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フライト<また逢う日まで>

 「ここで、フェイト達にお知らせがあります」


 送別会も終わりに近づいている頃合いの中、ディーバが高らかに宣言した。


 「どうしたんだ?ディーバ?」


 勿論フェイトも含め、誰も聞いていなかったので驚きもひとしおだ。


 「えー、コホン。私、ディーバの今後の活動の方針の一つになりますが、今回大変お世話になった騎士学校ナイツォブラウンドへの定期公演の方が、決定致しました」


 その場にいた誰もがポカン、とした呆気に取られた表情のまま固まる。


 歌姫ディーバの公演といえば入場料だけでウン百万の世界であり、公演を開くとなれば最低数十億単位の費用が発生するのだ。


 それほどまでにディーバの人気は凄まじい。


 そんなディーバの公演が定期的に一騎士学校で毎年公演されるのであれば----来年の入学希望者は百倍では効かない程増加するのではないだろうか?


 「実際の費用はそれほど掛かっていないから、学校側の負担はほぼなし。言ってしまえば私のネームバリューが大きくかさばっているだけだから、その私が額を吊り上げなければ十分大丈夫なはずなの。

 とは言っても舞台装置全部を引っ張ってくると費用もかさむから、学園祭ライブみたいな形にしたいって考えてるの。どうかな?」


 どうかな?と言われても、ディーバはその神秘の歌声から舞台を行うことも多々あるが、本業は歌である。


 それがライブだけで済むのならば本当に学校の費用で賄える。


 まだまだ呆気に取られて誰も話せない中、ディーバだけが言葉を続ける。


 「それでね、入院中ギルバード先生と相談していた結果、その学園祭実行委員をフェイトにやってもらいたい、ってことで進めたの。--それが今日部屋に先生がいた理由」


 ……なんということだ、ディーバはフェイト達に隠れてこんなに大きなサプライズを用意していたのだ。


 それにギルバード先生も人が悪い。わざわざフェイトを指名するのはディーバがそうでなくては嫌だと思ったからだろう。


 それを同意させ、纏め上げるとはやはりやり手の先生なのかもしれない。



 「で、これがその正式な書類。「私、ディーバはこれより5年間の間、恩義を頂いた騎士学校ナイツォブラウンドにて毎秋学園祭ライブを行うことを誓う。--但し、舞台のテーマ、及び設備費用に関しては実行委員と協議において決めるものとする。そして、実行委員についてはこちらが指名した人物に一任させること。上記二点が履行され続ける限り、この契約は施行される」。ね?」



 なんと、学校側との正式な書類まで用意していたのだ。


 そうか、これを渡すために今日ギリギリまで粘ってようやく形にして、ディーバに届けることが出来たのか。


 「で、条件はその通り、私だけが決める舞台じゃなくて学生らしく学園祭を創って欲しいの。あくまで私はゲスト。

 --それで、その実行委員を、フェイト、貴方に引き受けて欲しいの」




 これは参った。

 

 こうまで言われて引き下がれば、男として、騎士としての威厳に大きく関わるだろう。


 ……というより、この契約を破棄した場合全校生徒と全教師を敵に回すようなものだ。


 逃げ道なんか元からない、でも嫌じゃないし、むしろ心地よい程だ。


 フェイトは瞼をしっかりと見開き、ディーバを見つめて答える。


 「では不肖ながら、フェイト・セーブ。学園祭実行委員としてディーバを毎年ライブで招く事を誓い、その舞台のために全力を尽くして行動し、最高の学園祭を5年間続ける事を、ここに誓います!!」



 これは騎士の誓いとは程遠いけれど、またディーバと誓いを結ぶ事が出来た。


 ディーバにとっても縁であるし、フェイトにとっても縁である。


 どうやらこの二人には切っても切れぬ縁が、古よりあるらしい。

 

 「またよろしくな、ディーバ」


 「こちらこそ、今度は対等な関係で」


 パチパチパチパチパチ----


 送別会は大成功のまま、終わりを迎えた。





 やがて片づけを終え、フェイト達は解散となった。


 「それじゃフェイト、私達は私達で戻るから、ディーバをキチンと送ってきなさいよ」


 レイにそう念押しをされ、フェイトは外でディーバと二人になった。


 「ディーバどうだった、今日は?」


 ディーバの横顔を伺いながら感想を聞いてみる。


 ディーバは満面の笑みでこう答えた。


 「最っ高に楽しかったよ。ありがとね、フェイト」


 皆がディーバのためにと色々用意し、そしてディーバも負けじと用意したサプライズがあり、結果的に大いに盛り上がったのは大成功だった。


 そして星空を見つめ今日という日を満足に想い、刻みつけているディーバにフェイトはこう声を掛けていた。


 「ディーバ、また空を飛んでみるか?」 


 えっ、と軽く戸惑う声が返ってくるが気にしない。


 「地上で星を眺めていても遠い、それならもっと近くに見える空から見た方がきっとキレイだから」


 スッ、と再び手を拝借するように差し出す。


 そんな仕草にクスッ、と微笑むとディーバはしずしずと手のひらを重ねてくれた。


 「行きましょう、フェイト?太陽と緑を見せてはくれたけれど、星と月は見せてもらってないからね」


 「御意、どこまででも飛びましょう。ディーバ姫」





 「わあっ!!星が近い!!」


 そうはしゃぐのは背中におぶさっているディーバだ。


 「実際の所星は宇宙のさらに遠くにあるから、これだけ高く飛んでも届く事はないけれど、それでも地上から手を伸ばして届かない星よりも、空から手を伸ばして掴めない星の方が面白いだろ?」


 「確かに!星っていつまで経っても届かないのね……何だか不思議、だからこそみんな星や月を神聖視するのかしら?」


 「理屈はそうかもしれない、人がいつから時を刻む事を覚えたのか、いつから占星術なんてものを編み出したのか、そんな事はきっとどうだっていい。大切なのは、この星空がいつまでも変わらなく綺麗であることと、それを感じる心が続くことだと思うからさ」


 「……フェイトって前から思ってたけれど、ロマンチストなのね」


 背中で苦笑している気配がするが、フェイトは表情を崩さなかった。


 「いいんだよ、そもそも騎士を憧れて選ぶ時点で大体が夢見がちなのさ。人が星を愛でる心も大切だけど、夢を見る事だって同じ位大切なんだ」


 「フェイト--最高にくっさい、これだけ綺麗な夜空と星に酔っちゃったのかしら」

 

 「な、べ、別に----」


 「でもそれがいいと思う」


 ギュッと不意に肩に掛かる力が強くなる。先よりも体温を感じられるのは、ディーバが頭をフェイトの背中に埋めているからだろう。


 「私は明日この空を渡って遠くに行っちゃう。…………でもね、フェイト。私達はこの空の下で繋がっているの。学園祭の約束なんかなくたって、絆があるって信じてる」


 きっとディーバは不安なのだろう。


 自分で決めたとはいえ、また一人になってしまうこと。もう人形ではなく自分で考えて行動していくことの怖さ。


 それは過去の歌姫の姿とは異なり、今度は自分の足で立たなくてはならないのだ。


 だからこそ、今日だけの仮初の騎士はディーバの手に自分の手を重ね、想いが重なるよう伝える。


 「ディーバ、俺達は繋がっている。ディーバが呼んでくれたのならば、俺は地球の反対側にだって飛んでいこう。俺は……俺は、ディーバの騎士……であって、あったのだから」


 震える声を無理やりに抑えつけそれを悟られないよう奮い立たせる。


 ディーバから返事は無かったが、漏れてくる息遣いが静かにリズムを刻んでいることが伝わってきたので、安心してくれたみたいだった。





 しばらくの夜空の散歩を終えた後、フェイトは再び病院へと戻った。


 時刻は23時と、やや遅い時間帯になってしまったが、明日は予定通り早朝からの出国である。


 「ディーバ、忘れ物とかないか確認しておけよ?忘れ物あっても届けるには時間が掛かっちゃうからな」


 そんな冗談を交えながら、フェイトはディーバとの名残を惜しむ。


 「大丈夫、今日皆からもらったものは、ずっと、ずっと大切にする。生涯の宝物だから」


 笑顔で答えるディーバに、もう心配はいらないようだ。


 「とはいえ、毎年プレゼントは増えそうだがな。まあ取っておける範囲で取っておけよ、いつか箪笥を圧迫するぞ?」

 

 「大丈夫、箪笥も部屋も私が本気になったら国ごと買えちゃうんだから」


 あながち冗談に聞こえないのが怖い所だが、フェイトは苦笑で返すことにする。


 「それじゃまた明日、朝に迎えに来るから」


 「分かった、……おやすみなさい、フェイト」


 何か熱っぽい瞳で訴え掛けられるが、こういう時はどうするのが一番良いのだろう。


 騎士としてならば手のひらにキスがあるし、友達としてならば頭を撫でてやるのもありか。



 --恋人だったら?



 そんな妄想はすぐに捨て、時計を確認するとまだ時刻は零時を回っていないようだ。


 フェイトはディーバの左手を拝借すると、掌に軽く口づけを添える。


 「おやすみなさい、ディーバ」


 ディーバの表情は上手く表せないが、強いていうならば概ね満足、といった表情だ。



 --それ以上の詮索は彼女の内面に踏み込み過ぎるので、長居をすることなく病室を後にする。


 「今日はいい夢が見れますように」


 そう小さな呟きを祈りの言葉とし、フェイトも自宅へと戻った。



■■■■■■




 翌朝


 アイリスやリードは通常通り学校に行くということで、見送りはフェイト、レイ、ピア、ゲイトの四人だ。


 ちなみにリードが学校に本当に行くのかは分からないが、そんなに詮索する意味はないだろう。


 朝8時の便で発つということで、空港まで行く時間を考え7時には空港に着くよう予定を考えていた。


 まずはディーバを迎えに行き、学校にて三人を拾ってから空港へ。


 朝の病院の廊下は澄み切った空気と、隠しきれない薬品の臭いによって満たされていた。


 とはいえ、早朝の澄んだ空気は良いもので、すっかり目が覚めた。


 病室の前に着くと、深呼吸をした後、コンコンッと規則正しくノックを刻む。


 「フェイト?入って」


 中から呼びかけがあったので入室すると、そこには校長であるライト・ローリングその人がいた。


 「こ、校長先生!?これは失礼致しました、フェイト・セーブ、ただいま馳せ参じた次第にあります」


 即座に敬礼を欠かさず、校長の方に向き直ると手で制された。


 「今日はいい、ディーバ姫の御前であられるからな」


 「ハッ、失礼致しました」


 とはいえ、踵をそろえるようにキチンと背筋を伸ばすフェイトを見たディーバは、珍しいものを見たとばかりに吹き出すのを堪えている。


 「では校長先生、この度は大変お世話になりました。学園祭の件も無理を聞いてもらってすみません」


 「いえ、我々は義務を果たしただけです。それに学園祭の件では我々の方が姫にご配慮して頂いた結果に御座いますため、我らの方よりお礼を申すことはありましても、姫からお礼のお言葉を頂戴するなどこの身に余る光栄でございます」


 恭しく礼を取るライトの姿は、騎士であると同時に政治家であるようにも思える。


 最もアルト王も厳密に言えば政治家なので、騎士も昇り詰める所までいけばこういった案件も必然増えてくるのだろう。


 「それでは、姫の我が国最後の御滞在の時間ですので、どうかご友人方とごゆるりと。--フェイト、ディーバ姫の護衛をしっかりと頼んだぞ」


 「ハッ!!この身に代えても必ずや!!」


 「では、失礼致します。今秋再びお会い出来ることをこのライト・ローリング、僭越ながらも楽しみとさせていただきます」


 「ええ、それはフェイトにお任せしますので、--それでは、また。私の警護にあたって下さった先生方にも宜しく伝えていただきますよう、お願いします」


 「勿体なきお言葉……皆に良きよう伝えます故。それでは失礼致します」




 なんだか、早朝から疲れてしまったがどうやら校長先生もディーバと最後に挨拶を交わしていたようだ。


 「ビックリしたよ、まさか校長先生がいるとは」


 「あ、ごめんね。伝えるの忘れてたけれど、今日出立の朝には是非数分だけでも、って時間を取ってもらってたから」


 「おや?ディーバからか」


 「そうよ?何か悪い?」


 挑戦的な視線でこちらを挑発するディーバだが、フェイトは参ったとばかりに両手を上げる。


 「朝からそんな元気はないよ、それに時間も時間だ。…………そろそろ、行こう」


 「…………ええ」


 なんだか寂しげに窓の外へと視線を移すディーバ。


 この病室ともそこそこ長いが、本当はこの国の景色を焼きつけておきたいのだろう。


 無理に焦らすことなく、ディーバの気の済むまで待ち続ける。


 ----やがて、ディーバはこちらに向き直り、旅行鞄を持ち頭を下げる。


 「フェイト、やっぱり2人きりの時に言いたかったから今言うね。----本当にありがとう。騎士を務めてくれて、友達になってくれて、それにこうやって色々と迷惑かけてるのに側にいてくれて」


 ディーバのストレートなお礼に少々面食らってしまったが、フェイトは気負わず答える。


 「いいさ、俺だってディーバと出会えて楽しかったし、これからも楽しいと思う。別れは悲しいけれど、次に会う時はもっともっと成長してるから。だから、その姿をディーバに見て欲しい」


 ディーバは言葉に詰まり、涙を我慢していたようだが、涙は決壊をしやがて溢れんばかりに滴り落ちる。


 「……ありがとう。私も、私も次に会った時にはもっともっっと!成長しているからね」

お互い頷き合い、確かめ合う。--また再会する約束を。


 「それじゃ、行こう」


 フェイトはディーバの鞄を持ちつつ、手を繋ぎ一緒に病院から歩きだす。


 隣り合って並んで歩く姿は、騎士と姫というよりは、仲の良い友達という絵図であった。




 途中学校に寄って三人を回収したが、昨日語り尽くし、騒ぎ尽くしてしまったせいか皆口数が少なく感じる。


 それとも別れが間近に迫ったからこその緊張で、口が重くなっているのだろうか?


 とはいえ、飛行魔法を使えば空港に着くまでも時間はそうかからず、沈黙らしい沈黙を気にする時間はほとんどなかった。


 空港に到着すると、早速手続きを開始する。


 「えっとここでチケットを受け取って、あそこで荷物検査をして、で通り抜けると搭乗口と待合室だな」


 ディーバに分かり易いよう説明をし、後は出発の時間を待つだけとなった。


 現在7時20分と、出発の10分前には機内に居たいことからも、最後の猶予は30分となっていた。


 「ディーバ、絶対秋には帰ってきてね?」


 「っていうかディーバ、なんかあったらすぐ連絡しなさいよ?飛んでいくんだから」


 「怪我と病気には気を付けろよ?後苛められたりとかしたらすぐ言えよ?」


 等と皆それぞれ心配をしている。まあ心配する事が悪いことではないが、それ以外はないのだろうか、と。


 「大丈夫、皆心配しすぎだよー。これからの私は挑戦なんだから、もっと前向きに応援してくれなくっちゃ!ね、フェイト?」


 「そうだぞー?お前らも心配なのは分かるけど、巣立ちの時は心配じゃなくて応援の方が似合うんだぜ?」


 フェイトと、ディーバ本人にもそう言われたのならば応援するしかあるまい。


 「……分かった、ディーバ世界を取ってきなさい!!」


 「レイ、ディーバは既に頂点を取った、ゲフォ!?」


 「じゃあ次は宇宙一ね!」


 途中何があったかは、想像にお任せしたいがとにかくもディーバも笑って巣立てそうだ。





 楽しい時間も、名残惜しい時間もそれは早く過ぎるもので、いよいよディーバと一緒にいれる時間は後僅かとなった。


 「……皆、ありがとう。私、友達ってフェイト、レイ、ピア、ゲイトが初めてで……最初は本当どうしていいのかすら分からなかったし、迷惑かけたりもしたけど、それでも今こうやってずっと友達でいてくれてる皆が最高に大好きだよ」


 ウンウン、と感慨深げに頷く皆だったが、フェイトは最後の最後でとっておきのサプライズを明かす事にした。


 「さて、本当は昨日伝えても良かったんだけど、実はまだ渡すものがあったんだよね」


 おやっ?と皆の視線が一気に集まるが、時間がないため余韻を引き伸ばしている暇はない。


 「ディーバ、俺がプレゼントしたネックレスの箱、今出せるか?」


 「ちょっと待って……これ?」


 荷物鞄の方ではなく、すぐ取り出せるポーチの中にフェイトからもらったケースを忍ばせていた。


 「そう、それ。……ディーバ、それただのケースにしては重くないか?」


 ふと疑問顔だったディーバだったが、そう感じていたのか素直に頷いた。


 「中のクッションをどけてごらん?」


 ディーバは言われるままにクッションを取り外してみると----




ポロン、ポロン----ポロン




 これは?そう思うと同時に、ディーバは思い当たった。

 

 このオルゴールの曲、メロディー、確か----



 「そう、ディーバがくれた「名も無き詩」。世界で俺だけのために謳ってくれた思い出の歌だ」


 「で、でも--なんで?」


 歌は即興で心を込めて謳ったものであり、記録などは一切していないのだが。--それでも、今聴こえてくる限り、あの時の歌そのものだ。


 「両親が発明家でね、過程は省くが色々とやってあの時の記憶を再現してそれをオルゴールにしたんだ。----どうかな?」


 どうかな、なんて----こんなの、反則だ。


 「フェイトぉ、……反則よ、こんなの」


 すっかり涙もろくなってしまったディーバは、今また堪えることが出来ずに涙を流し続ける。


 フェイトと出逢ってまだ一月も経っていないというのに、これだけ濃密な付き合いを重ね、ある時は励ましてもらい、ある時は怒られ、ある時はからかわれ、ある時はとても悩み、ある時は悲しんだ。


 そして友達をもらい、声をもらい、涙をもらい、考えることをもらった。


 それは全てこの少年騎士----称号「赤魔騎士」を持つフェイトと出逢ったからこそ授かった、運命と呼べる程多くのギフト。




 この思い出と共に、私は前に進もう。


 泣きじゃくりながらも、それでも今言葉を返さないともう時間に間に合わなくなってしまって、この瞬間の言葉を伝える事は一生出来なくなってしまうだろう。



 --涙を勇気に変えて


 

「フェイト、大好きだよ!!!!」






 飛行機内


 窓側の席だったため、今はまだ空港内が見える。


 そして、空港の屋上には見送ってくれる四人の大切な友達。


 皆私が見えてるのかな?……いや、魔法が使える騎士がいるんだもん。


 あの日、声にもならない声を拾い、私を探し当ててくれた伝説の騎士がいるのだ、きっと今もまた私を探し当ててくれているのだろう。


 ゲイトはジャンプしながらすっごく大きく手を振ってくれているし、レイもピアもなんだか顔をクシャクシャにしながら手を振ってくれている。


 フェイトはその意志の籠った大志の瞳で見送ってくれていることだろう。


 ついに離陸のための滑走が始まり、角度が変わって皆が見えなくなってしまう。


 ふと、思い出したようにフェイトからもらったオルゴールを奏でる。


 今見えなくても、オルゴールが奏でるメロディーに身を委ねていれば、皆とも繋がっていられると思ったからだ。





 あの日フェイトに贈った、初めて自分が心の全てを込め、自分で詩を紡ぎ、歌を謳った曲。


 いつかこの曲にもタイトルをつけてあげたいと思う。あれだけ心を込めた歌が「名も無き詩」では可哀想だからだ。


 やがて、自分で完成させたメロディーが終わり、オルゴールはまた同じメロディーを繰り返す



 --そう思っていたが、



 「あれ?」


 メロディーが違う?ディーバも自分が歌ってきた数々の曲を思い出してみるが、そのどれもが違うと思う。


 「もしかして、オリジナル?」


 そう考えると納得できた。それにしてもオリジナルの曲まで一緒に入れてくれるとは、どこまでサプライズが好きなのだろう。


 そっと苦笑しながらも、小さなクッションを手で転がしていると、ふと違和感を感じた。

クッションの感触の中に、小さな紙の感触が張り付いていたのだ。


 気になってすぐに確認してみると、案の定クッションの裏に紙片が貼り付けられていた。

何が書いてあるのだろう?早速紙片を広げ読んでみる。


 「次の学園祭での曲を封入します。「small world」。いい歌詞を付けてあげて。 <ディーバの心の騎士 フェイト>」




 「もうっ…………バカッ」

 

 何度泣かせれば気が済むのだろう、あの鈍感少年は。


 今はもう見えない、空の遥か下にいる鈍感な心の騎士にディーバは気丈に宣言する。


 「次に会ったら、私が泣かせてやるんだから……覚悟してなさいよね、フェイト」


 いつかフェイトと飛びまわったあの日の空と同じ、太陽に向かってディーバを乗せた飛行機は飛び続けた。




 どこまでも澄んだ広大な青空には、旅立つディーバを祝福するように七色の虹が架かっていた----

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