悪名響かせて<Let me sound>
フェイトは手持無沙汰になってしまったこともあり、またレイ達が学校にどう説明しているかも気になったため、学校に向かうことにした。
「さすがに今日手が空くとは思わなかったけど、レイ達にばっか頼ってたらバチが当たるな」
気になるのはディーバだが、明日まで待ってくれと言うならば今は友人と学校を気にするべきだと割り切り、しばらく振りに登校する。
時刻は昼間近で、そろそろ昼休みに差し掛かる頃合いだろう。先生方も職員室に集まっているだろうし、ギルバード先生を探す手間も省けそうだと楽観視していた。
もう隠す事もない飛行魔法にて校舎入口に着地すると、職員室へと向かって歩く。
……すると、見覚えのある3人が廊下に立たされていることに気づく。
「レイ!ピア!ゲイト!」
3人を見つけ走って駆け寄るが、3人はこちらに気づいていても目を合わせてくれない。
良く見るとバケツを両手に持たされており、今は懲罰中なのだろう。
それにしてもバケツ持ち位なら軽い罰だな、とフェイトは思ったが、近くで中身を見て唖然とした。
「ニトログリセリン?」
絶対に刺激や火気厳禁の爆発薬が、バケツ一杯に満たされていたのだ。
もし、誤って大きな振動を与えてしまったり、落とそうものならそれは致命的な爆発を引き起こす。
思わず唾を飲み込む程緊張したが、やることは変わらない。この勇敢で友達想いの友人を助けるべくフェイトは職員室に飛びこむ。
「失礼します!!」
ガラッ、と大きな音を立て職員室に入室すると、様々な先生の値踏みするような、厄介者をみるような、なめつくような視線にさらされつつもフェイトは姿勢を正す。
「ギルバード先生に会いに来ました。先生はどこに?」
「待っていたぞ、フェイト・セーブ」
その筋肉隆々した肉体を持ち、威圧感を振り回す巨体を持つ男性こそ、探していたクラス担任であるギルバード先生その人であった。
「お前の行動で我が校の品位は貶められ、奇しくも確保出来なかった私達教師陣にお叱りが来たよ。君はここまで全て考え責任を持つために出頭しにきた、その解釈で間違いないな」
普段ルールにそれほど拘るようにみえないギルバードだったが、今回の件は余程の重大事だったのだろう。
射抜く視線は全く容赦がなく、生徒を見るというよりも獲物を見る肉食獣の目に近い。
しかし、フェイトは怯まない。怯む事はディーバの騎士になった時から、許されてはいない。
「俺はディーバの騎士として最善を考え、行動してきました。ディーバの事を考えれば結果は着実に出していますし、ディーバも苦しみ、悩みつつも前を向く力を取り戻しつつあります。--ですから、今回の騒動の責任は全て結果で負う事にします!」
「バカモンが!!」
しかし、そんなフェイトの報告にも発言も全てをかき消すように一括で吹き飛ばす。
フェイトは動揺を隠しながらもギルバードから視線を外さない。
「いいか、フェイトお前はアルト王より騎士の称号を授かったが、まだ子供だ!誰かを支えるには人生経験も足りないし、判断も経験が足りない。だからこそお前では一人を支えるにも時間もかかるし、遠回りもするし、こうして迷惑をかける。それを自覚しろと言っている!!」
フェイトは驚いた。確かにギルバードは怒ってはいるが、どちらかというとフェイトの事を心配した怒り方だ。
今はまだ早い--フェイトを評価していなければ出来ない発言にしか聞こえなかった。
だが、フェイトも引くわけにはいかない。
「経験が足りないのは自覚しています。まだ15歳で、学生ですから。でも、誰かを助けたいと思う気持ちに歳も経験も関係ない!大切なものは気持ちだから!」
「青いわ!!」
ギルバードが拳を振り上げフェイトの顔目掛けて振り抜かれる--
誰もがそう思ったが、フェイトは逃げることも、防御することもせず、目を開けたままただ拳を見据える。
ピタッ、と本当に寸前の所で拳は止められ、ギルバードは拳を収める。
「どうやら、本気のようだ」
「勿論です」
否、フェイトは先ほどから拳すら目にくれずギルバードだけを見つめ続けていた。
だからこそ、その真剣さが伝わったのか、
「ならばお前の覚悟を示してみろ。経験より気持ちが大切だと言ったな。ならばそれを証明してみろ」
話せば分かる、そうフェイトは思って安堵したのだが
「廊下に立っている三人、お前の事を庇っていたよ。だからこそあいつらを含めて4人で私を見事倒してみろ!」
--訂正、そういえばこのおっさん入学式初日もこんなノリだったっけ……
結局、ギルバード相手に4人掛かりでも倒せば見逃してくれるという条件になったため、フェイトはザッといきさつを説明し、3人のバケツを先生に返す。
「ありがとな、皆。俺のために」
「昼飯一回な」
「私はココアもつけて」
「むしろ何故ここにいる?」
レイだけは、朝から電話で話していたためフェイトが学校にいるのが不思議でしょうがなかったようだが、それも簡潔に説明する。
「……なるほど、しかし裏がありそうだな」
レイの意見はかなり的を射ている。記事が掲載された当日の早朝にも関わらず、ディーバのスタッフがこの地にいたということが不自然なのだ。
フェイトは気付かなかったが、言われてみれば酷く不自然に感じる。
「記事を見て本当に朝一番で駆けつけたっていう可能性は?」
ピアがレイに確認するように尋ねるが、レイは首を横に振る。
「ないな、ホテルの場所が分かっていたのも不自然だし、元から示し合わせていたか、現地でディーバを監視していたかどちらかだろう。そのどちらにしてもディーバにこんな形でしか接触してこないなら、人間として最低だが」
吐き捨てるようにいうレイだが、フェイトもそれに賛成だ。
ディーバに友達らしい友達が最初からいれば、フェイトが関わらずとも良い方向に向かっていたかもしれないのだ。
「それはそれとして、問題は先生よ」
ピアは思考を切り替え、今目の前で立ちふさがる難題に目を向ける。
「そうね……ギルバード先生は強いわ」
見た感じそのままだが、あれだけの迫力と筋肉を持ちながら見かけ倒しということはないだろう。
とても騎士には見えないが、ギルドに所属していたという線は十分に考えられる。
「作戦はまたフェイトに任せる感じで大丈夫か?」
ゲイトが確認のため、皆に向けて話すが、皆同意したようにフェイトに向き直る。
「OK、校庭に出てルールを確認した後作戦を練ろう」
そうして校庭に向かい始めた4人だが、先に向かったギルバードを確認しようと思い校庭を見てもまだ姿が見えない。
「あれ?まだ着いてないのかな?」
廊下で少なからず時間を使っていたため、とっくに校庭に出ていてもおかしくはないのだが……
そう思っていたら、対戦相手兼学校の先生の居場所は意外な所で判明した。
「これより昼休みを使って、1年生の悪名高いフェイト、1年生最優秀レイ、他自分ギルバード担当クラス生のピア、及びゲイトの4人が私ギルバードと模擬戦を行う。興味のある者は見学をするように、以上だ」
…………
まさかの校内放送により、昼休みの模擬戦を宣伝していた。
「俺、悪名高い?」
「私の名が……」
「私通り名がないの地味かも」
「俺もそう思った。なんか事件でも起こすか」
「「やめてくれ」」
フェイトとレイが見事にハモって懇願するため、ゲイト達もしぶしぶながら納得しつつ校庭に向かうことにした。
「本当、なんであの先生は戦いが好きで目立ちたいんだよ」
わざわざ注目されたくはないフェイトに取って、あの先生の行動は予測不能でもあり、突飛過ぎて頭が痛くなる存在だった。
「来たな」
校内放送していたにも関わらず、フェイト達より早く校庭に着いている早業に感心しつつも気は緩めない。
「先生、ルールの確認を」
フェイトはあくまでポーカーフェイスを崩さないように無表情を保つが、ゲイトとピアはやや緊張しているようだ。
「ルールは簡単、私を倒せばお前達の勝ち。勝てば今までの行動を多めに見た上で今後の歌姫ディーバとの関係はお前達に任せよう」
その条件にホッとするフェイトを、次の言葉で絶望に叩き落とす。
「お前達が負ければ、ディーバ様の居場所を言ってもらい、然るべき手順を持ってディーバ様を保護させてもらう。その際の邪魔等は認めないため、懲罰室にしばらくいてもらう事になる」
「なっ!」
驚愕したのはゲイトだ。まさか軟禁されるとは思ってもみなかったのだろう。
あくまで手を引かせると約束させられるだけかと思っていたら、こちらは厳重に監視されるという結果だ。
--負ければ後はない。
「いいだろう、その条件を飲む」
「いいの?」
すかさずこちらに確認を送るのはレイだ。昨日の一件もあるし、ディーバともっと仲良くなりたいと思っている彼女の意志も尊重したい所だが、今はフェイトがリーダーである以上フェイトの決断がぶれてしまってはいけない。
「勿論だ、負けなければいい」
飄々と余裕を見せるフェイト。そこにギルバードから声がかかる。
「戦闘のルールは何でもアリだ。フェイト、お前の魔法を使っても構わんぞ?」
騎士学校におけるイレギュラーな魔法すら認めるというギルバードには、絶対に負けないという自信がみなぎっていた。
「はっ、俺は騎士です。魔法は使いませんよ」
「ならば、私は一歩も動かないで戦おう」
何があってもこちらにハンデをつけたいように見えるギルバードだったが、考えてみれば当然かもしれない。
本来1年生四人では、最上級生の5年生一人にも勝てないと言われる。それは技術であったり、体力であったり、ようするに戦闘経験値の量がものを言うからだ。
そんな5年生でも現役騎士に勝てないのだから、それと同格の強さを持つギルドに元所属していたギルバードを倒すのがどれほど無謀なのかが分かる。
本来イレギュラーな人材のレイとフェイトでも2年生位の実力しかないのだ。魔法なしでは勝ち目はない。
それでもフェイトは魔法を使わないと言った、それは侮りだと教えるためにギルバードはハンデを付ける。
つまる所そんな話だ。
「フェイト」
不安そうな目でこちらを見るピアには、いつになく不安が漂っている。
いつもなら勝ち気に染まる紅蓮の瞳も今は、消える間近の灯だ。
「大丈夫、作戦を立てよう」
フェイトはそんな不安が表立たないよう、平静を取り繕い作戦会議を始める。
「こちらは人数を活かして攻めよう。ピアは双剣のスピードと手数を活かして背後から連撃、ゲイトはランスの重量とパワーを活かして開幕から突進、俺とレイで左右挟撃をして一気に仕留める」
作戦は単純が故に仲間の戦力を削がず最大限に生かすような配置、そして初撃の僅かな緩みを突いて一撃必倒を狙う。
長期戦になれば経験の差が勝敗を分かつと判断したためだった。
「分かった」
そう頷き構えるゲイトとピアを余所に、レイだけは不安のままだった。
「レイ?」
気になり話しかけると、レイは不安からかそれとも思案したからかフェイトに異を唱える。
「フェイト、今からでも作戦を変えない?やっぱり魔法抜きなんて意地を張らずに、フェイトの魔法を最大限活かす戦略にした方がいいんじゃ……」
そう、フェイトはチームワークを重視したためこの作戦にしたのだが、単純な火力でみれば三人が壁になっているうちにフェイトが上級魔法を唱える方が圧倒的に強い。
フェイトも恐らくそこまで考えたのだろうが、今回は挑発に乗った手前もあるし、こちらに気を使った結果か魔法を軸に据えようとしない。
「大丈夫、いくらギルドでも騎士でも俺達の実力は低い訳じゃない。初撃に賭ければ必ず突破口が見える」
それはすでに堅実でもなく、ギャンブルに近いものをレイは感じたが、フェイトが方針を転換しないため最初の作戦で決定する。
「準備はいいか?ギャラリーもそこそこ集まったみたいだしな。--開始だ、いつでも来い!!」
そう開始を宣言し、ディーバを賭けた学校の争いが始まった。
■■■■■■
「後ろから--連携!」
「正面突破だ!!」
ピアとゲイトが作戦通りに行動し、レイとフェイトもそれに遅れないよう間合いを素早く詰めて移動する。
決まれば一撃必倒だ、いくら達人でも四方向同時に捌く事はできないし、防御も不可能。
対しギルバードはレザーグローブを両手に装着し、直立不動でこちらを待ち受ける。
その仁王立ちたる迫力は、不動明王をも思わせ一瞬こちらに動揺を与えるがそれでも剣閃は鈍らない。
防御の構えも取らず、校庭の中心で不動の姿勢を貫く姿勢に校舎内で見物していたギャラリーから、思わず悲鳴が漏れるがそれは1年生か2年生のものだろう。
4年生や5年生はただ無機質に勝敗だけを見守っていた。いや、先が見えていたのかもしれない--
「「「「ハァッ!!!!」」」」
四人の裂帛した気合を乗せた渾身の一撃が、ギルバードに4方向から襲いかかるが、
ギィン----
まるで鉄同士が衝突したような音を立て、結果が訪れた。
四人の刃は全てギルバードの筋肉を切り裂くことができずに、表面を浅く切りつけただけに留まった。
「なっ!」
あまりのデタラメにフェイトも絶句する。
ピアの双剣、レイの騎士剣を集中させた筋肉の鎧でガードしたのだけでも既に超人的だが、正面から加速を乗せたゲイトのランスの突進すら弾き、フェイトは斬鉄を行うように手加減なく切り上げたが、唯一ギルバードが反応し動かした左腕の拳圧により軸や呼吸がずらされ、結果ただの斬撃へと成り下がる。
そして結果は、誰一人ギルバードの筋肉の鎧を突破出来ずに硬直を余儀なくされ、反撃を受けないよう離脱に転じるしかない。
だが、それすらギルバードの予想の範疇で、
「ハッッッ!!!!!!!」
と、メチャクチャに大きな声で叫ばれ三半規管が一時的に狂う。
(なんてことだ!)
……本当に一歩も動かずに決着が付きそうだったのだ。
これだけの力の差を見せつけられれば、敢えて攻撃を行わなくても結果が分かる。
--フェイト達の完敗だ。
これが立ちはだかる壁、なんと大きなものか。
ギルバードは一歩も動く気配を見せず、飛び下がるフェイト達に声の弾丸以上の追撃はしてこなかった。
一旦、下がり態勢を立て直そうとするフェイト達は一箇所に固まる。
「魔法を使う」
自分の見積もりの甘さを反省したくなるが、負ければ失うことしかない。
ならば魔法を使い、勝ちを拾う。
フェイトはこの時冷静なようで冷静になりきれていなかった。
友人達は少なからず動揺していたし、力の差に飲まれていた。
フェイトの魔法を使う、という一言を飲み込むには半歩呼吸が合わず、結果連携が遅れる。
指示待ち人間、とまではいかないがフェイトが魔法で何を狙うかを推測するには経験も付き合いの長さも足りていない。
それにフェイトは頭が回らずに、「魔法を使う」の一言で済ませてしまったのが間違いだったのだ。
フェイトは飛び退りながら考えていたのは、魔法の選択。
初級魔法では足止めにもならず、かわされるのが関の山、上級魔法や複合魔法は詠唱時間から言って間に合わないと判断。
よって中級魔法の乱打によって隙をみつけようとし、そのための詠唱や魔法構築、属性や規模を選択し発動するまでを1秒以内でコンプリートしようと考える。
だからこそ、援護を頼みたかったのだがそれは伝わることなく、最悪の方向に転がる。
今まで不動明王のように直立していたギルバードの姿が消えたのだ。
--正確に言えば消えたように見える程高速でこちらに接近したため見失ったしまった。
その間僅か0.5秒を切る速さだった。
フェイトが想像していたのは、魔法の発動後だ。
フェイトの詠唱速度は速く、魔法が潰されることがないため基本的に相手は魔法を避けるか、防御するかの二択になりがちで、それを見てから更なる追撃を行うのが常套手段だった。
もしくはやはり魔法発動阻止を狙ってこちらに接近するタイプ。
炎の竜や、竜巻、地割れ等発動されれば危険なものは、発動してからでは防御も何もが遅いため根本的に魔法を発動させないタイプも確かに存在する。
それでも、魔法を切り替えて詠唱を加速したり、もしくはそもそも間に合わない等があるためやはり魔法で勝つ事が多かった。
しかし、それは騎士フェイトではなく魔法師フェイトの姿でもあった。
どうしても詠唱している間は騎士ではなく、魔法師のそれになってしまうため魔法師としての戦い方をするのがフェイトの弱点でもあった。
全ての魔法師に言われる弱点、魔法を発動させてくれない敵。
魔法を無力化する、もしくは魔法を使わせない敵、それが魔法師の天敵なのだが目の前に見えるギルバードはまさにその後者であった。
魔法発動の魔力の流れを読みこちらに高速で接近し、1秒すら与えてくれない相手では魔法師のメリットが活かせない、そして騎士として挑んでも先程返り打ちにあった。
----手詰まり。せめて援護があれば1秒稼げて結果もまた違うものになりそうだった。
そんな幾多の考えすら無情に、ギルバードの速度を乗せた拳がフェイトの意識を刈り取るために撃ち抜かれる。
(終わった--)
「ぐはぁ!!」
フェイトが諦めた瞬間でも、諦めていない仲間はいたのだ。
何をするのか分からない状況でも、フェイトが落とされれば負けと踏んで今その身を呈してゲイトが前に出て庇ったのだ。
ギルバードの拳をランスでガードし、フェイトへの直撃を逸らそうとするが、ランスが拳で砕かれ、自身も宙に舞い上がる程の攻撃をくらいゲイトはリタイヤする。
「ゲイト!」
いや、今は諦めなかった友のためこの時間全てを活かすべきだ!
思考を瞬時に切り替え、目の前で拳を振り抜き硬直が残るギルバードへ中級魔法を打ち込む。
「アクアジェット!」
圧倒的水流と爆発で相手を押し流す魔法だが、ギルバード相手では文字通り足止めにしかならない。
だが、距離を作っておけば態勢は整えられる。
「リリアウト!」
レイとピアを抱きかかえ空中に退避する。--空中ですら安全圏とは思えないが、地上にいるよりは時間が取れると思い、駆け足で作戦を伝え直す。
「スマン!作戦を直す、俺が上級魔法で方を付けるから時間を稼いでくれ!」
ようやく作戦を伝えることが出来たため、レイもピアも思考をクリアにし純粋に戦いに没頭する。
「OK」
「任せて」
重力魔法をオートで発動するようにし、レイとピアが空中から飛び降りギルバードへと向かう。
その間にフェイトは屋上に飛び、着地をした後詠唱を開始する。
上級魔法の時間稼ぎのため、遠く離れた屋上に着地するが安心できない。
遠距離技を持ってはいると思うが、それを使わせないためにレイとピアが奮戦してくれる。
逆にそれが邪魔でレイとピアの相手をするならばその間に上級魔法を完成させる。
こちらへ一直線に来るならば、いくらでも中級魔法で迎撃できる。
今度こそ、全ての方程式を完成させ上級魔法を詠唱する。
(強く、強くあるべき魔法--手加減は、いらない!!)
上級魔法を驚くべき速さで完成させたフェイトだが、校庭には予想を遥かに超えた状況が映し出されていた。
(レイもピアもやられた上に、遠距離技、<ロア>を打ち出すつもりか!?)
既にギルバードはフェイトの予想を大きく越え、こちらへの迎撃を準備している。その両拳を合わせこちらに向ける様は、まるで砲台を連想させる。
アルト王のエクスカリバーは尋常ではないとしても、<ロア>を使う技は諸刃の剣として有名でもある。
強力な分反動も凄まじい、だが人によっては上級魔法に匹敵するとも--
しかし、今を逃せばもうチャンスは来ない。レイもピアもゲイトもやられた以上次の詠唱時間は無いものと考えられるため、ここで負けたらこの勝負、フェイト達の負けだ。
「負けられ--ないんだよおおお!!!」
フェイトが吠え、地上にいるギルバードへ向け自身最強の上級魔法を叩き込む。
「アルテマ・ライフ!!!!」
校舎五階からギルバードと1年生の模擬戦を見る双剣士と緋色のマントを羽織る騎士。
「あっけないな」
緋色の騎士は当初赤魔騎士として有名になった、フェイトの観戦のため覗いていたのだが、あまりにも稚拙で途中から飽き飽きとしていた。
一人がやられ、もう二人もあっという間にねじ伏せられた今、残りはギルバードとフェイトの二人だけだったが、フェイトは生憎屋上に着地したため見えない。
とは言ってもギルバードが拳から『氣導拳』を繰り出そうとしているのを見て、勝敗は決したと見て間違いない。
「クロ、戻るぞ」
昼休みを無駄にする訳にもいかず、興味を失ったものを見ているのもつまらないため、次の時間の準備をしようと教室に戻りかける。
「待った」
と、双剣士のクロが言ったと同時に、自分達の頭上が魔力で震えるのを感じる。
「これは……」
その規模に緋色の騎士は初めて、驚愕を示す。
「王宮魔法師……いや、国家魔法師クラスの魔力集束?この大気の震えは--」
言葉途中に、その大気の震えは現実に姿を顕現する。
「アルテマ・ライフ!!!!」
屋上から轟く魔法名は、最上級生の彼女らの知識を持ってしても未知の魔法であった。
「氣導拳!!!!」
対し、地上にて<ロア>を圧縮させ、その光にて自分に向かう、青く輝く極太のレーザーのような魔法にぶつける。
「ぬおおお!?」
それはギルバードに生じた、初めての焦りであった。
この氣導拳は遠距離技でもあると同時に、ギルバードの二柱の奥義の1つでもあったからだ。
それ故威力に関しては絶対の信頼を置き、今までの死線を潜り抜けた相棒とも呼べる技でもあった。
それが----
ぶつかった瞬間、そのエネルギーの全てを喰らい尽くされ、こちらを押し潰さんとする裁きの光だった。
「まさか、これほどとは……」
ギルバードが知る上級魔法ならば、氣導拳で相殺できるものが多い中、フェイトが放った上級魔法がランクが違う。
上級魔法を更に2ランク程上げなければ、ギルバードの氣導拳を軽々と消し飛ばす説明が付かない。
さしずめ数十人規模で完成する大規模上級魔法といった所だ。
逃げ出すには既に時間が残されておらず、まさか模擬戦において命を落とすとは思わなかったが、ギルバードは死を覚悟した----
ドゴォォォォ!!!!!
その青き光は地面という地面を喰らうように抉り、飲み込み、周囲を焦土に変えようと働く爆弾の如く暴れ回った。
校舎で見ていたギャラリーも、あまりの光量と爆音に窓から離れ伏せた位だ。
無論、最上級生の彼女らも例外なく身を伏せた。
やがて、砂塵が少しずつ収まり、光も音も落ち着いた頃にみなが思った。
果たして教師も、校庭に倒れていた他の1年生も無事なのだろうか?と。
恐る恐る校庭を見る騎士生徒は、言葉を失う。
校庭に真新しいクレーターが中央から端に渡るまで深く創られていたのは、もはや驚きを通り越し恐怖に近い。
勿論人影は見当たらない。
あまりの威力と味方すら吹き飛ばす規模と、それを放ったフェイトに皆一様に恐怖が刻まれた。
しかし、実際には。
「先生、俺の勝ちでいいですね?」
「あ…………ああ」
フェイトが短距離転移魔法を発動させ、間一髪の所でみんなを屋上に避難させていたので無事だった。
この最強の攻撃魔法に加え、冷静に仲間と教師であるギルバードを転移させたという状況判断力と、実力はもはや誰も口を挟めるレベルではなかった----