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禁呪<冷たき檻に囚われた姫>

 「どこだ!?」


 宿の外に出て辺りを見渡してみるが、ディーバの姿も、黒服の姿も見当たらない。


 「いや、奴らは車を使うはず、なら大通りの方か!」


 予測を付け駆けだし始めたフェイトの視界に、見慣れた少女の姿が映った。


 「リード?」


 魔法学校に通うフェイトと同学年の少女は、以前もこの町で再会したことがありどうやらこの町でよく見かけるようだ。


 「リード久しぶり、久しぶりの所すまないがこの辺りをディーバ、……いや歌姫ディーバか黒服みたいな連中が通らなかったか?」


 言葉少なにこちらが急いでいることが分かってはいるのだろう、けれどリードはゆっくりしや喋りを崩さずに、


 「通りに行った、よ」


 「そっかありがと」


 確認が取れたことからフェイトは駆け足を早めてディーバの後を追おうとしたが、走りだした瞬間袖を引っ張られる。




 振り返ってみれば案の定リードがフェイトの袖を引っ張っており、先に進めない。


 「済まない、リード。今急いでいるから用事があるなら後に--」


 「ううん、フェイト、せっかち。私、手伝うよ?」


 「リードが?」


 そういえば以前この町が襲われた時もレイに協力をしてくれたみたいだし、リードも案外お人よしの類いなのかもしれない。


 「分かった、ただ急いでいるからすぐに行くぞ」


 「うん」


 フェイトのダッシュには正直魔法学校の生徒であるリードが着いていくだけの脚力は無かったのだが、リードも然したるもので、自己加速魔法により重力をある程度操りこちらのスピードについてきている。


 後ろを気にしないようにしつつも、気にしながら大通りに出るがディーバ達らしき影は見当たらなかった。


 「くそっ、どこへ……」


 「フェイト、事情、聞かせ、て、手助け、出来る、かも」


 「あ、ああ」


 フェイトはざっとディーバが狙われている環境と、その狙ってきた相手についてリードに説明した。


 「……なら、飛行船、使うかも。別荘、なんてこの辺り、に、無い」


 「飛行船か」




 確かにこの辺りは気候は安定しているが、別段リゾート地でもないため観光に向いているわけでもない。


 そして飛行場は北ゲートから続く道の先にある。となれば


 「北ゲートだ、北ゲートを出ようとする車のどれかにディーバも乗っているはず。飛行魔法で追いかけるぞ!」


 「フェイト、私、光学魔法、で、透明化、できる、よ」


 「なんだって!?」


 光学魔法とは火と風の応用魔法の一種でもあるが、その中に透明になれる魔法なんてものは現在登録されていない。


 もし、登録されようものならこぞって覚える魔法師が多数殺到するだろう。


 透明になれる、ということは古くから隠密や犯罪に繋がるものが多く国家情報の流出に絡む案件すら出て来るに違いない。




 最も過去に透明化魔法の実験は在ったらしいが、そのどれもが失敗しているそうだ。


 風が吹いたり、雲が太陽を覆うだけで度重なるエネルギー調整が必要となる上に、こちらは見えていないのにこちらからは見えていなくてはいけないという、現象に相反する矛盾を生みださなければならない、この世の理に背く行為だからだ。


 単純に言えばこの世界では透明になれない、というルールが世界に設定されているからこそ誰も出来なかったものが、リードの力はそれを捻じ曲げルールの抜け道を作ったか、ルールを書き換えたという恐るべき発見をしたのだ。


 驚くべきことだが、それでも今はディーバの方が優先。リードには今度色々聞けばいいだけのこと。


 「分かった、リード頼む」


 「うん」


 そうして飛行魔法と透明化魔法という組み合わせにより、大空に姿を晒す事無く飛びあがった。





 「北ゲート確認--いた!あの黒塗りの車か!!」


 思ったより時間を取られていたせいか、見つけた車は今北ゲートを通過した所だった。


 「他には車は見当たらないし、間違いないな。すぐに仕掛けるぞ」


 「フェイト、ディーバにも、当たっちゃう、よ?」


 「--そうだな」


 タイヤをパンクさせるだけだろうが、最悪車が横転して大事故に繋がる可能性も無きにしもあらずだ。


 「なら姿をみられていないアドバンテージを活かして、飛行場で俺が待ち構えて、リードが透明のままで潜伏してディーバを助けてくれないか?」


 「いいよ」


 「ありがとな、リード」


 「ううん」


 リードにあそこで会えた事は本当に僥倖だった。そうでなければ少なくとも運が絡んだ救出劇になっただろう。


 「なら先回りだ、行くぞ!!」


 そうしてフェイト達は飛行場へと先回りする。





 「ファファファ、ディーバちゃんは可愛いねぇ。いや、これから先ディーバちゃんが私のためだけに声をあげてくれると思うと--いやいや堪らないな」


 下卑た笑い声を抑えることもせずに、笑い飛ばすジェラルミン。


 黒服に身を包む四人の元騎士は表情を変えず周囲を警戒し続ける。彼らは今は国王の騎士ではなくこんな肥え太った貴族に雇われる犬のような騎士。


 それは当初は屈辱だった。……しかし時が経つに連れ自らが何故騎士を選び、何故こうも堕落していったのかは思いだせず、ただただ日銭を稼ぐためだけに働く毎日。


 時としては過去の仲間と顔を合わせる機会もあったし、時としては剣を交え雇い主のために命を賭けたこともある。


 ディーバを連れ去るような事柄も別段変わったことではない。他にも優秀な娘や、見目麗しき娘を連れ去った任務もあった。


 どの場合も取り残される側は絶望に沈んだ表情を見せ、怒りと憎しみでこちらを刺すように睨みつけるが、後に支払われる多額の金で表情を変えた親や、恋人の男達を何人も知っている。


 今回のターゲットは身寄りがなく、今までのようなことは起こらないと思っていたが今回は少年騎士がついていた。


 今までの男達と変わらず無力なのに視線に込める殺意だけは一人前、そして結局無力さを痛感し、現実には逆らえない権力という力にひれ伏す。


 力は強ければ強い程抗えない、それは大人になれば誰もが通る道、避け得られない道、そう、それこそがこの世界の真理----そのハズが。





 飛行場に到着し、飛行船のアスファルトの発着場まで車を回しジェラルミンを護衛するように車から降りると、あの少年騎士が目の前に立ちはだかる様に立っていた。--いや、現実塞いでいるのだろう。


 どうやって?とは言わない。今自分達はジェラルミンの護衛なのだから、目の前に立ち塞がるのが誰であろうと排除するのみ--





 「待ってたぜ、豚野郎」


 フェイトは男達を挑発するように、普段使わない暴言ですら平気で振り回す。


 「君は……誰だ?」


 そしてジェラルミンはこちらを寸分たりとも覚えていないのだろう。奴の目にはあの時のフェイトは蠅以下にしか映っていなかったらしい。


 だが、怒りは感じない。何故ならあの時の自分は、あの無力な自分はその存在と比べられてもしょうがない程に惨めだったからだ!


 「ディーバを、返してもらうぞ!!」


 腰に差してあった鞘からホークルを抜き、戦闘態勢に入る。


 今度は距離があるからか、四人の黒服は銃に頼ろうとせずに揃いも揃って騎士剣を抜く。


 4対1、相手は今でこそ貴族の犬に成り下がっているが、元騎士であることは間違いない。

 

 現最上級生より強い相手が4人ともなれば、剣の実力では2年生程度までしか勝てないフェイトに勝ち目はない。



 だからこそ、待ち構えていた意味がある!


 「アースシェイク!」


 既に魔法を完成させておき、待機状態にしていた上級魔法を解き放つ。





 土系統のアースシェイクは小型の地震を生み出し、範囲を指定することでその空間だけはマグニチュード6程を引き起こす。


 だが、手慣れた騎士はこちらの魔法を既に知っていれば容易く突破してくる。


 この魔法の弱点、範囲外に素早く跳躍で離脱することに--


 だが、それこそフェイトの狙い通り。


 「ディザスター!!」


 今度は風の上級魔法である暴風によって、地から離れ踏み留まる事ができない、ただの人間を一切の容赦なく吹き飛ばす。


 「うっ!?……おおお!!?」


 四人は一斉に暴風によって吹き飛ばされ、身動きも攻撃もフェイトに届かないまま、遥か後方まで飛ばされ受け身も取れずに頭から地面に叩き付けられダウンする。


 「な!何をしている!!貴様ら!早くこの賊を何とかせんか!!」


 ジェラルミンは怒鳴り散らすが、そもそも声が届くか分からない距離まで飛ばされた黒服に、それも気絶していれば声は届くはずもない。


 よしんば届いたとしても戦うだけのコンディションには、程遠いだろう。




 「くっ、貴様の目的はディーバか、なら下手なことをしてみろ、ディーバの命は----!?」


 突然ジェラルミンがふらついたと思えば、ディーバは何かに手を引かれるようにジェラルミンから離れていく。


 「ま……て……」


 よろよろと、それでも自分のものだと言わんばかりにディーバに手を伸ばす肥え太った男にフェイトは告げてやる。


 「ディーバは俺の仲間が今、助けた。お前如きが縛っていい相手じゃないんだよ!!」


 「ひっ、だ……だがこの誓約書がある限りディーバちゃんは……」


 ジェラルミンが懐から出した誓約書は、突如燃え広がり、ただの灰となって地面へとこぼれ落ちる。



 「見えんな」



 フェイトか、それともリードか。たとえどちらであっても両方であっても、人の身を紙なんかで縛ることの理不尽さに怒り、誓約という理不尽を破棄する。


 「た……ただでは済まんぞ!私に立てついて!貴様、騎士学校の生徒か、--許さん、許さんぞ必ず、ボフウォエ!!?」


 ジェラルミンへ、怒りを込めた渾身の拳を打ち抜き頬骨ごと打ち抜く。


 「黙れ、今意識があるかは知らんが権力には権力だ。……本当はこんなことで頼りたくなかったんだが、既に騎士王アルト・アヴァロンに今回の件について報告してある。そっちがその気ならばアヴァロンを敵に回すと知れ」


 意外なことに、全力で殴りつけたにも関わらず意識があったジェラルミンだったが、フェイトの言葉を聞きついに気絶した。



 


 「終わった、ね」


 すぅ、と透明化魔法を解除したリードがディーバのすぐ横に表れる。


 ディーバはリードが突然表れたことにビックリしたようで、口をポカンと開けている。


 「終わったな、……ありがとなリード。おかげで迅速に片付いたよ。ディーバも無事でよかった」


 時間にすれば1時間も経ってはいない、……しかし、あの時の絶望、引き離された孤独、フェイトという支え、友達を失った喪失感は両親を無くし、声を失ったディーバに取って二度目に大きな絶望だったことだろう。


 自分の身がどうなることかも予想が付かず、フェイトはひどく怪我をさせられ、二度と会えないと覚悟した。


 --けれど、フェイトは。……ディーバの騎士は駆けつけてきてくれた。最初から怖い目に遭わなければいい、それが最善かもしれない。


 でも、助けにきてくれた。あの時は間に合わなかったけれど、でも最後にはちゃんと間に合ってくれた。


 それはきっとお姫様を助けに来てくれた王子様の物語のように、とびきりに輝く瞬間でもあった。


 ディーバは自分の瞳に涙が浮かぶのを感じつつも、今はその喜びをフェイトに伝えたかった。



 「------フェイトーー!!!!」




 声が、--戻った。


 声を失った歌姫、ディーバ。世間知らずで友達もいなくて、それでも大人の世界でずっと歌い希望を振りまいてきたディーバ。


 どちらもディーバ。大人でもあり、子供でもあるディーバという友達、そして自分が支えると誓った歌姫。


 その彼女がついに声を取り戻してくれた。


 「--ディーバ」


 あまりの嬉しさに、こちらも涙ぐんでしまう。--参ったな、支える立場の騎士なのに。


 「フェイト!!」


 ハッキリと聞こえる、こちらを呼ぶ済んだ声。


 どこまでも遠く、伸びやかに、喜びに満ちた涙声。ディーバが今生まれて初めて出した本当に嬉しいと思った声。


 まるで雛が産声を上げたかのように、生命に満ち溢れた声と表情でこちらに駆け寄ってくるディーバ。


 フェイトはそれをゆっくりと抱きとめようとして------





 世界が、氷に覆われた。




■■■■■■




 「…………え?」


 理解が追いつかない。


 ディーバは、ディーバは今ようやく解放され、過去のトラウマさえも越えようやく生まれ変わったんだ。


 そんな若雛のように無邪気で純粋に、こちらに駆け寄ってきたディーバは、永遠に触れ合うことができない氷の中に閉ざされている。


 「……ディー……バ?」


 なんだ?何が起きた?何が起きている??


 目の前に触れられそうな氷の壁、いや、自分が手を伸ばす事を恐れているからこそ触れられない氷の壁。



 だって、ディーバがコンナコオリノナカニイルナンテ--



 「フェイト!!」


 大声で名前を呼ばれ、ハッと我に返る。


 「フェイト、思考を止めちゃ、ダメ。これは、魔法。誰かの、魔法なんだか、ら」


 「……魔法」


 ようやく頭が回転してきた。今目の前、ディーバを閉じ込めているものは氷の檻のようなものだ。

 ……いや、出口がないし氷の箱の中に丁度ディーバが入ってしまっているようなことから考えれば氷の箱?


 「……フェイト、これ、禁呪。『ディープフリーズ』、だと、思う」


 「……『ディープフリーズ』」


 「おや?この魔法を知っている子がいるとはね」


 ハッとして振り返る。つい先ほども味わったこの感覚、ディーバをジェラルミンに売っておきながら、ディーバを追えと言った謎の男--名は




 「カロンだよ。いや、よくやってくれたね、フェイト君」


 「カロン……貴様」


 どうやらこのカロンという男が『ディープフリーズ』を発動させたことは間違いがないようだ。--それにしてもこのタイミングで、なぜ?


 「ふむ、やはり君は子供だね。……大人の愛については理解が及ばないらしい」


 「何を……」



 「僕はね、ディーバを愛しているんだ。狂おしい程に、その全て、魂まで手に入れても足りない位愛している。--けれど、彼女は歌姫だ。皆が待っている、その歌声、その酔い、その美貌、その魔性、その神々しさに!!だから僕はずっと我慢していた……彼女が愚民の為に歌い続けている間は我慢しようと、ね」



 何を言っているんだ?フェイトは視線を逸らすことなく、カロンを睨み続けた。


 「それが、彼女の故郷が心無い者に襲われ、挙句ショックでディーバは声を失ってしまった。……あぁ、その時の僕の苦しみ、悲しみが分かるかい!?そしてその時思ったんだ、--アァ、ようやく僕の物にしていいんだって、ね」



 「……壊れている」


 フェイトは間違いなく確信した、この人物は、危険であると。



 「そうかい?子供の君には分からないかもしれないが、これは愛なんだよ。よく束縛するような愛があるというが、温い。人間には大切なものを独占したい欲求が常にあるんだ、それは騎士である君も同じだよ?ディーバを独占したいからこそ騎士という立場を用いて彼女に近づき、彼女を知り、彼女をもっと欲しくない、彼女を手放したくないと願った。……君と僕、形が違い手段が違うだけで願っているものの向きは同じなんだよ?」



 「同じなわけがあるか!!俺はディーバが再び自分の力で立つ事を望み、その時ディーバがまた足元を踏み外さないように、ディーバが知らなかった新しい心の強さを教えたかった!--それを貴様が!」

 

 「違うね、君はディーバを渡したくなくて今この場にいる。ジェラルミンは性格こそあれだけど、彼が抱えている名医は本物だ。声を取り戻すことも舞台に立つ事も彼の元の方が本来近道だったはず」


 「だが、現実は逆だ。たった今ディーバは声を取り戻した、お前が間違っている証拠だ!」



 「おや?僕は追いかけろと言ったはずだがね?論点がズレているようだから正すけれど、僕は一重にディーバを愛しているだけなんだ。----だからこそ、君ならきっと物語の王子様のように助け出し、こうなると信じていた。そしてその瞬間のディーバこそ、天上の声、至高の表情、輝く躍動感!!そんなディーバが永遠に僕と共に在る。僕はそんなディーバがずっと、ずっとずっとずっとずっとずっと欲しかったんだよ!!!!」





 狂気に囚われ、すでに人の心を無くした亡者に告げるには、フェイトは一言だけで十分だった。


 「ディーバを元に戻せ」


 「断る、ディーバは僕の物だ」



 それが開戦の合図だった。





 「アクアエチュード!サンダーボルト!!」


 中級魔法二つでカロンを攻め立てるが、


 「フィンブルヴェド」


 三層に折り重なる波も、雷すらカロンを包む冷気により凍りつく。


 「なっ!」


 「無駄だよ、僕が使える魔法が三種類だけだが、全てが禁呪と呼ばれるものだ。上級魔法ですら弾くよ」


 カロンを包む膜のようなものが『フィンブルヴェド』と呼ばれる禁呪なのだろう。防御魔法としてとても精度が高いっ……!


 凍り易い水はともかく、雷まで凍らせるのは尋常ではない。


 「これって防御だけじゃないよ?こうやって近づけば!!」


 カロンがフィンブルヴェドを纏ったままこちらに突進してくる。


 「くっ!」


 左に避けて交わすが、確かにあれは攻撃にもなる。触れてしまえばフェイトも凍りつき戦闘不能は確実だ。


 「マグナムボルケーノ!!」


 すれ違いざまにマグマを打ち出してみるが、あの高温のマグマですら凍りつく。


 ……上級魔法ですら歯が立たないのは本当のようだ。


 「理解したかい?止める手段がないならジッとしていたまえ、そうすれば見逃してあげるよ。……僕の目的はあくまでディーバだけだから」


 こちらに興味を失ったかのように背を向け、ディーバの下へ向かおうとするカロン。



 「----ロックプラント!」





 地面が食虫植物の様にカロンを左右から大きく口を開け、飲み込む。


 「なるほど、動きを封じるんなら凍らせても意味はない、か」


 土の中、到ってダメージを受けていない様のカロンが冷静に分析する。


 「……仕方ない、では禁呪三つ目を使わせてもらおうか。--コキュートス!!」


 魔法名と同時に、白く凍てつく白光が打ち出され、そのレーザーのような光は地面をアッサリと吹き飛ばし、フェイトに襲いかかる。


 「くっ!」


 間一髪避けることに成功したが、僅かに光に触れてしまったホークルの先端はあっという間に砕けてしまった。


 「なんだ!?」


 「急激に冷えたものが温められると金属でも砕けるって知ってるかい?それと同じ現象だよ?」


 「……戯言を」


 今の外気は炎と同じ温度でもない。およそ気温22度程度で砕けてしまうならば、どれほどあの一瞬で冷やされたのか。


 だが、これで理解できた。禁呪は三つと言っていた。



 一つは『ディープフリーズ』。融けない牢獄。

 

 二つ目は『フィンブルヴェド』。貫けない絶対の氷の鎧。


 三つ目は『コキュートス』。魔王も凍らす狂気の光。



 問題はどう攻略をすればいいか?





 「フェイト、聞いて」


 いつの間にか隣から聞こえる声にフェイトは振り向きそうになる。


 「振り向かないで、気付かれたら、厄介」


 「ああ」


 リードは透明化し、フェイトの側にきていたようだが何か狙いがあるのだろうか?


 「ディープフリーズは、術者、が、倒れれば、解ける」


 「本当か!?」


 声を殺しつつ、なるべく唇も動かさないようにリードに聞き直す。


 「本当、だから、カロンを、倒して」


 「分かった。……他には?」


 「フィンブルヴェド、と、コキュートス、は、両立、できない」

 

 「両立できない、か」


 もしかしたら、あの氷の膜に秘密があるのかもしれない。--だとすればこちらの攻撃の手段は、


 「私の、魔法と、私の足じゃ、足手纏い……ごめん」


 「いいさ、むしろ方針が固まった位だ。感謝するよ、リード」


 「……うん、離脱、するから、遠慮なく」


 「ああ」


 スッ、とフェイトの隣から気配が離れていくのを感じ、改めて前を見据える。





 「作戦は決まったかい?」


 「勿論」


 どうやらお見通しのようだったが、それでもいい。


 ……後はどうやって奴のスキを突くか。


 「フェイト君、僕も忙しい身でね。今からでも遅くはない。諦めて帰れば見逃そう。……これが最後の警告だよ?」


 「随分と優しいじゃないか?そんなに勝つ自信がないのか?」


 「僕は僕の残りの時間をディーバのために使いたいだけさ。それ以外は時間の無駄としか思っていない」


 「時間の無駄……ね」


 そこで、フェイトの脳裏に違和感が掠める。



 (なんだ--今何か違和感が……??)



 「仕方がない子供だ。--じゃあ、始末するしかないよね!!」


 カロンは目を細め、こちらへと駆けだしてきた。


 「考えは後だ----ロックマウンテン!」


 今度は大きな岩でカロンの進路を阻む。


 「頭を使うようになったね、確かにコキュートスじゃないとこれは突破できない。--だが、君はコキュートスを甘く見過ぎだ。さっきのはデモンストレーションで手加減したが、今度は全力だ!!」


 ゾクッ、とフェイトの背筋が未知の恐怖により電撃を受けたかの如く反応し、全力で空へと逃げることを本能レベルで選択する。



 「コキュートス!!」




 見渡せば、周りの飛行船ですら凍りつき、辺り数百メートルまで氷の世界へと変貌していた。


 「冗談……じゃない」



 フェイトは禁呪の力を前に、必死に生きる手段の模索と、ディーバの命を助ける選択を迫られていた----

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