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騎士学校の俺と俺だけの姫様  作者: スピキュール
少年騎士、生誕
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序奏~プロローグ~

 ついに憧れだった学校、騎士養成所として名高い「ナイツォブラウンド」に今春入学した。

 15歳で義務教育も終わり、自分の進路を決める時俺は迷わず騎士学校を選択した。

 理由?そんなの簡単だ。



 『俺は、俺だけの姫様を守る。それが俺の騎士道だから。』



 全寮制で5年間一貫して学べるこの騎士学校は、魔法学校と二分して人気の学校でもある。

 総じて魔法を選ぶ傾向にある人は知識に優れ、また将来設計まで考えている人が多い。

 ただし、魔法の扱いの難しさや、発現力にどうしても才能という嫌な文字が付きまとうので、魔法学校はようするにエリートの集まりと言い換えることもできる。

 



 一方の騎士学校は単純だ。自身の努力で自分を磨けば将来王国への兵士として入宮もできるし、魔法師の旅に欠かせない相棒として組み、パートナーを得る事もできる。

 他にも勿論学問を学び修める道もあるが、やはり少年少女にはカッコよさを求めるのが一番分かりやすい。




 そんな訳でついに入学したのだが……

 

 「うそだろ?!なんで今日に限って目覚ましが止まってんだよ!?」

 


 そう、ある種現実逃避気味にこんな回想をしていたのは全力疾走で学校に向かっているからである。

 晴れの入学式、クラス発表や新たな友人との出逢い、そんな春の期待に裏切られてしまっては騎士学校デビューは遠くなるどころか、失敗に終わってしまう。


 

 9時に入学式が始まるが、現在の時刻は8時55分。


 

 本当は8時30分には余裕で学校に着き、クラス名簿が張り出された掲示板を周りの新入生と一緒にみて、そんな中で新たな出逢い、主に女子との出逢いなんかを期待したかったのに!

 学校まで幸いに徒歩で行ける範疇ではあったが、徒歩1時間の道のりを10分で走れというのは中々に無茶だ。というより現実的に無理だ。

 

 今朝奇跡的に目が覚めたのが8時45分、支度は5分で済ませ家を全速力で出立。5分程走ってみたが勿論間に合わない。


 

 「……仕方ない、緊急事態だし使うか」


 

 そんな訳で焦った頭も走ってる内に明快になってきたので、頭を動かす。

 ようするに時間内に着けばいい。そうすれば予定とはちょっと違うが、騎士学校デビューは無事に済むはず。



 キッ、と走ってる足を急停止させ、その場で息を整えながら精神集中。

 

 

 「……飛べ!リリアウト!」

 

 飛行呪文を唱えみるみる内に身体が上昇していく。そして加速を思い切りつけ、全速力で学校に向かう。

 この飛行魔法の速さは術者にもよるが、熟練した者が使えばそれこそ飛行機と同じような速度、つまり時速800Km、秒速に直せば200m以上にもなる。

 後4分しかなかろうが、1分でも余裕があれば楽々着くのである。





 「到着っと」

 

 あんまり目立つといけないので校門付近、人気が少ない通りへと着地する。

 もうここまでくれば目と鼻の先、間に合った。

 そう思い顔を上げると……




 こちらを見つめる少女の顔があった。

 

 金のストレートロングヘアーはとても綺麗で、まるで絹を揺らしているように艶やかに揺れ人目を引き付けるが、なんと言っても特徴なのは、まるで吸い込まれるよう深いエメラルドグリーンの瞳。

 意志の強さを感じさせる瞳ではなく、どこまでも純粋な穢れを知らない無垢さがその深さを測ることを許さない。


 

 一瞬、いや数秒は確実に目が合ってしまったがハッと我に返る。そうだよ!始業式!

 しかしマズイ事になった。少女の白を基調としたローブ風の制服は恐らくこの付近に存在する全国最大規模の魔法学校のもので(有名なので学生ならば誰でも知っている)、もし自分の飛行魔法を見られていたのだとすればマズイ。



 

 飛行魔法を使えれば魔法学校では普通は飛び級どころか、すでに卒業レベルである。

 だからこそ目立ちたくなくて使いたくはなかったのだが、緊急事態だったから仕方あるまい。(遅刻が緊急かは審議を掛ける必要がありそうだが)

 魔法学校に進学しているのだとすれば、この飛行魔法を習得した人物に対しては尊敬や羨望の眼差しで色々な質問に迫られるのが常。一秒も早く立ち去って始業式に行かないと----



 

 ……と思ったが、少女は俺から目線を外すと塀の上に居座っている猫に視線を移す。

 いや、もしかしたら俺が来る前からずっと猫を見ていたのかもしれない。

 ただ、俺はそんな少女の行動が不思議で時間が惜しい中、声を掛け、話してみたいと思ってしまった。


 

 「俺の今のを見て何とも思わなかったの?」

 

 これではまるで自慢したいがために質問したみたいじゃないか!俺のバカ!!

 すると少女はまたこちらに目線を戻してくれて答えてくれた。

 

 「今の?高い、所から、落ちて、きたよね、大丈夫?」

 

 俺はこの瞬間会話が噛み合ってないと思った。というよりこの少女は多分天然とか人見知りとかじゃない。絶対に不思議系だ!




 

 それにしても、言葉が所々不思議な個所で途切れるな? 

 余り関わりたくない、そうは思っても無言で立ち去る等騎士たる者ではないため、改めて言葉を発し会話を適切に終わりにし、速やかに入学式に行こう。

 

 「もしよければ今のは見なかったことにしてもらえると助かります」

 

 じーっとこちらを見つめたまま、数秒。その後に返答はあった。

 

 「分かった。誰にも、言わないよ。騎士さん」

 


 ってこっちが騎士学校の生徒だってちゃんと分かってんじゃん!不思議系かと思ったらちゃんと知識はあるし。

 とはいえ鮮烈な赤を基調とした制服を身につけ、学年毎に色が代わるネクタイをしているのだ。

 この鮮烈な赤の目立ち方から言えば学校が分かっても不思議ではないが。


 

 「ありがとう、魔法師さん。それでは俺はこれで」

 

 左足を一歩下げ少女に向かって傅く。騎士たるもの当然の礼儀である。

 そして魔法師の少女は答えてくれた。

 

 「私は、リード・ロード。よろしく、ね」

 

 手を後ろ手に回し、こちらを覗きこむようにいたずらっぽく視線を合わせてくる。

 と、目があった時少女が少しだけ笑っていたような気がした。純粋な瞳に似合うような朗らかな笑顔で。

 

 「俺はフェイト・セーブ。よろしく、リード」

 

 姿勢を戻し握手を求めると、彼女は心地よく握り返してくれた。

 もしかすると、これも今日の入学式という日がもたらした出逢いだったのかもしれない。



 しかし、現実は無常にチャイムが鳴り響きフェイトの遅刻が確定した。




■■■■■■



 その後リードと別れ、入学式には途中参加して悪目立ちするのもアレなので、クラス掲示板を一通り眺めて時間を潰していた。

 

 「なんか、初日から不良じみてるな」

 

 生徒がホールから出るのに合わせて紛れ込めば、まぁ初日でみんな顔が分からないだろうしなんとか入学式に出たということにしておいて、クラスに溶け込めるだろう。

 という作戦だった。

 


 一応ぐるっと回ってみたが、教師も、まして生徒は一人もいない。

 更には入学式ということで上級生も来ていないので、この学校に一人だけ取り残された感じまでしてしまう。

 

 「あー、早く終わんないかなー」

 

 幸い読書に向きそうな大木を見つけそこに陣取り背中を預けていたことで、春の日差しとそよ風を感じるという風流なことは出来ているのだが。



 入学式は20分程か?そんな事を考えていたら、どこか遠くから鋭い風切り音が聞こえてきた。

 周りを見渡してみるが、自分に向けられたものではない。それに恐らくこれは遠くからの弓によるものだろう。

 

 「そういえば、弓道場もあったかな」

 

 学校案内のパンフレットを流し読みしただけだが、施設は多くあり弓道場もこの学校には備わっていたはずだ。

 

 「暇だし行ってみよっかな」

 

 そもそも今日は上級生にとって休日だ。そんな中この朝から弓の練習のために学校にくるという行動を取る人物にフェイトは興味を持ったのだ。

 

 「どんな人だろ?」

 

 一定間隔開けて耳に届く音は鋭く清廉で、恐らくかなりの腕前。

 的を見なくても実力が分かるだろう、そんな人物だと想像できた。




 少し歩いて道場につくと、音は外の方から聞こえる。どうやら道場の外の射的場にいるようだ。

 ちなみに、騎士の学校なのに何故か和を取り入れた施設がいくつかあったりする。剣道というのも和であるし、弓道も和である。

 

 これらを身につける時は騎士の鎧ではなく道着に袴という騎士?といいたくなってしまう格好になってしまうが、それでも剣筋や弓に西洋にない流廉さがあるのが人気らしい。


 

 と、そんなことを思い出している間に目的の人物を見つけ--

 

 「あれ?」

 

 思わず声に出してしまった。


 だって、あれだけ綺麗に等間隔に放たれた矢の音、無駄なく最速で的を射抜く技術の極み、そう思っていたが……

 

 矢は一本も的に刺さっていなかった。

 

 「誰?!」

 

 そして思わず声を出してしまったがために、練習していた女性に剣呑な声で探るよう話しかけられてしまった。




 「あ、えとすいません。誰かが練習しているみたいだったので、見学させてもらおうと思ったんですが……」

 

 女性の雰囲気に押され答えが弱気になってしまう。目線を上げて顔を見てみると、目も怖い。

 よっぽど邪魔してしまったのだろう。

 

 「今日は登校日でもないし、一年生は入学式よ。……でもあなた制服着てるし、何者?」

 

 何者とは穏やかでない。これは真剣に誤解を解いた方がいいと思い、フェイトは必死に伝わるよう説明してみた。

 

 「いや、新入生で入学式にきたんですけど、あーそのー遅刻してしまいまして、それでホールに入りづらくてそれで時間潰してクラスに流れ込もうかと思いまして。

 それでその時間潰してる間に弓の音が聞こえたもんですから見学させていただこうかなーと思いまして。

 そうなんですよ。あ、あのー信じてもらえます?」

 

 ちょっとつっかえつつだったのはこの方が焦っていることも、必死なことも伝わるだろうと思ってのことだった。

 そしてどうやら、こちらが焦っている様子をみて先輩の方が落ち着いたらしい。

 

 「そうか、すまなかったな。驚かせてしまっただろう。私は九行なずな、見ての通り弓道部所属の4年生だ」




 黒髪ポニーテールで長身である女生徒はどうやら上級生、それも自分とは三つ違いのようだ。

 切れ長の瞳は挑戦的や不敵とも見えそうだが、この先輩からにじみ出る雰囲気からして普段は温和で面倒見がよさそうな先輩に見える。

 またスレンダーな体型に似合わずスタイルが抜群にいい。

 

 努力家だろうし、本当睨まれなければファンもいるんじゃないのか?

 


 「自分はフェイト・セーブと言います。すみません、集中しているところを邪魔してしまって……」

 

 申し訳なく謝る、今回の件で悪いのは自分だろう。秘密の練習に土足で踏み入ったようなものなのだから。

 

 「こっちこそ悪かった、ただサボりは感心しないな」

 

 恐らく場を和ますための冗談なんだろうけど、なんだろう?この先輩に見つめられながらだと、試されているようにしか思えない。

 

 「サボったつもりではないんですが……まぁその、遅刻してしまった成り行きといいますか……」

 

 ちょっと目が泳いでしまう。ここで軽口を返せるなら大人なんだろうけれど。

 

 「いや、別に責めてるつもりはないんだ。ただ、初日からそれだと学校で苦労するぞ」

 

 先輩が言っているのは自主訓練のことだろう。

 今寮にいる上級生の殆どは10日後の始業式まで帰省しているので訓練場にいないが、自宅から通っている生徒も帰省している生徒もきっと早朝から訓練しているに違いない。




 入るのは簡単だが、結果を出すのはとても難しい。

 早朝から剣を振り、午前は勉学、午後は実習、放課後は部活で訓練、夜にもまた剣を振る。

 

 それは騎士学校ではほぼ当たり前のように行われている暗黙のルール。

 


 そうでなくては王宮への士官など夢のまた夢、ギルドへの加入や魔法師とのパートナーも全て実力がなければ務まらない。

 これだけの訓練を積んで尚一人前になれないのが騎士なのだ。

 後は稀にみる才能、幼少からの積み重ね、もしくはこの暗黙のルール以上の努力のどれかが必然となってくる。



 

 それを初日から遅刻等という暴挙に出れば先輩に心配もされよう。

 

 事実、退学者は年600名程出ている。1年生が殆どだが、中には体力が着いていかぬ者、周りとの差に諦める者、事故や怪我で騎士の道を断たれた者等も上級生から出ており、現在この学校に新入生も含めた生徒数は1151名。


 

 恐らく一月以内に100名は辞めていくだろう。


 

 騎士という華々しさに憧れてやってきた者が、挫折を味わう。それでも少年少女には魅力に映る程の華が騎士にも魔法師にもあるのが現代だ。




 「大丈夫ですよ先輩。こう見えても俺騎士を真剣に目指してますから」

 

 ちょっとだけ背伸びをして先輩に答えておく。これが知りあって間もないのに心配してくれた優しい先輩への返事だ。

 もっとお互いよく知り合えていたのならば、もっと深い話も出来たかもしれないのが悔しい所でもある。

 

 「そうか、なら頑張るといい。……先は長いぞ。良かったらフェイトも弓道部を見学に来てくれ、また何か話ができたらと思う」

 

 そう言って先輩はまた的に向かい直って弓を構えた。

 

 ----行こう。




 九行先輩の集中している姿を見ると、本当に見学して申し訳なかったと思った----

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