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騎士学校の俺と俺だけの姫様  作者: スピキュール
校内大会 騎士姫参上
28/58

ブレイヴ・フェニックス

 誰もが目を見張ったその瞬間は、アマリリスに特に強く刻まれた。


 「い、……今のは?」


 いくら木の盾とはいえ、砕かれた事は一度もないアマリリスの鉄壁が、まさか新入生相手に砕かれるとは----


 「や----やったあああ!!??」


 驚愕のアマリリスとは対照的に、目の前の少年は歓喜に震えていた。


 「せ、成功した!?まさか上手くいくなんて!」


 どうやら成功率は高くみても五分五分だったらしい。--しかし、一体どんな手品を?


 「すまない、フェイト君。今のは私もよく分からなかったんだ、出来れば解説してくれないか?」


 崇敬の先輩から頼まれれば、フェイトに断る選択肢等あるはずがない。


 「ハイ、あれはですね、斬鉄の応用です」


 「斬鉄の?」


 斬鉄自体は知識として知ってもいるし、体得もしているが、斬るではなく、「砕く」とはどういう事か?


 「物には目があるのは御存知ですね?ようはどんな物でも弱点は存在するという話です。ただ、アマリリス先輩の鉄壁を崩すためには、その目を突くだけでは突破出来ないと思い、魔力を流し込んだんです」


 「魔力を?」

 

 ようやく全貌が見えてきた。


 「魔力に耐性がないため、まず俺の木刀が砕ける。ただし、伝わった魔力は先輩の盾の目を通して広がったため、同じく魔力に耐性のない盾が砕ける。----それが先の原理です」


 それにしても素晴らしい技術だ。やはりフェイトは騎士としての才能よりも、魔法師としての才能の方に比重が乗っているらしい。


 「ふむ、よく分かった。--そして褒めるべきだな、私の防御を突破する方法を必死で模索したのだろう」


 昨日はずっと斬鉄やら、打撃を試していたが、アマリリスは巧みに捌くため盾の目をみつけて当てる事は可能でも、その目から崩壊を導くための力を加える事は許されなかった。

 そのため、目に見えない魔力を精密なタイミングで流し込み、触れさえすれば魔力は流れるためまるで毒を流し込むかの如く戦略にてようやく防御を突破したのだ。


 「しかし目を見切ったフェイト君の目は本物だ。さすがに斬鉄を行うだけはあるな」


 「ありがとうございます。ただ、仲間がいなければ目に触れることすら許されなかったでしょう」




 なんだかんだで、まだハンデをもらってばかりいるのだ。

 木盾だけ、剣も持たず、その場から動かない、そして四人掛かり。

 それだけのハンデをもらわなければ、アマリリスに一矢すら報いれないとは……


 「いや、その発想力、実行力はフェイト君のものだ。それに指揮したのもフェイト君かな?いいチームワークだ。少なくとも下級生で今と同じことが出来る相手は存在しない」


 ただ、アマリリスはしきりに感嘆しているので、作戦としては上出来だったのだろう。


 「ふむ、若者の成長を侮り過ぎたかな。まさか一日でこれだけ成長されるとは……まあいい。なら次は、木刀も持たせてもらおうか」


 「ハイ!宜しくお願いします!!」


 そして、また休憩無しの実戦が始まった----





 「ただいまー」


 あれから、結局また一方的な展開になってしまった。

 同じ手は勿論二度と通じず、木刀が加わったため攻撃力が跳ね上がり、後半は人間ではなく竜巻を相手しているのでは、と思う程だった。

 だが結果として、昨日よりも攻め切れていたため早めに解放された。

 最後まで突破出来なかったのは残念だが、このまま訓練を続けていけばいつかは突破出来るだろう。


 「おかえりー、お兄ちゃん一日振りだね」


 「ああ、ただいま。アイリスは心配したか」


 「そりゃあね、お兄ちゃん騎士学校に行き始めてから無茶ばっかりだもん」


 「はは、そりゃ悪かった、んでお父さんとお母さんは?」


 「いるよー、アレ、ついに完成したって」


 「本当か!!明後日までかかると思っていたのに!」


 そうと聞いてはいても立ってもいられず、アイリスを廊下に置き去りリビングへと掛け込む。


 「妹より剣が大事!?お兄ちゃんのバカー!!」


 後ろでアイリスが何か言ったようだが、気にしない。後で機嫌を取ればなんとかなるだろう、アイスとかで。


 「お父さん、お母さんただいま!!それで、ついに出来たって!?」


 バン!と扉を開け放つや、リビングにいる父母に視線を走らせる。


 「そんなに慌てるな、ほら、そこの包みだ」


 父が慌てる息子を窘めるよう指さすと、我慢出来ずにフェイトはその包みに駆け寄り、包みを解く。


 「フェイト、それが私達の自信作、いえ傑作。「ブレイヴフェニックス」よ」


 「これが----」





 フェイトが以前から使っていた剣、形状は変化もなく、重量に関してもそう変わらないように見える。


 「苦労したぞ、重量も形状もほとんど変化なく改造するなんてな」


 「父さんが勝手に言いだした事だろ?俺に苦労を話してどうするんだよ」


 黒塗りの鞘から、自分の愛剣を取り出すフェイトの瞳には、慈愛や慈しみといった感情が主で、懐かしさよりも無事に戻ってきた、というそちらの方が大事だった。


 シュッ


 と、鞘から剣を引き抜くと--

 鍔にフェニックスを象ったデザイン、手に馴染む変わらぬ柄、白銀の煌きを誇ったままの刀身。

 そして一番の変化が、


 「ハロー、マスター。あなたがフェイトですね?初めまして、私がこれからマスターをサポートすることになった、インテリジェンスデバイス「シン」です。よろしくお願いしますー」


 ……

 案外気さくな奴だな。




 そう、フェイトがずっと剣を両親に預けていた理由。

 それはフェイトの愛剣である、ブレイヴフェニックスにインテリジェンスデバイスを搭載することによって、これからの戦闘のサポートを行う機能を付けるのが目的だったのだ。

 ちなみに世界初の技術で、特許申請中だとか。

 とはいえ、まる一月以上預けたままで本当に完成するのか怪しいものだったが、両親は見事に作り上げてくれたのだ。


 「フェイト、話は聞いてますよ?あなたは両親に愛された子ですね、こんな私みたいな愛嬌あるデバイスなんてレアですよ----」


 むぎゅ、と握りしめて黙らせると無言で両親に視線を戻す。


 「----こいつ、うるさいんだけど」


 「こいつって言われた!?私スンゴイんですよー?!」


 手元から何か声がしたが、無視。


 「サポートデバイスって、こんなにやかましいの?」


 尚も両親に質問を続けるフェイトだったが、回答は母の方からもたらされた。


 「んーそうね~。本当にサポートは評価するけど、ちょっと口喧しいかもね。ホラ、お父さん賑やかなのが好きだったから」


 「やっぱり父さんのせいか!?」


 もっと戦闘中だけ話しかけてくるような、それでいて的確な支援を行ってくれるデバイスを期待していたのに……


 「そういうな、普段の世間話から密入時の便利機能までサポート出来るフルカスタマイズだぞ。大丈夫、そんなに意味なく喋らないから」


 「本当に?」


 じーっと、手の中にあるデバイスの本体である鍔に埋め込まれた赤い宝石を凝視する。


 「本当ですよ、フェイト。私見ての通り繊細なのでさっき握りしめた時についた皮脂を、クリーナーで掃除してくれれば文句なしで----」


 ミシッ!


 今度は嫌な音が多少鳴ったが、気のせいだろう。


 「仲良くやるんだな」


 そういうと、新聞に目を落とす父親。

 ……あんたが開発したんだろうが。





 あれは3月の話--

 魔法学校に進めと両親と衝突ばかりし、もう入学金も勝手に振り込む等してようやく両親を説き伏せたのが3月の話だった。

 それから、両親と多少ギクシャクしたことがあったのは事実だが、3月も半ばにさしかかった頃、父から呼び出されると、


 「お前のブレイヴフェニックスを、父さんに預けてみないか?」


 との事だった。

 勿論反対したが、それが騎士学校に通うための条件、と押し切られては差し出す他なかった。

 それに、話を聞いてみるとインテリジェンスデバイスを装着し、フェイトが今後騎士として戦場に向かう際のサポートを考えたいから、と至極まともな事だったからだ。

 ----この時も今もフェイトは知る由が無かったが、魔法師であれば戦場に赴く機会はそうそう無いと考え、子供の安全を第一に考えた上で魔法師になって欲しかったようだ。

 騎士になることに反対したのは子供の安全から真逆に向かっていたからだ。

 そんな両親の愛情も届かぬまま、入学を決めてしまったフェイトに贈れるものがあるとするならば。



 戦場でも生き抜ける、サポートをしてくれる自律型デバイスをフェイトの供とさせることだった。



 学校である内は、そうそう命の危険はないが、騎士として育ってしまえば最前線は当たり前の環境だ。

 いくら鍛え上げた騎士とはいえ、毎年殉職者は何人も出ている。

 そのリストの中にフェイトが決して入って欲しくない----それは子を持つ親としては、当たり前の感情だった。




 それ故、フェイトの入学にこそ間に合わなかったが、こうして無事に支援役をフェイトに贈ることができた。

 少々口喧しいのは、これから家族と離れ、小言を言う人間が少なくなった時のためを思ってだ。

 卒業までにどれだけ信頼出来る仲間を見つけられるか、分からなかったし、仲間であっても言い辛い事はある。

 だが、機械の身である「シン」ならば遠慮なく言えるのだ。

 まさか愛剣を自分で砕く騎士がいる訳がない。

 よって口に出さないだけで、この「シン」は両親の愛情の塊なのだ。----その背景を聞かせられたからこそ、シンは最初に言ったのだ。

 「あなたは両親に愛された子ですね」と。





 結局、フェイトには半分も伝わっていないだろうが、大事にはしてくれるみたいだ。

 アイリスも呼び、自室でシンと三人で語らう。


 「覚えたか?こっちが妹のアイリスだ」


 「もー機械ですから一度聞けば覚えますよー。アイリスですね、初めましてこんばんは」


 「よろしくね。お兄ちゃんだと使い方荒いかもだけど」


 「なんだとー?」


 「そうですよそうですよ、すみやかにクリーニングを要求しま--」


 ばふっ


 枕に押し潰され、また沈黙するシン。


 「……お兄ちゃん、頑張って」


 「うーん、悪い奴じゃないんだけどなー。……なんていうかあれだよな?」


 「あれだね」


 「なんですかー二人して苦笑いするなんてー」


 点滅させ、ブーブー言ってくるシンを見ればそれは苦笑もしたくなる。



「「ワガママ」」



 その後、不貞腐れたシンを相手に宥め続ける兄妹の姿が、平和な一軒家の中で夜中まで行われていた。



■■■■■■




 翌日


 「おはよ、フェイト----フェイトが剣を持ってきてる!?」


 開口一番に驚かれたが、折角なので紹介しておく。


 「おはよ、ピア。こいつがやっと帰ってきた俺の愛剣、ブレイヴフェニックスだ。よろしくな」


 「おはようございます、あなたがピアですね?御友人のことは昨夜の内にフェイトから聞いておりますので」


 「剣が喋った!?」


 ピアが教室で予想以上に大きな声を出したため、目立ってしまい教室中の視線がこっちに集まる。


 「別にバレたっていいけどな、どうせシンは直ぐ喋るだろうし」


 「そうですよー、授業の時に分からない事を教えたり、テストの答えを教える位しか私授業中は喋りませんよ?」


 「最初はともかく次の機能はいらないからな!?不正が見つかったら俺停学だぞ!」


 そんな漫才を見せられて、まあフェイトなら何でもありかな?と思ってしまうピアは、達観の域に入ったと言ってもいい。


 「おはよーフェイト、ピア。……ん?フェイト、ついに剣を持ってきたか」


 「初めましてゲイト、あなたのことも勿論聞いてますよー。私はシンです、よろしくお願いしますねー」


 「剣が喋った!?」


 ……ピアと全く同じ反応をありがとう。

 こうして転入生デビューならぬ、剣のデビューは鮮烈な記憶としてクラスに刻まれた。




 HRが始まるまで時間があったので、友人二人に説明を軽くしておく。


 「なるほどなー、それでずっと剣を手放してたのか」


 「それに並の剣じゃ試しても砕けてた、ってわけね。どうりで予備の剣を持ち歩かない訳だわ」


 魔力さえ込めなければ木刀であろうが、なんだろうが振っただけで砕けないが、魔力を込めれば別だ。

 魔力を流す石や金属は限られているため、あまり市販されていない。

 以前買った「ホークル」はそういった意味ではとても珍しい品だったのだ。

 --もっともあれは、普段使わない材料で打ってみたい、という刀匠が作っただけの代物だろうが。


 「その点、ベースとなっているブレイヴフェニックスは優秀ですよ?何せフェイトのお父さんが一から合金を始めて作りあげた超合金、いや錬金術の結晶の賢者の石並に苦労を掛けた金属ですからね」


 シンがこんなことまで聞いているとは意外だった。


 「賢者の石って未だに誰も作れてない代物だろ?!なんでそんなのに近いのを作れるんだよ?」


 興味津々の様子のゲイトだったが、シンはアッサリかわす。


 「さあ?私も話を聞いただけですので、作り方とかは知りません。いっそフェイトが聞いてみては?」

 

 「御断りだ」


 そんな問答を続けていると、ギルバード先生が教室に入り、雑談の時間も終わる。




 その後、レイと合流するや否や、


 「あなたがレイですねー。初めまして----」


 とまたフェイトが紹介するより先走って挨拶するものだから、困ったものだった。





 「……世にも珍しいな、武器にデバイス装着しているなんて始めてみたぞ」


 実際の所支援デバイス、というもの自体はある。

 だが、高価ということもあるし、ペンダント形式や、ピアス式等少なくとも武器に搭載されたことはないようだ。

 放課後に会いにいったアマリリスを以ってしても珍しいと断言されるシンは、よほど珍しいのだろう。


 「はいはーい、私もその模擬戦見たいです。私が記録録れば見返して学ぶ時とかバッチリですよー」


 なんなくいうシンだが、録画機能と再生機能まで付いてるなんて聞いてないぞ。


 「そうだな、明日はいよいよ個人戦が始まるし、フェイト君も久しぶりの愛剣のブランクを取り戻した方がいい。また実戦形式で始めようか」



 そして、この2日間繰り返し行われてきた模擬戦が再び始まる。


 「フェイト、現在からみて左に半歩ズレて!攻撃、きます!!」


 シンの警鐘に従い左に半歩ズレると----果たしてそこには、予知されたかのようにシンの言った通り攻撃が届いた。


 「くっ?」


 昨日まではない動きで攻撃をかわされたアマリリスに、狼狽が浮かぶ。


 「フェイト、魔力を解放した後、スプレッドボムで攻撃を推奨」


 「だめ、魔法は使わない予定なの」


 「そうでしたか、なら次の攻撃はピアとゲイトが正面より、フェイトとレイが挟撃を取ると難しい形になります」


 「そうなのか?ゲイト、ピア!正面から!レイ、行くぞ!!」


 仲間全員が阿吽の呼吸で一斉攻撃を仕掛ける----が、アマリリス相手に捌かれてしまう。


 「ダメだったか」


 「とはいえ、先輩の反応がコンマ零8秒鈍いです。恐らく正面の双剣に無意識ながらの苦手を感じているのでしょう」


 

 はー、とため息を付きたくなる。

 自分達はそれを感覚で、何度もぶつかって覚えるはずが、シンはデータを整理するだけで見つけてしまう。

 それも自分達よりも早く、確実に----

 これが、支援デバイスの有無の差。

 思わず戦闘の思考全て丸投げしたいとさえ、思ってしまう。

 だが、そんな事を先読みしたのか意地悪くシンが先回りする。


 「ダメですよ?私にお任せは?支援はしますが支援です。先みたいに魔法を使わない、という制約や条件を考え、その中である程度の動きをするのがフェイトの仕事です。

 私は、あなたの指示をよりスムーズに達成させるための部品なのですから、自分で考える事をお忘れなく」


 「……分かってる」


 本当に口喧しい相棒だ。


 「とはいえ、指示は大歓迎です。命令受けるの大好きですからね、先輩のふとももを最高画質で録画しろと----」


 ミシッ!


 とまた嫌な音が鳴り、シンが黙る。


 「……よし、今日はこれ位にしておこう。明日は個人戦もあるし、ヘトヘトになっては戦えないからな」


 軽く2時間程で解放されたフェイト達だったが、フェイトとしてはもうちょっと剣を振っておきたい。


 「先輩、1対1でお願いしていいですか?」


 皆が驚いた表情でフェイトを見つめるが、アマリリスは挑戦的な笑みで答える。


 「手加減してもらえると思うなよ?」


 「ハイ!宜しくお願いします!!」




 「さて、フェイト君。ルールはどうする?」


 アマリリスが確認を取ってくるが、フェイトはなるべくならば明日以降を見据えた練習をしたい。--ならば、


 「先輩も真剣を使い、俺も魔法を解放する、でどうですか?」


 シンッ----


 フェイトの提案に息を飲むレイ達。

 おそらく実戦も実戦、殺さないというだけで本当に大怪我を負う覚悟をした上での発言のはずだ。

 この数日でまだまだフェイトもアマリリスに及ばない、ということが分かっているはずなのに、無謀な挑戦を仕掛けている。


 「……いいよ、ただ、数秒で終わっても文句はなしの、一本勝負ね」


 「望むところです」


 フェイトも挑戦的な視線に炎をたぎらせ、それぞれ間合いを離し距離を取る。


 「……フェイト、正直あなたの実力では勝率は0%です。魔法を使う暇さえありません、よって私も支援しきれるか--」


 「シン、録画はお願い」


 「……ハイ」


 マスターの意図を察したのか、シンはそれきり黙る。


 「では、始まりはこのコインが落ちたらにしようか」


 アマリリスが懐からコインを取り出す。

 コクン、ともはや声すら出さず集中力を極限まで研ぎ澄まし、アマリリスの神速に備える。


 「……いい覚悟だ、魔法を暴走させても私が抑えてやる。--全力で来い!!」


 キィン----


 コインが華奢な指から弾かれ、宙を踊るように舞う。--そして、舞姫が着地をみせるや否や、



 アマリリスはその場から消えたように消失し、フェイトが遥か後方へと吹き飛ばされていた。





 「い、いてててて」


 指一本動かすことすら叶わず、フェイトは完敗を喫した。

 初日に見たあの瞬間移動と見間違う程の移動ですら、アマリリスの本気では無かったのだ。

 今日視認することすら出来なかったアマリリスの本気は、フェイトの10倍は早かった。

 先んじて自己加速魔法の最大値の5倍まで掛けておけば対処は出来ただろうが、それでも勝機が見いだせると楽観すらさせてもらいない程、手が出せない領域だった。


 「ご、ごめん。本気でって言われたから本気出したんだけど……一応、峰打ちだよ?」


 アマリリス先輩に謝られると、何か申し訳がない。

 

 「フェイトが悪いのよ、身の程弁えなさいよね」


 レイがプンスカ怒ってくるが、それでも瞳の奥に優しさが見えているので大して怖くない。


 「そうね、クロ先輩位になると今の止められるかしらね」


 校内最強の一角はやはり伊達ではないらしい。本当に追いつけるのだろうか?


 「大丈夫、フェイト君才能あるしきっと追いつけるよ」

 

 「先輩、聞いてみてもいいですか?」


 「何?」


 朗らかな笑顔を見せ、こちらの質問に真っ直ぐ答えようとするアマリリス。


 「俺、強くなりたいんです。心も、体も。--だから、校内戦が終わっても稽古をお願いしてもよろしいでしょうか?」


 アマリリスには驚きの提案だった。

 校内戦が終わるまで、……そう勝手に思い込んでいたのだ。

 でも、フェイトはそんな壁を軽々乗り越え、入ってきてくれて、手も差し出してくれた。

 --とはいえ、お姫様を助け出せるような王子様の手にはまだ遠いようだから、これからに期待するとしよう。


 「いいよ、フェイト君。一緒に頑張ろうか?」


 「ハイッ!!」




 赤魔騎士と、騎士姫は小さな約束を交わし、ついに念願の校内戦へと舞台は移る----

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