騎士王、怒りの宝剣
ガガガガガガ----
空中機動兵器の右手から乱射されるマシンガンを、フェイトは風のバリアによって防いでいた。
「種が割れた手品程面白くないものはないんだよ、お前には人工知能AIが積んであるんだろうが、人間を甘く見るなよ?」
空中兵器アトミック・レイはマシンガンが効かないとみるや、再び足の部分からミサイルを発射しフェイトを狙う。
それを、先と同じようにフェイトは水の防御に切り替えミサイルを流し落とす。
そして----
(確実に次はレーザーがくる。そんなローテーションを切り替えるために必要な経験は機械知能じゃまだ足りない。だが、人間相手にそんなローテーションが通じると思うな)
自分が作り出した激流に、放たれたミサイルによって視覚が奪われているが問題ない。
フェイトはそのまま魔法を詠唱する。
「アクアボルト!」
今まで下に向けて流れていた水が指向性を持たされ、更にはそこに電撃を飽和しながらアトミック・レイに向かって撃ち出される。
アトミック・レイはレーザーのチャージを一時中断、即座に胴体よりシールドを展開する。
ビシッ!
アトミック・レイの電磁シールドに、勢いよく撃ち出された水雷がぶつかるが、決して貫くことは出来ずに、シールドによって力無く霧散されていく。
だが、それも計算通りだ。
水雷が防がれている中、フェイトは更に追撃を仕掛けていたのだから。
「フレアボム!」
フェイトの周りに合計4つの熱球が生み出され、それぞれが上下左右に撃ち別れアトミック・レイを襲う。
ここで、相手が機械という利点が活きた。本来不意打ちに関して人は思考を停止せざるを得ない状況の時、防御も回避も頭から跳ぶというのは決して珍しいことではない。
しかし、人口知能であるAIはただ忠実に防御プログラムを実行する。
「シールド、一点型から切り替え、全方位型に展開、完了」
そして、避けきれない熱球は全方位へ包むように展開されたシールドにより、本体に触れる事無く爆発してしまった。
「ウインドスラスト!」
だが、フェイトは更に追撃をかける。今度は風の魔法において真空波を生み出し正面からぶつける。
これもアトミック・レイはプログラム通り正面にシールドエネルギーを集中させ防ぎきる。
「エアプレス!」
風と土の複合魔法により、空気が左右から結合するように圧縮し、圧縮内に対象を設置することによって空中であろうが問答無用でプレス機のような高圧力をかける。
アトミック・レイのAIは決して攻撃プログラムには移行せずに、再びシールドを左右に展開し魔法の直撃を避け続ける。
既に4種類も魔法追連を行ったフェイトに、もはや余力はないのか次の攻撃はこない。
アトミック・レイは防御プログラムから攻撃プログラムに切り替えた、その瞬間。
AIであってもこの追撃の意味を悟った。
そしてこれから訪れるものが、敗北という事も。
フェイトの真の狙いは、--飛行魔法の解除であった。
飛行魔法中は上級魔法が併用できない。
飛行魔法が解けるか、上級魔法が完成しないかのどちらかしか結果を生まないため、敢えて下級魔法や中級魔法だけで応戦していたのだ。
だが、それらは全て目眩し。フェイトはあの飛行兵器を撃ち落とすため、砲台となる固定された頑強な足場を探していただけだったのだ。
そして、飛行魔法を解除したフェイトから紡ぎだされる魔法は勿論----
「マグナムボルケーノ!!!」
詠唱破棄して尚上級の威力を保つフェイトの魔力量が生み出す、マグマの渦。
本来マグマの温度は800℃~1200℃と高温ではあるが、合金を用いられているアトミック・レイならば耐えきれる温度でもある。
……が、それはあくまでも物理法則の中の話である。
このマグマは魔法によって引き出されたものであり、フェイトが用いた火属性の魔法力による向上で、既に3000℃を超える超高温をこのマグマは秘めていた。
アトミック・レイも自らのボディ損傷の危機に、全開の一点防御シールドにおいて防衛する。
だが、今までフェイトの魔法全てを霧散させていたこの強力なシールドですら、拮抗から一歩押されている。
いずれ押し切られるだろうとAIも判断するが、今シールドを解除すれば即座に落とされてしまう。
だからこそ、残存エネルギー全てを正面のシールドに回しガードしたが----
「だから機械なんだ。機械が人間に追いつくには1000年早いってーの!!」
フェイトは魔法で押し切ることもできたが、既に次の素早い行動移っており、アトミック・レイの真横へと飛んでいた。フェイトは機械のAIを完全に上回ったのだ。
「ハァァァ!!!!」
キィン----
裂昂の気声とは裏腹に、澄んだ音を立て金属が一刀の下両断される。
一流の剣士において、基本にして奥義とされる『斬鉄』。
フェイトは鉄よりも強度があり、その全長から相応の厚みもあるはずの飛行兵器アトミック・レイを、空を切るかの如く自然に二対のガラクタへと斬り離した。
「遅くなりました」
そしてフェイトは待たせていた、ユキの下へと馳せ参じる。
「よきに、フェイト大義でありました」
「ハッ!騎士学校所属フェイト・セーブ、グランドプリンセス、ユキ・アヴァロン様より頂きし賛辞、今ここに千年刻む事を誓い、頂戴致します!!」
騎士学校1年生にして、グランドプリンセスより賛辞を頂いた事は、以後彼の創る伝説の始まりの1ページとなるのであった------
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一方、アルトは……
「さあ、選べ!後何秒かかる?ん~??なら俺が決めてやるよ後5秒だ!!」
アルトよりも人格としてはるかに格下となる、この自己中心的な性格のレアルは、優越感に震え興奮しきっていた。
「5!!」
しかし、アルトは表情を崩さず考え続ける。
子供100人を人質に取られた絶望的な状況の中、打開策を必死に考え見つけ出そうとする。
「4!!」
目にも見えない神速を以って子供を取り囲む兵を全滅させる。否、それでも兵が引き金を引くには半秒もかからない。兵も100人近くいるのにこの策は使えない。
「3!!」
自らの命、そして国を差し出す。否、目の前の子供達100人は守るべき命だが、我が国の民、数千万の命を預かる身として断じてこの判断は許されるものではない。
「2!!」
結局最後に残るのは、引き算。人の命に順位はなく等しく大切だと言うが、その綺麗事だけでは政治も、国も治められない事を現実として知っている。
「1!!」
ならば、背負おう。せめてこの100人の命を散らすからには、この子達が望んだ未来をいつか築こう。そしてこの100人以上の命をこの手で救い、それを以って償いとしよう。
子達よ、罪深き王を許せ----
アルトは目を見瞠き、覚悟を決めた。
そして訪れるカウントの終焉、レアルは恐らく虐殺を執行した後、身を隠し本国へ逃走し、私に対する悪辣な策を披露してくるだろう。
ここで奴の逃走を止めなければ、この子供達にすら申し訳が立たない。
レアルはここで絶対に仕留める。その決定を下した瞬間に、視界の端から飛び出す漆黒の影が躍る様が見えた。
影は一瞬にて子供達を取り囲んでいる兵の半数程をその長身の赤槍にて蹴散らし、尚も暴れ続けている。
兵達は一瞬、方向外からきた乱入者に気勢を持っていかれたが、それでも邪魔になるのならばまず任務として子供達の始末に回ろうと再び銃口が子供達に向けられたが……
アルトが、その決定的な一瞬を見逃すハズが無かった。
乱入者が作ってくれた一瞬の隙と混乱を活かし、雷光の如く切り込んだのだ。
一人では全員を倒しきる事が不可能だったが、アルトに似たような実力者が既に半数を倒し、時間も一瞬作ってくれたのであれば後は造作も無い。
子供達を決して傷つけぬよう身を捌き、擦り抜け、敵兵を次々と沈黙させ、二度と戻ってはこれぬ冥府へと送る。
僅か一秒も経たずに、二人の男の走駆によって銃を持った兵隊100人が鎮圧された。
「なっ……ばかな、ばかなばかなばかなばかな!!!!一体全体どうしたというのだ!!!」
レアルの親衛隊でもあった兵士達は全て沈黙し、この場で立っていられるものは、アルト、レアル、謎の旅人装束の男、ヘカントケイルのみとなった。
「驚いたぞ、お前がこの町にいるなんてな。青き----」
「おっと、その名前の由来、あんた知ってんだろ?……なら呼ばないでくれ。俺はその名前は捨てたんだ」
アルトは男が何者であるかを知り、そして名を呼ばれる事を拒否した男もアルトを知っているようだ。
「……すまなかった。だが、助かったのは事実だ。礼を言う」
「よせやい、俺は俺のやりたいようにやっただけだ。騎士王さんがいなけりゃ俺がやったのは、結果が悲惨な目も当てられない大博打ってやつなんだぜ」
二人共お互いを見ている訳ではないが、それでも会話をしている。
その二人が視線を固定しているのは----レアルとヘカントケイル。
「貴様何者だ!何故私の邪魔をする!!無礼者が……おのれおのれおのれぇーー!!ヘカントケイルよ、奴らを踏み潰せ!」
レアルが命じ、ヘカントケイルが立ち上がるが左足が動かないのでは脅威も半減だ。
「さっすが騎士王、召喚獣を一人で仕留めるなんざ伝説以上の化物だぜ、あんた」
あくまで笑いながらアルトに話しかける旅人装束の男は、どこか愉快気に酒のつまみに興じるかの如く真面目には見えない。
「礼を言うが、あの二匹は私が決着をつけねばなるまい。……目の前の子供達は救えたが、この町、私の部下、……救えなかった命は今回の戦いで幾つもあるのだ」
旅人装束の男は、軽く肩をすくめながら肯定する。
「なら、遠慮なくやるんだな。俺があの子供達をさっさと避難させてやる。--20秒でどうだ?」
「10秒だ」
ヒュウ、と口笛を鳴らし旅人装束の男は消えるように速く、子供達の所まで近づき担ぎあげ避難させる。
その間、ヘカントケイルは命令に従い足元付近にいる子供達に狙いを定め、その巨大な右腕を鎚のよう遠慮なく振り下ろすが、
「させん!!」
裂帛の気豪と共に振り抜いた宝剣が、黄金の光を放ちながら振り上げられ、巨人の手と交差し、1mmも沈まずに喰い止める。
見ていた者はその光景を生涯忘れられないだろう。
50mからなる巨人、ヘカントケイルの右腕を剣1本、その身1つで受けきったアルト王の雄姿を。
「なんだと!?き、貴様!人間なのか!??」
「ぬううおおおおお!!!」
アルトが更に力を込め、拮抗していた力の天秤は傾き、ヘカントケイルの右腕を弾き退ける。
「へっ、やっぱ化物じゃねえか。いくら伝説の剣エクスカリバーだからって、それを振るってんのはあんたなんだから、あんたが化物なんだよ」
僅か10秒、それでも男は約束通り子供100人を戦闘区域外に運び出し、攻撃の余波に備える。
「覚悟を決めろ。これがお前の選んだ物語なのだ。結末に後悔するな」
光が、アルトから光が放たれている。
人間に備わっているものとして、魔力と<ロア>の2種類が存在している。
本来、騎士とは魔法を極める者ではなく、剣や槍、斧等によって戦いを行う。
その際通常以上の威力を引き出すのが、この生命エネルギー、<ロア>に分類されるものである。
軽く使うだけならば、休息により回復もするが、多量に使う場合は最悪命に関わる場合もある。
だが、騎士はそのいざという場面において<ロア>を使う事は厭わない。
なぜならば、騎士が命を懸ける場面においては、自身の命よりも優先すべき『何か』があるからだ。
それは王であったり、姫であったり、恋人であったり友人であったり、--誇りであったり。
今、アルトが<ロア>をエクスカリバーに注ぎ込んでいるのは、レアルがアルトの逆鱗に触れたからだ。
妻のユキに手を出し、国に手をだし、見ず知らずの子供達を人質にとったレアルをアルトは絶対に許さない。
「や、やめろ……そんなの……ほんとに、シャレに、なら、な----」
既に泡を吹きかけて、失神しそうなレアルだがアルトは絶対に許さない。
「覚悟を決めろと言ったはずだ。お前には気を失い全てを背負わずに消える事は、決して許されていないのだからだ!!!!」
アルトの雄叫びが、大地を、空を揺らす。
既に限界まで溢れんばかりに込められた<ロア>は、黄金の剣を更なる輝きで包み解放の時を待つ。
「や、やめてくれーーーーー!!!!!」
「その罪、地獄まで持っていけ!!」
レアルが頭を伏せ、ヘカントケイルはその本能に従うままに危機の元凶を滅そうとアルトに肉薄する。
だが、それすら全て遅い----
彼の宝剣は輝きを増し、聖剣として目の前の敵を全て焼き尽くす。
「エクス----カリバァーーーーー!!!!!!」
光が、全てを圧倒的に覆い、この町にて解き放たれた黄金の聖光は天を貫き、海を越えた先でも見られたと言われる。
それなのにこの圧倒的な光は一切の音を立てる事無く、静謐に輝きを増すだけだった。
そして、光が集束し晴れてくる。
まるで天使がこの世界に降りてきたかの如く、光がキラキラと舞い踊り、ダイヤモンドダストよりも眩く、レンブラント光線よりも神秘的に、虹よりも美しく輝いていた。
「終わった、な」
「--あぁ」
いつのまにか隣に来ていた旅人装束の男に話しかけられ、アルトは短く答える。
「あれだけの<ロア>だ、しばらくは立つのも辛いだろうが我慢しな。召喚獣すら吹き飛ばしちまう無茶苦茶な威力だ。反動がない方がおかしいんだからな」
そんな男の言葉にアルトは、小さく笑って返すだけだった。
「私は私の『誇り』のために闘っただけだ。それでユキも……あの少年も納得してくれるさ」
「あの少年?」
旅人装束の男が判らず言葉を返すが、返事はなかった。
「ま、ゆっくり眠ってなって。残党も今の光と召喚獣の消滅をみたら逃げ出すだろ。それにお前の奥さんも、今言った少年ってやらも多分駆けつけて来んじゃねーかな?」
そして、旅人装束の男は地に横たわるアルトに背を向け、この場を影のように去る。
「んじゃな、騎士王。縁があったら、また会おうぜ」
テロ開始から1時間後、騎士王アルト、騎士学校生徒フェイト、旅人装束の男、そしてゲート突破に死力を尽くした学生レイとリードの活躍によって、無事終息を迎えた----