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騎士学校の俺と俺だけの姫様  作者: スピキュール
少年騎士、生誕
12/58

終息~少年よ、騎士となれ~

 周りの音が何も聞こえない。それでも暖かい光が体に染み渡っていることだけは感じられる。


 まだ目の前が暗く、何も見えない、音を聞き取る事も、土の臭いを感じる事も、風に触れる事もできない。


 それでも、体が何か暖かいもので満たされ、それが自分と世界を繋ぐための絆だと分かる。


 行こう、私はこの暗闇の中にいる訳にはいかないのだから--




 「う……」


 目を覚ますと私を心配そうに覗き込むユキと、両手から私に光を流し込む少年騎士フェイトの姿が見えた。


 「アルト、アルト?聞こえますか?私です、ユキです」


 まだ瞼が重く、体も言う事を効きにくいが愛する者の呼びかけを、これ以上無視する訳にもいくまい。


 「聞こえているさ、……ユキ。勝ったよ。--ただいま」


 その可憐な瞳に浮かぶ一累の雫が、どれだけ心配をかけたのか分かってしまう。


 「おかえりなさい。アルト」


 公然の場でないとユキは思っているのか、普段人前で呼ぶ時の敬称が抜け落ちてしまってる。


 隣にいるフェイトはそんな一人の人間として、女として振舞うユキにきっと気付いているのだろうが、涙にも呼び方にも気付かなかった振りを通し続けている。


 君は立派な騎士なんだな。そう安息し、私もそれならば一人の人間として、男として愛する妻に騎士王ではなく、国王でもない、アルトとして言葉を返そう。


 「ただいま、ユキ」




 フェイトは治癒魔法を終えると、アルト達の邪魔にならないよう声が聞こえない、それでも二人に何かあった時に直ぐ駆けつけられる距離を保ち、辺りの警備を務める。


 (あーあー、愛し合う人達ってなんであーも見てて羨ましくなるのかね。それに美男美女過ぎて見てたら惚気に当てられそうだし)


 最もフェイトは義務を果たすと同時に、二人の甘い空気に当てられただけでもあった。


 「やっぱ俺だけのお姫様を見つけよう。ウン、でいつか今日のお二人みたいな感動的で、ドラマティックなストーリーに出逢ってみたいな」


 そんな妄想垂れ流し状態の独り言は、幸い辺りに人がいないため聴かれずに済んだ。


 そして10分近く経っただろうか。二人はこちらまで近づいてきて、


 「ありがとう。国を代表する王として改めて礼を言わせて欲しい。本当に助かった、どうもありがとう」


 フェイトは慌てて膝を付き、恭しく頭を垂れアルトからの賛辞を受け取った。


 「勿体なき御言葉。此度のアルト王の御活躍からすれば微々たるものですが、お褒めの言葉を頂き至極恐悦につかまつります」




 そんな横からクスクスと忍び笑いが漏れてくる。……絶対にユキ姫だ。



 「フェイト、出来れば私達は貴方と対等な関係を持ちたいのよ。貴方には騎士としての誇りもあるし、そう簡単にはいかないでしょうけど、私達はそんな堅苦しい関係でいたくはないの。今回私達の不始末を手伝ってもらったのは事実だし、貴方の貢献は誇張なく大きく優れたものだった。それに何より私を抱いたのは両親とアルト以外初めてなのよ?」


 「ほう、ユキを抱いたとはどういうことかな?フェイト君?」


 「えっ?!ゆ、ユキ姫?!そんな、あれは緊急事態というか、半分ユキ姫から--」


 「まぁ!!女性の私から男性の貴方に抱きついたと?それは男性としての威厳も誇りも無いのでは?」


 「な、なんでそんな話になるんですか!?というより--」


 「そう、問題は何故ユキを抱きしめたか、だ」


 「勘弁して下さいよ……」


 この重たい戦場の空気を一時的にとはいえ、吹き飛ばすための出汁にされたのは重々承知だが、そんな道化でも今はいい。


 二人が笑い、俺も悪い気はしないから。


 きっとこんな事今まで幾つも乗り越えてきたんだろうな。


 だって、こんな時に笑いを思い出させてくれるなんて、よっぽど強い人じゃないと戦火を嘆いて立ち止まってしまうんだから。




 「それでフェイト、真面目な話に戻って済まないが、今後について話させてもらって構わないかな?」


 アルトが幾分畏まって話そうとするので、フェイトは再び膝を付き拝聴しようと態勢を戻したが、ユキが両手を腰に添えフェイトを立たせたので、立って聞け、という事だろう。


 何故かユキは上機嫌な笑顔のまま、困った顔をしている。器用な表情が出来る人だな、と思いながらもアルトの話を聞く。


 「まず騎士学校ナイツォブラウンドに行き、今回の件について説明するつもりだ。残念ながら学校での講演の時間は取れないだろうから、今回は見送らせてもらうつもりだ」


 「えっ?もしかして今回来国されたのは、ナイツォブラウンドにて講演されるためだったのですか?」


 フェイトの問いにアルトが短く首肯し、ユキが補足する。


 「国際親善も兼ねているのよ。それに校長がアルトと顔見知りでね、何年も前から呼ばれていて今年やっと来れたのよ。興味深い人材もいるって聞いてたけど、もしかしてフェイト君?」


 ユキが説明している最中で思い出し、フェイトに試しに聞いてみるが、


 「いえ、俺は魔法の力は隠して入学したので、俺ではないかと……」


 「そう、ちょっと残念」


 やっぱり少女のような人だ、フェイトは思った。



 「ウム、それでその後は国と国の話し合いになると思う。規模が規模だけに隠そうにも隠せないし、穏便に終わらせる事も難しそうだ。恐らく私達は直ぐ本国へ帰る事になると思う。--そこでだ、君については色々聞きたい事も話してみたい事もたくさんある。どうだろう?私が推薦するからこちらの国に来てみないか?騎士としての教育機関もナイツォブラウンドに劣らない施設もあるし、卒業後、もしくは卒業を待たずしてもいいから私の近衛騎士団に入団してもらいたいとも思っている。どうかな?」


 

アルトの提示した破格の提案には、フェイトは心底驚いた。




 本場の環境、約束された栄光ある騎士団への入団、それに何よりアルトとユキに会いやすいという嬉しさ。

 

 それら夢のような条件が、この提案に全て詰まっているのだ。


 とっさに答える事が出来ない。人は宝の山に予期せず遭遇した時、思考が固まり動けなくなるように、フェイトの思考も凍りつきそうだった。


 「ね、私も大歓迎!というより施設に入らず直ぐ入団したら?私の話相手を務めてくれると嬉しいし」


 ユキからも後押しがされ、それに歓迎されている。


 今この場で断れば将来全てを賭けても巡ってこないかもしれない、大チャンス。


 この場に親や妹、先生や友達がいれば間違いなく『行け』というだろう。


 第三者の視点から見れば破格の報償だ。けれど----


 「ありがとうございます。御二人のお誘いはとても名誉で光栄です。----けれど私には身分が過ぎた申し出、それに私はあの騎士学校で学びたい事があるのです。本当に申し訳ありませんが、辞退させて頂きます」




 王からの申し出を断ったとなれば、世間からみれば大きな波紋を引き起こす事は確実だし、誘ってくれた王と姫の面目も丸潰れだ。


 下手したら不敬罪で投獄とか死刑とかもありえるかもしれない程、フェイトが今断ったのは失礼な事であった。


 「フム、理由を聞いてもいいかな?」


 しかし、アルトは気にした風もなく、ユキは残念そうに瞳を少しだけ伏せてこちらの続きを待つ。



 「ハイ、私の夢は自分だけの姫を見つけ、その姫を生涯を懸けて守り抜く事なんです。--それには今私が持つ魔法の力ではなく、騎士としての力を求めたいと思っております。勿論アルト王やユキ姫に仕える事は至極の幸福となり得ますが、私は自分の夢を追いたいのです。そのために必要な事が、この地にあるナイツォブラウンドで学ぶ事だと思います。自分の育った国、育った地で確固たる自分を確立し、その後に然るべき時に姫と巡り合える。それが運命だと信じているからこそ、此度のお話を御断りさせていただきました」



 アルトとユキはしばらく見つめ合ったまま、微動だにしなかったが、しばらくすると改めてこちらに向き直った。




 「面白い、そういう考え方が嫌いじゃないよ。分かった、君は君だけのお姫様を見つけだすといい。私の横にいるような、おてんば姫が運命だと苦労するぞ?」


 「ちょっと?アルト今の言葉国に帰ったらキッチリ問い詰めますからね。……全く。でもフェイト?私達は貴方が卒業する前でも後でもいつでも歓迎するわ。入国って意味だけでも入団でも、ね。だからいつでも気軽に訪ねてきて頂戴。--貴方が来てくれる事を首を長くして待っているわ」


 「その通りだ、我々は君を客人としてもてなす事を誓おう。いつでも構わない、君は大切な友人なのだから、いつでも訪ねて来てくれたまえ」


 ああ--格が違うな。フェイトはこの日交わされた言葉を一言一句間違える事無く、ずっと覚えているだろう。


 理想とする騎士と姫の姿をこんなに間近に感じる事ができて、フェイトは今日という日を言葉では言い表す事ができなかった。


 そしてこの二人にはいつまで経っても適わないな、と思った。


 それでもいつか----


 自分だけの姫を見つけ、将来を誓い合った後必ずこの二人に紹介に行こう。


 それよりも前に何度かは顔を見せに行こう、きっと寂しがりなユキ姫も、友と認めてくれたアルト王も、フェイトの来訪を心待ちにしているだろうから。






 「ではこれから御二人は騎士学校へ向かわれるんですね?騎士学校は東ゲートの方向にあります。--あ、そうだ。ちょっと用事を思い出しました」


 二人をもうこの戦争の際住民にバレているだろう、騎士として魔法が使えるという秘密を隠す必要はない。


 と思い、飛行魔法で送って行こうと提案したのだが、その最中頭に過る案件。


 「どうかしたのか?」


 言葉途中での言の翻しは気になったのだろう。アルトが聞いてくる。


 「いえ、今日この町に騎士学校の友人と魔法学校の友人が来ておりまして、その二人は恐らくゲート解放に向かったと思うので、探して行きたいのですが」


 フム、とアルトは軽く頷く。


 「なら東ゲートまで一旦飛び、そこで私達も探すのを手伝おう。こんな状況だ、人手がいるだろう」


 確かに人手あればそれは助かるが、残党が紛れている可能性もあるし、何よりアルト王達がここにいる事を知った町の人の反応が予測できない。


 ファンが殺到するなら可愛いもので、町の現状と結び付けられれば最悪石を投げられてもおかしくない。


 そうなっては問題だし、外交問題が更に拗れてしまう。


 「心配いらないよ」




 そんなフェイトの不安は、ユキの一言でかき消される。


 「私達も人の心を持っているんだから、この町の人達に書面だけでお知らせして謝罪もしない、なんて事はしないの。敵がこの町で騒ぎを起こしたのはさすがにどうにもならないけれど、少なくとも私達が騒ぎの種になってしまったんだから、頭を下げなきゃ」


 「その通りだ。確かこの町には東西南北にゲートがあり、全ての人が東ゲートにいるとは考えられないが、それでも少なくとも東ゲートに集まっている人達には謝罪をするべきだろう。これはフェイト君が東ゲートで降りると言わなくても、我々が降ろしてくれと頼んだ。だから気にする必要はないよ」


 アルトもユキも大人である以上に、一国の王と姫なのだ。


 その二人が決めたのならば、これ以上フェイトが何かを言うべきではない。


 それよりも騒ぎの終息と、謝罪を速やかに伝えた方がいい。


 「--分かりました、では飛びますよ!リリアウト!」




■■■■■■




 「--い、レ----。レイ、起きた?」


 ふと目を覚ますと、そこは町の建物がなく、代わりになだらかな道が続く緩やかな丘に眠っていた。


 「あ……あれ?ここ、どこ?」


 キョロキョロと辺りを見渡してみるが、人がそこかしこに溢れている。


 そして少し遠くに東ゲートが見える。ということは


 「町の外、東ゲートを、少し行った、所」


 リードが説明をしてくれる。あれ?でも私は銃弾に貫かれて----そう思って確認してみるが、痛みは弾がかすった部位や腿に受けた銃弾だけで、他に体を貫かれた感触もなく、手で触ってもそれらしいものは見当たらない。


 「レイ、気絶した。その後、変な男の人、が助けた。その後は、私の魔法で、やっつけた」

 

 変な男が誰なのか分からないが、命を救われたことだけは分かる。


 死を覚悟し、本当に目の前まで死が迫っていた。




 それを助けてくれた顔も名前も知らない誰かに、レイは深く感謝をしていた。


 --やっとピアへの想いを、見つめ直すことが出来たのだから。


 「町の人、と逃げてたら、後ろが、光った。光が、収まったら、召喚獣、消えてた」


 「……召喚獣が?」


 光の正体は分からないが、なんらかの手段によって召喚獣は消えたという事だ。


 一体どんな手段なのか正直想像もつかないが、召喚獣という最大の脅威と恐怖が消えたことにより、皆逃げるのを止め、町に戻るかどうか逡巡しているのだろう。


 「だから、レイが、目を覚ますの、待ってた。偉い?」


 まるで子供のように自分の主張をするリードがとても可愛く、同い年なのにレイはリードの頭を撫でた。


 「うん、偉い偉い。リード良くやったよ」


 「えへへ」


 ピアも昔はこんな風に撫でて、こんな風に笑ったものだ。--やっぱり、帰ったら真っ先に謝ろう。




 そのままリードを撫で続け、その間回りから聞こえてきた事を総合すると、やはり召喚獣が消えた事も確かだし、追手もいないようだ。


 ようやく安心する事ができ、短くないため息を漏らすと同時、風切り音と共に何かが飛行してくるのを確認した。


 「……?!飛行魔法!三人いる、リード、気をつけて!!」


 撫でるのをやめ、鞘に戻っていた自分の剣を確認すると、上空を睨みつけ一瞬も目を逸らさないようにする。


 すると、


 「フェイト~~」


 と、隣から間延びした声が響いた。


 フェイト?フェイトってあのフェイト?空を飛んでるのがフェイト?


 遠くてよく見えないが、あの赤い制服は騎士学校の物だ。自分も着ているのだし間違えようもない。


 「フェイト?」


 空中に止まった三人は、隣で手を振っているリードに気付いたようにこちらに降りてくる。


 「確かにフェイトみたいね」


 高度を降ろしてきて、ようやく顔が見えてきたので確信を持てた。


 ハテ?横にいる男女もなんだか見た記憶がある気がする。知り合いではないがどこかで見た顔、それもすごい有名人だった気がする。


 そしてフェイト達三人は、周りの注目に目もくれずこちらに降り立った。


 「リード!レイ!!無事だったか!!」




 降りたと同時に駆け寄ってきて、リードの手を握るフェイト。


 リードも子供みたいにはしゃいで、フェイトに手をぶんぶんと振られるままになっている。


 やれやれ、と思いつつフェイトに遅れ続いてくる二人に視線を戻すと----


 「!!??」

 

 あまりの衝撃に顎が外れそうな程口を開けてしまった。この場に知人がいなくて良かった、そう心底思える。


 フェイト達はレイを見ていなかったようだし不幸中の幸いだ。


 と、とにかくその二人に見覚えがあったのは当然だった。


 騎士を目指すならば、小学生でも知っている程の有名人。騎士王アルト・アヴァロンとグランドプリンセス・ユキ・アヴァロンその人達だった。




 「ふぇ、ふぇ、フェイ……ト?あれ……?」


 まだ絶句が直らないが、それでも開いた口は少しだけ閉まった。それでこの2人と一緒に来たフェイトに事情説明を求めたが、


 「おや、君達がフェイトの言っていた友人か。初めまして、アルト・アヴァロンと申す」


 「同じく、ユキ・アヴァロンと申します。どうぞ、よしなに」


 先手を打たれてしまった。……いや、そんな場合じゃない。騎士王とグランドプリンセスに名乗らせておいて、自分が名乗り返さない等非礼にも程がある。


 雷光もかくやと思うほど素早く膝を折り、地面に頭が付くほど深く頭を下げ自らも名乗る。


 「ハッ、申し訳ありません。不肖、私騎士学校ナイツォブラウンド所属1年生、レイ・ハルトと申します。以後お見知りおきを!!」


 決して頭を上げず、王達の次の言葉を待つ。


 周りからもザザッ!!と膝を折り頭を垂れるものや、深く正座をし頭を下げる者等がいたが、皆一様に二人に礼を取っていた。


 唯一の例外は立ったまま、辺りを見渡すフェイトだけだった。


 子供っぽく見えるリードですら、この二人に対して礼を弁えているのだ。




 「皆、面を上げなさい」


 ユキ様に命じられ、ようやく面を上げた全員が二人に張り付かんばかりに注目していた。


 「まず戦いの終わりを知らせよう。召喚獣ヘカントケイル、及び敵兵、敵兵器の沈黙を確認した。よってひとまずは安全宣言とする」


 その言葉に皆一様にほっとし、安堵の笑みを浮かべる。


 召喚獣が消えたとはいえ、キチンと知らされるまではやはり不安だったのだ。


 「それと同様に、今回の騒動は西グラビアナが差し向けた刺客が我々を狙った者だと判明し、首謀者及び実行者の処分を行った。……だが、私の不徳の致す所により、異国の、皆の故郷を踏みにじらせてしまった事を深く詫びる。--申し訳なかった」


 アルト王が町の人全員に向け頭を下げ、王女もアルトに続いて頭を下げた。


 あのアルト王が頭を下げたのだ。騎士王として例えられ、王としても清廉潔白を貫き、民心の理想の王たる王が自分達を相手に頭を下げたのだ。


 それがどれだけの意味を持つのか、頭を下げたアルトも、ユキも、町の人も理解している。


 ……だからこそ、誰も言葉を発すことができない。


 アルト達が言葉を喋らなければ、私達はずっと喋れないままだろう。




 そんな空気を察したかのように、グランドプリンセス・ユキが言葉を発する。


 「皆には大変迷惑をかけました。我々はこれより騎士学校に向かい、此度の騒動の元凶たる西グラビアナの処分をこの国と協議する予定になります。更に先の事にはなりますが、我々も騒動の元凶足る一部であるため、復興に掛かる費用の全額負担、復興労働の派遣を提案するつもりでおります。此度の戦乱に巻き込まれ、家族を、友人を、愛しき者を亡くした者達へのせめてもの謝罪とさせていただきたい」


 再びユキが頭を下げる。


 本来、一度でも王族が頭を下げるだけでも異例中の異例なのだが、それが二度となればもはやこの謝罪はポーズでもパフォーマンスでもなく、本当に悔み、追悼し、心からの謝罪だと分かる。




 そんな心を示されれば誰だって思う。


 そもそも戦争を起こしたのは西グラビアナの独裁で、アヴァロン国は巻き込まれただけ。


 それでも民のために謝罪し、死者へ涙を供養する姿は、民衆が求めた理想の王族なのだ、と。





 混乱というより、動揺が走って終わった国王と姫の謝罪はそこそこに切り上げられ、今アルト、ユキ、リード、レイはフェイトに抱えられ飛行魔法によって騎士学校を目指している。


 勿論、レイはフェイトに聞きたい事が山ほどあったし、リードは特に何も言わないがきっと聞きたい事がフェイトにあるのだろう。


 しかし、アルトとユキが一緒に掴まっているのであれば下手に口を開けない。


 王達の前で世間話等出来ようものか!!


 ……そんな緊張が空気を重くしたのか、騎士学校に着くまで会話はなかった。とは言っても飛行魔法は早いので、1~2分で着いたというのも理由の一つなのだが。


 既に日も沈み始め、校舎に残っている生徒は殆どいない。


 フェイトは校舎の入り口付近に着地すると、校長室までアルト達を案内した。


 「ありがとう、後は大人が解決する」


 「フェイト、其なたの協力、誠に大義でありました」


 と、二人はフェイトに改めてお礼をいい、校長室に入っていった。


 本来こんな名誉な事、膝つきで拝命するようなものだが、フェイトは敬礼だけで誉れを頂いていた。




 --いったいあの戦火の中、何があったのだろう?


 そんな疑問がついに肥大化し、アルト達もいなくなったことにより、校長室の前でフェイトに尋ねていた。


 「フェイト、一体どうなってんのよ?」


 すると、フェイトは少し困ったような顔をして、


 「騒ぎの中心があの二人で、西グラビアナの侵略ってのは理解したな?」


 それにはレイもリードも頷いて首肯する。


 「で、だ。さすがのアルト王も罠にかけられ負傷していた。そこに通りがかった俺が騎士学校の生徒と知り、協力を要請された。それで俺がユキ姫を護衛し、その間にアルト王が召喚獣ヘカントケイルを倒した」


 「嘘っ!?」


 思わず声が大きくなってしまい、リードとフェイトに「シーッ!」、と注意される。


 「……ごめん、それで?」


 「ああ、その後はさっきアルト王が言った通り町の皆に謝罪と、ここでの打ち合わせのために俺が護衛兼送迎した」


 「……」




 大雑把だが何とか理解は出来た。いや、細かい部分はとてもじゃないが全く解決してないが、今はこれで満足しておこう。


 明日以降、フェイトも自分も落ち着いてから改めて話を聞こうと思った。


 と、それまで喋らなかったリードがフェイトに話しかける。


 「フェイト?飛行魔法、使えるって、喋って、良かったの?」


 ……リードは前からフェイトが飛行魔法を使えるのを知っていた?魔法学校卒業レベルを持つ飛行魔法を使えるなんて特異なフェイトを知っていて、それでも普通に友達だったと?

確かにリードも天才派だとは思うが、フェイトはそれを通り越して特異と呼べる。


 「ああ、もう吹っ切れた。これからは魔法を使える事を隠さないし、堂々と騎士を目指す」


 レイは驚きで目を瞠った。


 魔法師を目指せば将来安泰確実なのに、フェイトはそれがいらないと言い、騎士を目指すと言っているのだ。


 フェイトの物差しは、レイの物差しでは決して計ることが出来ないとぼんやり理解した。




 ----しばらくして


 「フェイト・セーブ。入りなさい」


 と、校長の声が校長室から響いてきた。


 「ハッ!」


 フェイトは勢いよく返事をし、リードとレイに軽く目で合図してから、部屋へと招き入れられた。


 「君がフェイトか、正直顔を見るのは初めてだが、私がナイツォブラウンド校長、ライト・ローリングだ」


 「ハッ!騎士学校ナイツォブラウンド1年、フェイト・セーブです」


 フェイトは軽く膝を折り、頭を下げる。


 「いや、そんなに畏まらなくていい。話しというのは私からではなく、アルトからなのだから」


 そう校長から言われ、態勢を戻し背筋を正す。


 「フェイト君、今回の事で我が国への招待は辞退したが、それではこの騒動の鎮静に最も協力してくれた君への面目が立たない。よって君に褒美を検討したのだが、どうかね?」


 フェイトは驚きで、目が点になりかけたが、直ぐに思考を戻し言葉を探す。


 「え、えー、あ。ハ、ハイッ!騎士王、グランドプリンセスより賜りし賛辞すら身に余る光栄!これ以上の報償など--」


 「フェイト、謙遜も行き過ぎれば酷き物となると知りなさい。あなたは間違いなく私達のために貢献しました。これを断るのは逆に不忠となります」


 ユキの鋭く厳しい言葉に、フェイトは逃げ場をなくし、恭しく膝を折った。


 「大変失礼致しました」


 「ああ、ユキ、あまり苛めるなよ?--それはそうと、これを渡そうと思う」




 ふぁさっ、と柔らかな衣ずれの音と共に目の前に差し出されたのは、アルト王が身につけていた空色、のような水色の淡いマントを授かった。


 「これは湖の妖精が奇跡の水から織ったと言われる妖精のマントだ。これを君に授ける」


 フェイトは差し出された、とても淡く、綺麗な色合いのマントに目が釘付けになった。


 それはとても神秘的な物であることは間違い無く、魔力がふんだんに込められたこの世に一つだけの貴重品だ。


 「確かに受け賜りました。アルト王、言葉に尽くしきれない感謝をここに----」


 フェイトは黙礼にて、アルト王に全身で礼を尽くした。




 そして、その横からふわりとした声が響く。


 「私からは、其なたに騎士の称号を授けます。貴方だけの称号、それを今日から胸に刻み生き抜き、よりたくさんの人々を守る為に力が振るわれる事を望みます」


 グランドプリンセスからは、正式に騎士の称号を授かった。だからこそ、第三者を含む立会人がいるこの校長室に呼ばれたのかもしれない。


 「騎士の名は『赤魔騎士』。世界にたった一人しかいない、学生でありながら魔法を使いこなし、騎士王とグランドプリンセスを救い出したのです。どうでしょうか?」


 フェイトは感激で泣きそうだった。この二人はこの称号にありったけの想いを込めて授けてくれた。


 救ってくれた恩、今日この日知り合えた奇跡、そして永遠の友情と思い出を、全てを集約して付けられたこの称号は、フェイトの『誇り』だ。


 「……素敵な、とても素敵な称号を、ありがとう……ございます」


 フェイトは嬉しくて泣きながらやっとの事で返事を返せた。


 アルトは満足そうに頷き、ライト校長は誇りを感じ、ユキは




 ----優しくフェイトを包み込むように抱き締め、涙が止まるまでずっと温もりを与えてくれた----

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