれない。
剣を引きもどしつつ後ろに飛び退るエンドルフィは、一歩着地するや急反転をし完全に矛を化した騎士剣にて雷光の如き突きを放つ。
まともに受ければ最強の盾すら貫かれそうな矛であったが、アマリリスはそれでも慌てない。
まるで時間の流れがアマリリスだけ違うかのように、思考に焦りはなく決して見落とさない。
再び交差する剣と盾の応酬には、盾は傷一つ負う事無く退け、最強の矛と信じる傲慢な敵を撃ち滅ぼすべく、紫に輝くクレイモアが妖しく光る。
その危険を察知してか、矛を収めて距離を開けようとするエンドルフィに襲いかかる剣撃は、ただひたすらに速かった。
高速、とは呼べぬ代物で神速、と呼ぶに相応しい一閃において、エンドルフィは地を舐める結末となった。
「勝者、4年生アマリリス!」
審判の声が鳴り響き、勝者と敗者が別たれた瞬間だった。
■■■■■■
「お待たせ」
午後に差し掛かる時間帯になり、アマリリスはフェイト達と合流することになった。
「先輩、まずは個人戦準決勝進出おめでとうございます」
フェイト達が拍手で迎えると、アマリリスは少し照れくさそうにはにかみながら、
「ありがとう。--なんか新鮮だね、こうして仲間に迎えられるってさ」
普段は勝って当たり前、称賛の声や喝采も一身に浴びてきた身だが、仲間と呼べる人達から拍手をもらったことは生涯初めてだ。
「先輩凄かったですよ、あのエンドルフィ先輩相手に圧勝ですから!!」
レイの声にも珍しく興奮が見えるが、それほどまでに騎士剣使いとしてあの試合は刺激になったのだろう。
「圧勝って訳じゃないよ、序盤の攻防の応酬は一歩間違えれば私が危なかったし」
「あの場は距離を取って、大技を仕掛けたのが敗因だったんですか?」
「そうだねー。ゲイト君はランス使いだからあの突きが気になるみたいだね。まあ結論としてはそうかな。盾の防御を崩せる威力が無かった以上、あれは反動が大きくてエンドルフィ先輩の折角の持ち味である、体裁きが取れなくなったからね」
あのまま張り付かれていた方が、プレッシャーだったということか。
「でも先輩?大上段、下段、そして最後の振り抜きと先輩の攻撃を見ましたが、最後だけ速過ぎませんか?」
フェイトの鋭い問いに、笑顔を崩して渋い顔を見せるアマリリス。
「フェイトは良く見てるし、聡いね。まあそう、最後の一撃はちょっと本気出しちゃっただけ。
エンドルフィ先輩も反動があったとはいえ、同じ速度ではダメージはあっても逃げられてしまう。それで長引くのは好きじゃなかったから、ついね」
やっぱりそうか。
……ん?なんか今も違和感を感じたような?
「それで先輩、午後のチーム戦はどうします?」
ピアが質問すると、少し考えた素振りの後、決心したかのようにこちらに視線を戻す。
「えっとフェイトは戦いたいんだよね?相手が何年生であっても?」
そんな事言ったかな?と思いつつも即答する。
「勿論です、叶わない相手は全部アマリリス先輩に任せる、なんて格好悪い事出来ませんから!」
「それじゃ他の皆は?例えばピア君」
「……私は、正直足を引っ張ってしまうかもしれません。でもフェイトがやるなら」
「ゲイト君は?」
「俺も同じくです。ただ、出るなという命令なら出ませんが」
「そう、レイ君は?」
「フェイトが出るなら私も。少なくともフェイト一人よりはマシになります」
「そっか。それじゃこうしよう。4年生以上のチームでは、私が相手のチームを2~4人相手します。残りを4人で強力して1人倒す。
3年生以下のチームでは極力私は手を出さない、前に決めた陣形通り動くから、その場合はフェイトが適宜指示を。それで大丈夫?」
……なんだろう?昨日と違って許可してくれたし、その上で指示も的確で纏っている。
何か心境の変化でもあったのかな?
「それじゃこれでいいね。チーム戦は毎回放送で相手と場所が指定されるから、聞き逃さないようにね」
「ハイッ!!」
いい所を見せられなくとも、少なくとも失望させないよう頑張らないとな。
フェイトはそんな決意を新たにチーム戦へと臨む。
第一回戦は、3年生チームの三人組みだ。
相手は騎士剣、騎士剣、ランス、とバランスのいい武器のため、陣形の組み合わせは豊富そうだ。
見た所ランスの男子が司令塔らしいので、いかに司令塔を速く制圧するかがポイントになりそうだ。
1分の作戦タイムが与えられ、スタートラインに五人は集まりながら作戦を確認する。
「作戦はピアがランス使いを速効で狙って、アマリリス先輩がその援護」
「OK」
「任せて」
「残りの騎士剣使い二人を俺とレイが抑え込みつつ、ゲイトが中央に陣取り適宜俺とレイの援護を」
「了解」
「任せろ」
「今のは敵がランスを奥にした陣の想定だが、ランスが前の場合はピアの役割は変わらないが、アマリリス先輩は単独で騎士剣使い一人をお願いします」
「了解」
「その場合は、ゲイトと俺でもう片方の騎士剣使いを撃破、レイはピアの援護に回ること」
「うし!」
「大丈夫よ」
「さあ、これが俺達「メシア」の初陣だ!!目に物をみせてやろうぜ!!」
『おおーーーー!!!!』
作戦を確認し、鼓舞を入れた所で始まりの合図が鳴り響き、ついにチーム戦は初戦を迎えた。
走りながら敵の布陣を確認、どうやら今回は前者のパターン。
ランスを奥に、騎士剣使い二人が門番となる基本陣形だったようだ。
「ピア!先輩!走って!!」
前衛で配置したピアすら追い抜かんと加速してみせる、アマリリスの悪戯心に胸中穏やかではなかったが、今はそれ所ではない。
フェイトとレイが騎士剣使いを抑えなければ、ピアの危険は格段に増す。
フェイトは真っ直ぐ躊躇なく切り掛かると、向こうもそれに応じるように剣を返す。
(--イケる)
手応えとして、アマリリスよりも、キャロルルよりも剣の重さや速度を感じないため、脅威には感じない。
レイの方はどうだろう?たまたまこちらに実力が低い相手が来ているだけだったら、向こうが強力、ということも在り得る----
すでに向こうはレイとゲイトが二人掛かりで対応しており、どうやら自分は当たりを引いたようだ。
「先輩、悪いですけど眠ってもらいます、よ!!」
競り合った剣を急激に捻じり、叩き落さんと勢いをつけるが、相手は掌から剣を決して離さなかった。
しかし、意識が掌に集中した隙を見逃さず、相手の脇腹へと鋭い蹴撃。
ギリギリ差しこまれた肘にて防御されるが、体を器用に捻ってもう一撃。
完全に足が地面から離れ、宙に浮き失敗すれば手痛い反撃が待ち構えているが、恐れず踏み切る。
「オオオオオ!!!!」
止められた右足とは別に、左足を相手の頭を削るよう落としこむ。
「ぐっ!?」
脳震盪を起こしたのか、その場に倒れる3年生の騎士剣使い。
着地と同時に剣を振り払い、相手の剣を飛ばしてまずは一人戦闘不能にさせた。
フェイトとは反対方向
レイは初撃を交えた時点で、実力差に驚いた。
(決められる!?)
同じ騎士剣使いとして、錬度が違った。
2年の月日はレイの想像を遥かに越え、圧倒的力の差がレイを今踏みにじらんと迫るが--
シャッ
差しこまれたランスを警戒し、後ろに距離を置く相手の騎士剣使い。
「2対1だな」
「そうね、援護をお願い」
相手は剣の切り返しがとても速く、一瞬動かした拳はフェイントとして脅威であり、実際に使われていたらダメージは入っただろう。
向こうは、ダメージを入れて戦力を削るよりも、初撃の硬直を隙とみて一撃で戦闘不能に落とそうと考えたのだろう。
それを、ゲイトに救われた。味方がいなければ確実に刈られていただろう。
「迂闊に攻めない方がいい、経験とパワーが違うわ」
「そうか、見たとこフェイトが一番に終わりそうだ。先輩がいる以上負けはないし、こちらは迎撃で様子をみようか」
「そうね--来た!!」
まるで斧が通るかのように、圧倒的暴力をまき散らす力の剣を回避し、レイとゲイトは左右よりの挟撃を図る。
「一気に決めるわよ!」
距離を詰めて、思い切り離表する。空中より重さを乗せた斬撃、力が足りないなら加算するまで--
相手は迎撃の姿勢を見せるが、そこに反対方向からゲイトが迫る。
ゲイトの突進も加速と体重を乗せた一撃だ。
相手の剣が一本である以上、迎撃に使えるのはどちらか一つ。
(もらった!)
レイはそう確信したが--
相手は剣をゲイトの方向に向け構えると、こちらには見向きもしない。
舐められている。
そう思うが、レイの意識はそうだろうか?と疑問を打つ。
相手は上級生、こんなに素直に一撃決まるのならば誰も苦労はしない。
いくら2対1とはいえ楽勝すぎる?
疑問は肥大し、剣先と思考が僅かに鈍る。
そして相手は、どちらに剣を向けるでもなく、地に向かって剛剣を振り下ろした。
「「なっ----!?」」
驚愕は二人のもの。
二人とも力を意識するあまり、細かい部分を忘れてしまったのだ。
それは、着地まで場所を変えられないレイと、加速したがために急停止出来ないゲイト。
二人は挟撃という性質上同時に標的に交差するよう狙っている--
それが逆手に取られた。
巻き上がった土は、完全に標的を隠してしまい狙いをつけ直すことが出来ない。
そして運命の瞬間、見事に息の合った一撃はかち合い、お互いの武器と武器が交差しその余波にて硬直が余儀なくされる。
「しまった--」
声に出すがもう遅い、姿を眩ました相手は土の奮迅から舞い出で、こちらに敗者の宣告を下そうと既に振りかぶっていたのだ。
ヒュオッ!
やはり剣ではなく斧が風を切る様に、重く圧し掛かる重圧が振り下ろされ、レイは敗北を見る--
だが、
「ごめんね、うちの大事な後輩に手は出させないよ」
緋色の風が斧の如き重圧な風を上書きし、まるで炎が呑み込むかのよう一瞬にて敵は排除された。
「二人とも頑張ったね、でもちょっと相手の方が経験が上手だったね。敗北は成長の材料として、忘れないようにね」
とっくにピアと二人掛かりで敵司令塔を撃破してきたアマリリスによって、レイ達は戦闘不能の怪我を負う事なく、無事初陣は勝利を飾った----