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赤飯

赤飯


残業が長引いた夜だった。

最寄り駅は酒と汗が混じった終電の匂いがしていて、駅前のコンビニだけがうるさいほどに明るかった。


蛍光灯の下に入ると、急に自分がくたびれているのがわかる。

スーツの肩はくたっとしているし、ネクタイも少し曲がっていた。


夕飯をどうするか考える気力もなくて、とりあえずおにぎりの棚の前に立つ。

鮭、ツナマヨ、昆布。

いつもの顔ぶれが並んでいる。


その端っこに、赤飯のおにぎりがある。


深夜にコンビニの赤飯て。


誰が買うんだろう、といつも思う。


その時、隣にサラリーマンが来た。

同じように疲れた顔をしていて、ワイシャツの袖を少しまくっている。年齢は四十前後くらいだろうか。


彼は迷う様子もなく、赤飯のおにぎりをひとつ取った。


それだけをカゴに入れて、レジに向かう。


弁当でもなく、カップ麺でもなく、

赤飯のおにぎりひとつ。


ふと、考える。


今日、昇進したのかもしれない。

娘の受験が受かったのかもしれない。

長く治療していた家族の病気が、よくなったのかもしれない。


もしかしたら、ずっと片思いしていた人に、

「今度ご飯行きませんか」って言えた日なのかもしれない。


あの人にとって今日は、

赤飯を食べてもいい日だったのかもしれない。


レジ袋を提げて、彼は夜の街に消えていった。


店内に残った僕は、もう一度おにぎりの棚を見る。


鮭。

ツナマヨ。

昆布。


そして赤飯。


なんとなく手を伸ばして、僕もひとつ取った。


特にめでたいことはない。

仕事は相変わらずだし、明日も普通に会社だ。


レジに並びながら、ふと思う。


そういえば今日は、朝から一度も赤信号に捕まらなかった。

会社までの道、全部すんなり渡れた。


それだけだ。

でも、それだけで少し得した気分になる。


こういうのでいいのだ。

こういうので。


赤飯のおにぎりを袋から取り出しながら、

今日はちょっとだけ、いい日だった気がした。

かじった赤飯は、予想通り大して美味しくは無かったのに。

コンビニの赤飯ってあんまり美味しくないし誰が買ってるのか分からないのに無くなることがないですよね。

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