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騎士学校の俺と俺だけの姫様  作者: スピキュール
少年騎士、生誕
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剣撃開幕

 裏通りから表の通りへ出て、フェイトとユキは市外へと駆け抜けようとしていたが、やはりというべきか敵の待ち伏せ部隊によって見つかってしまった。


 向こうもバカではないらしく、西ゲート付近は全てヘカントケイルに任せ部隊を他方面に散らしたらしい。


 もっとも、西に部隊を展開したらしたで単純にヘカントケイルの巻き添えになるだけ、というのが正解かもしれないが。


 そんな状況のため、アルトは敵兵に戦力を削がれはしないだろうが、残った部隊全てはこちらに集中してしまうのだ。


 「鬱陶しい!ライトニング!」


 簡易な雷撃魔法だが、利点としては詠唱も攻撃速度も最速に位置する便利な魔法だ。

その分威力はスタンガン程度に留まり、4人を気絶させることも出来ずただの時間稼ぎにしか用いれない。




 「まいった、予想以上に敵が多いみたいです」


 背後に控えるユキに対してそう告げ、自分の状況判断の甘さを悔いた。


 「いいえ、事前に私達への襲撃の規模を情報として統合するのを怠った私が悪いのです。どうぞ、よしなに」


 と、護衛対象の姫様に謝られてしまってはフェイトの立つ瀬がない。


 「いえ、申し訳ありません。ではこれより飛行魔法にて町を抜けます、私は絶対に離しませんが姫も何卒しっかりとお掴まり下さい」


 そう言って、ユキはフェイトの懐まで近づき手を回して、フェイトの腰にしっかりとしがみついた。




 (う、うわーー)


 フェイトは言葉に出来ない感想に詰まっていた。


 とてもじゃないが、ここが戦場ということを忘れそうな程いい香りが懐から立ち昇るし、豊満で柔らかでマシュマロみたいな胸が、胸がどうあがいても健全な男子には抗いがたく蠱惑的でもあり、そのピッタリと張り付いた感触を手放す事は余程の強靭な意志が必要に思える。


 というか自力で離れて下さいとは絶対に言えないように思えた。


 「どうか致しましたか?」


 と、ユキから尋ねられたのはフェイトが誤魔化しきれないほど硬直して、耳まで真っ赤にしていたからだ。


 そんなフェイトの反応にユキはクスクスと笑いを漏らす。


 「私を守って下さるのでしょう?小さな騎士さん」


 あ、分かった。半分わざとだ。だって更に密着度が上がって意識が飛びそうな程クラクラする。




 こ、この人は今が緊急事態だって本当に分かっているのだろうか?


 「どうか致しましたか?それとも私をアルトの手から攫いだすと?」


 一瞬、ほんの一瞬だけ、このユキという女性が自分の将来まで誓い合えるパートナーだったら。……思ってしまった。


 ----だが、すぐに頭を振って邪念を叩きだす。アルト・アヴァロンとユキ・アヴァロンの絶対の信頼関係こそが理想なんだ。その理想に己が欲で牙を剥いてどうする、と。


 「失礼致しました。それではこれより飛びますので本当に悪ふざけはお良し下さい。では飛びます」


 「はい」


 それからユキはからかうことをやめ、普通程度にギュッとフェイトに掴まった。




 「ロックブラスト!」


 フェイトが空を飛びつつ魔法を使うのはこれで5度目だ。飛行魔法と併用するにはよくて中級魔法まで、上級魔法はその集中力と創造力から飛行魔法使いながらではとても併用することはできない。


 もっとも、魔法は使い方次第で下級魔法の方でも十二分に威力を発揮することだって可能だ。フェイトは魔力の消費を抑えるために下級魔法で人以外を狙うようにしている。


 建物を崩したり、地面を捲って動きを制限したり、今のように石つぶての嵐を高い場所から放つことにより威力を底上げし、敵兵を牽制したりと様々な魔法と戦術を1つとして同じものを見せずに戦場を切り抜けていく。


 「フェイト、其なたは本当に魔法師たらんと言うのですか?」




 ユキの疑問はもっともだった。フェイト程の魔法センス、魔法力の高さ、魔法の種類があればとっくに天才魔法師の名を欲しいままにしている。


 フェイトはまだ15歳、本来であれば魔法学校の生徒であっても1年生なのだ。


 「本当ですよ、俺は騎士です。……こんな魔法を使えてしまうのだから何度も両親に魔法師を勧められましたよ。----誰も俺の夢なんか見ていなかった、皆才能しか見てくれなかったんだ」


 フェイトに初めて射す昔の暗き影。ユキはそれが触れてはならないものだと知って、素直に謝った。


 「申し訳ない、其なたにも事情があったというのに。どうか憚らぬ愚明な私を許して欲しい」


 「いえ、こちらの一方的な感情でしたから。こちらこそ申し訳ありません。……っと、フラッシュ!」


 話している最中に敵に見つかったため、フェイトは火と水を同じエネルギーで作りだし合わせる事により、発生したエネルギーの消滅を目眩しの光とした。


 もちろんその光によって敵から逃れ、また空を加速し逃げる。


 「さぞ苦労したであろう。私には其なたの苦しみを分かち合う事は叶わぬが、それでも一言だけ」


 フェイトは周りを警戒しているため、視線だけをユキに向けその続きの言葉を待つ。


 「今我らを救っているのは間違いなく其なたの魔法の力だ。今まで苦しみながらも生きる努力を怠らず、騎士を目指し博愛の精神を身に付けた事、全ては自らの夢を叶えるため必死に殻を破り磨き続けたからであろう。ありがとう、フェイト」




 フェイトはハッと驚き、知らず目頭が熱くなっていた。


 ユキは、フェイトの夢を詳しくは知らないはずだ。--それでも、フェイトが何故騎士に憧れ、騎士を目指しているのかを理解しようとしてくれ、認めてくれた。


 認めてもらえた、……たったこれだけで、心は救われるのだ。


 誰もが子供の頃に夢見た己の甘美な物語、限界を知らず、果てを知らずに自分こそが世界の中心だと信じて疑わない傲慢な心。


 だが子供は成長する毎に現実を知り、己の限界を知り夢を追わなくなる。


 フェイトはただひたすら純粋に夢を追った、だが周りは理解をしてくれなかったし、子供が子供でなくなり大人の階段を昇る最中でも夢を追う姿はどれだけ憐れに見えていたか。


 そんな世界の中でもユキは違った、認めてくれた。例えユキがグランドプリンセスという地位でなくても、ユキが認めてくれればそれだけで心は満たされた事だろう。




 フェイトはユキを抱えていない方の左手で、ユキに見えないようそっと涙を拭った。


 「ありがとうございます、ユキ。おかげで吹っ切れました」


 ユキは驚いたように口を開け、こちらを穴が開くほど見つめている。


 「私を呼び捨てにしたのは両親とアルトを除いて、其なたが初めてです。とても名誉な事ですよ?」


 そのことか、とフェイトは思った。


 先のユキからもらった言葉の内、最後だけはきっと姫としての言葉ではなく、ユキとして向けてくれた言葉だから、フェイトもこの一瞬だけはユキをお姫様扱いしなかったのだ。


 「打ち首は怖いので、これからはユキ様と呼ばせていただきますよ?」


 フェイトはあえてユキの挑発に乗り、そう切り返した。


 プッ、とユキから笑いがこぼれたことから、これがきっと正解だったのだろう。--そう思い戦場の中、小さな花を愛でた。






 「ハァァ!!」


 裂帛の気迫と共に上段から振り抜かれる宝剣により、ヘカントケイルに傷を増やす。


 あれから数十合切っては払い、時には危険を顧みず十撃以上連続で切り込んだ場面もあったのに、この底知れない召喚獣ヘカントケイルの動きは鈍くもならない。


 迫りくる巨腕を加速をつけ範囲外に離脱、回避しアルトは初めて息を吐いた。


 「さすがは召喚獣、これは歯ごたえがある」


 もっともアルトにもまだまだ余裕の笑みがあり、勝負の行方はまだ分からない。


 (治癒魔法が効いたな)


 銃傷を治したのは勿論、今までの戦いによって少しずつ失われていた<ロア>も回復していたのだ。


 まるで全盛期に前線で剣を振るっていた時の如く力が溢れてくる。


 「フッ!」


 瞬速の歩合いにより敵との距離を一瞬で縮め、その勢いのまま振り抜く逆袈裟切りは並のモンスターや鋼の鎧であっても粉々に粉砕するであろう威力を放ち、ヘカントケイルの肉を切り裂くが、既に似たような攻撃を数十度受けきっている巨人は何事もなかったかのように平然と反撃を繰り出してくる。


 アルトは間合いを詰めたのとは真逆に飛び退り、ダメージを最小限に抑え巨人の攻撃を掻い潜る。


 目標を見失った巨腕は戦車の爆撃のように舗装されたアスファルトを、絨毯のように簡単に捲り上げる。




 「キリがないな」


 力を込め切り裂いても動きを止めず、剣を埋める程に突き刺しても骨格には届かず、連撃においてダメージを稼いでも顔色一つ変えない。


 アルトは今まで二度召喚獣と剣を交えたことがあるが、その時は心強い部下が居た上に魔法による援護もあった。


 防ぎきれない強大な灼熱の炎を吐く竜も、それぞれ独立した意思を持つ首でこちらを苦しめた地獄の番犬も、攻撃を続けていくうちに相手の体力を確実に削ったと分かったのだが……


 この巨人はどれだけの体力があるのだろう?今が1割削ったのか、それとも半分削ったのか、それとも--1%も削れていないのか。


 それすら判別がつかない。


 「最大の武器はこの巨大さか」


 額に零れる汗を拭いながら目の前に立ちはだかる巨人を見上げる。


 底なしに見える体力こそがこの巨人の武器ならば、自分も体力はともかく精神力で負けるわけにはいかない。


 「破壊を尽くす巨人よ、貴様は確かに強いが私には帰りを待つ妻、国の民、そしてこの遠き異国で巡り合った少年騎士が待っている。私が勝つまで付き合ってもらうぞ!!」


 そしてアルトは再び戦場を黄金の剣と共に、駆け抜ける。



■■■■■■




 異変は突如現れた。


 今まで自分達は空を飛び、地上からくる銃弾にさえ気をつけていれば町から逃げ出し、安全圏へと向かえると思っていた。


 だが、非情にもそんな甘い予想は砕かれた。


 --ヒュン


 突如何か熱い物体が頬を掠めた。


 「!?姫!危ないからしっかりと掴まっていて!!」


 返事も待たずにフェイトは急激に軌道と高度を変え、あたかもそこが狙われていると確信するかの如く回避行動にでた。


 直後、紫色に光る可視化された熱エネルギーの塊であるレーザーが、一時前まで自分達が飛行していた場所を寸分違わず埋め尽くした。


 「レーザー兵器?!一体どこの国だ!」


 先に受けたレーザーは恐らくノンチャージで撃ち出され、まさに当たれば儲けもの、位で発射されたのだろう。




 だが、次に来た極太のレーザーはチャージ音が空気を伝わりこちらに届いてきていたので、フェイトはチャージの隙をみて回避に移ったのだ。


 「助かり申した、しかしレーザーとなれば召喚獣を持つあの国とは思えない……いや、むしろ敵兵が兵器を中心とした部隊であることを顧みれば……」


 「姫、詮索は後です。今は敵を退ける事を考えなくては」


 「……そうですね、恐らく敵は飛行型独立軍事兵器、アトミック・レイを用いてきたのでしょう。まさか、そんな最新鋭の兵器までつぎ込んでくるとは」


 フェイトも薄々感じていたが、フェイト以外にもこの空を切る翼の音、つまり何かが空を飛び追ってきたのだ。


 「信じられないような兵器ですね。独立して動く機械頭脳自体まだ進歩途中だというのに、それが軍事兵器で空まで飛んでくるとなれば」


 フェイトはちらりと後ろを見ると、フェイトの飛行魔法の速度に張り付くように飛行兵器、アトミック・レイが後ろを飛んでいた。


 まるでよく出来たアニメの中の話に出て来るような、機械人形だ。


 人の二足二腕を模して造られた兵器は無機質なアイセンサーで、こちらを常にターゲッティングしている。


 「姫、このままでは狙い撃ちされていずれこちらが墜とされます!姫を一旦どこかの屋上に下ろしますので、そのまま身を伏せてお待ち下さい!」


 勿論身を伏せていようが、敵が爆弾を乱撃すれば危険はあるだろうが、少なくとも同じような高さから狙われない限り銃の死角となる場所に下ろせれば危険は減る。


 「あそこに下ろします!お願いですからじっとしていて下さい」


 コクン、とユキは力強く頷き了とした。




 「すぐに決着をつけてきます、しばしの間側を離れることにお許しを」


 いくら敵兵の銃から死角でも、空中兵器からすればここは格好の的になる。別れの言葉すら満足に交わせずフェイトは迎撃に向かう。


 「信じていますよ、フェイト。あなたの未来を」


 今度はフェイトがコクンと頷き、再び飛行魔法で飛びあがりアトミック・レイを迎え撃つ形で立ちはだかった。


 「俺はフェイト・セーブ。アルト・アヴァロンの命によりユキ・アヴァロンの命を預かるものなり!堂々と参られよ!!」


 フェイトは腰に差してある、今日買ったばかりの騎士剣『ホークル』を抜いた。


 その瞬間、まるで人間のような四肢を持った兵器の左手に当たる部分から、こちらを抹殺する容赦のないレーザーが放たれた。


 「のわっ!」


 慌てて避け何とか事なきを得るが、騎士の名乗りの最中に問答無用とは本当にこの兵器のプログラムは心がない。




 「ただで済むと思うなよ?俺は今名乗りを邪魔されて不機嫌なんだ。--鉄槌を下してやる!!」


 フェイトはライトニングを素早く発動させたが、アトミック・レイの胴体に当たる部分から電磁シールドが展開され、雷撃魔法が霧散した。


 「何だと!?」


 最速を誇る魔法がこうもあっさり防がれるとは、どうやら防御等のカウンタープログラムの反射速度がかなり高いようだ。


 お返しとばかりに向こうの右手から放たれる実弾が、無反動マシンガンとして次々と襲いかかってくる。


 「ふざけやがって、ウインドガード」


 風のバリアを三重に張り巡らせ、全ての弾丸から身を守るが、


 「ビックリ箱かよ」


 敵の膝の部分が開閉したかと思ったら、ホーミングタイプのミサイルがフェイト向かって飛んできた。


 「風のバリアじゃ防ぎきれないな……ウォーターフォール」


 風のバリアを解除し、今度は激流のカーテンを発生させミサイルを決して通さず地上へと押し流す。


 「ふふん--ってやばっ!」


 少し勝ち誇っていたフェイトだが、アトミック・レイの左手がチャージを開始しているのを見て慌ててその場から離れる。


 ゴオオオオ!!!


 そして今フェイトがいた場所を、激流のカーテンをあっさり突き崩し正確無比に撃ち抜いてくる。


 (パターンはおおよそあれだけか。さて、後はどう攻撃を掻い潜り防御を突破するか?)





 「ぬうん!!」


 アルトは先とは狙いを変え、今現在ヘカントケイルの左足を集中的に狙っている。


 片足だけでもダメージを与え続け機能を損なわせれば、少なくともこれ以上の被害の拡大は防げるし、相手の攻撃範囲も激減する。


 作戦としては良かったのだが、すでに先の数十度の剣撃を合わせれば二百は超えるだろう剣劇を左足だけに与えている。


 巨人から溢れる青き血も既に相当な出血となっており、足場が血でぬかるむ。


 再び襲いかかる破壊の暴風の如き巨人の腕をかわすと、アルトの目にようやく待ち望んだ変化が訪れた事を告げた。


 腕が想定範囲より伸びてこなかったのだ。今までならば届いた範囲なのに。


 それはつまり----


 「ついに片足取ったか----チェックも近いな」


 そう、あの巨人ヘカントケイルがついに膝をつき倒れたのだ。




 息も絶え絶えに、ようやく訪れた勝機に身を振るわせたい所だが、改めて冷静になるためひとまず深呼吸をし気持ちを落ち着かせる。


 ヒュン、と宝剣に付着した血を振り払うとアルトは改めて剣を構える。


 「打ち取らせてもらうぞ、召喚獣」


 勝負の趨勢は決まった、そう誰もが確信できる状況。


 --それが


 「待て!アルト・アヴァロン!!これが見えぬか!!」


 突如この人外の戦場に響く場違いな声。どこか、とアルトが周囲を見渡すとそれは頭上から降ってきていた。


 「ここだよ、アルト・アヴァロン」


 召喚獣ヘカントケイルの肩に立つその男


 「貴様は……レアル・アンドリュー!!やはり貴様だったか!!」


 アルトが予想していた通り、ヘカントケイルを従えるよう肩に揺られているのは、この戦争という状況を作った張本人。


 西グラビアナ王国の頂点に君臨する、レアル・アンドリューその人だった。


 「久しいな、アルト。元気だったか?」


 その妙に勝ち誇った顔、そして自分以外全てが虫けらとしか思っていない尊慢な態度、人格者のアルトを持ってしても好きになれない人物だった。


 「ああ、お前の王国に比べて我が国は活気に満ち溢れているからね」


 ギリッ、と歯ぎしりでもしそうな程口を噛みしめ怨嗟を飲み込むレアル。


 「お前の国は広い領土を持ってはいるが貴様が暴君、暗君のため発展もできず常に苦しい状態。と聞いていたが、このような争いを仕掛けてくるようでは本当だったようだな」




 アルトの治める国『アヴァロン』は理想郷の名に違わず、何代も続く優しく優秀な王によって素晴らしき発展を遂げていた。


 しかし、その隣に位置する西グラビアナ王国は古くからの体制を維持するだけで、国のエネルギーが発展や国益に使われず、全て特権階級の人々に集中していた。


 さらには、他国との貿易自体はあるが他国への移住は基本的に認めておらず、また移住を望んだ場合法外な金額が要求されるため、民はどんなに苦しくとも逃げ出すことも適わないのだ。


 その状況を見かねて近隣諸外国や、海を越えた先にある大国が援助を申し出ても断り、絶対に領土へと踏み入れさせない。


 こんな無秩序な国は国連によって統制され、しかるべき軌道に修正されるべきだが、かつて大国であったグラビアナという名前が国連の要求をはね続け、政治が民衆の手に戻ることはついぞ訪れなかった。


 東グラビアナという国もかつては存在していたが、今の王族に対し反発した民衆、貴族により独立し領土の半分を獲得し、今は『ウルガ』という国に名を変えている。

だが、何故隣国であるアヴァロンを狙うのか?


 それは一重にアヴァロンという国が眩しすぎたからであろう。


 人の欲が強ければ強い程、隣に美しいものや美味しいものが存在すること、見上げるような才や財があることが許せなくなる。



 ----そんな下らない事がこの戦争のきっかけだったのだ。




 その状況はさておき、何故裏に徹しているはずの黒幕が表の舞台に出てきたのか?


 それは恐らく、切り札のヘカントケイルが落とされたからに間違いない。


 たった一握りだけの才能である召喚士を1人だけ、幸運にも抱えていた西グラビアナは召喚獣の力を使いアルト暗殺を企んだ。


 普段王都にいるアルトには、お抱えの近衛円卓騎士団が控えているが、この遠く異国の地であれば護衛は限られてくる。


 まさに暗殺のために狙われた状況だったのだ。


 前々から準備していた内通者や、自国の軍を動員しついにアルトに傷を負わせる----までは成功した。


 しかし、どういった訳かアルトはの傷は全快し、更には切り札として持ってきたヘカントケイルまで倒される始末。


 もはや、言い逃れできないこの窮地についにレアルは卑策を用いて表に表れた。


 「これを見ろ!!この町でかき集めたガキ共100人を!!」




 そしてヘカントケイルの側の路地から連れてこられているのは、まだ年端もいかない少年少女の列。


 その列にレアルお抱えの親衛兵が容赦なく銃口を突き付け、合図一つで子供達全員の命が散る仕掛けだ。


 「卑怯な!!この町も、子供達も何の関係もないだろう!今すぐ子供達を離せ!」


 アルトの正義感も、ここが戦場で、相手が人として道を踏み外した者が相手では届かない。


 「無駄無駄、子供達がこれだけ居て兵も隙間なく配備してある!貴様がどれだけ迅く強かろうが、助け出すことは不可能!!残った兵が必ず子供達を殺し尽くす!!」


 


 「怖い、怖いよママー!」「エーン、助けて……」「もう嫌ぁ……」「助けてぇーー!!」




 子供達から発せられる、恐怖に怯えるその声にアルトは戦意を下げざるを得なかった。


 「くっ……何が望みだ!!」


 そして、屈服したアルトを舐めまわすかのようにたっぷりと見下した後、レアルは告げた。


 「お前の国だよ、国。だからお前がここで死んだならこのガキ共は無傷で解放しよう。これが条件だ、さあ、どうする騎士王!騎士王様よぉーー!!」


 ヒャハハハと下品に笑い返るレアルに、アルトは答える言葉を持ち合わせていなかった。


 (国を捨ててもこの子達が助かる保障はどこにもない……だが、断れば必ず命を散らす。--一体、どうすれば……)



アルトに苦渋の決断が迫られた----

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