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第2話 魔法と剣

人と言葉で、声で会話を交わすことが出来ないという重大な勝負で言う失点を抱える俺は、それを挽回し、覆るほどの能力が必要だと考えた。そう考えるのも当然だ。企業から求められている能力を持つ人材と能力を持たない人材とでは企業側は、前者を選ぶのが基本だ。そして会話が出来ない。それは致命的な欠点だ。なら、補って余りある武器が必要だ。その武器として、俺が目を付けたのは……


魔法


異世界では、お馴染みのものだが…転生者である俺にとっては馴染みがないものだ。まず、魔法について情報を集めようと一、二歳で屋敷内の図書室にバレないように忍び込んでは魔法の本を読み漁り、使用人や両親からの読み聞かせでは明らさまに魔法が出る絵本を選んだ。その絶え間ない努力の結晶により、俺は5歳という歳で魔法を使えるようになった。使える…と言っても、まだ初級の簡単なものだけだが…俺が目を付けた強み、というのは魔法だけはなかった。もう1つは



剣術だ。この世界は現代の地球と比べると、技術の発展が乏しく、尚且つ…地球と比べると厳しい環境下にある。両親の会話で時折、耳にする魔物や魔族の存在や貴族と平民の違い…その様々を聞くと現代の地球がどれだけ恵まれているかを痛感させられた。その魔物や魔族に人間が対抗する力として武力が必要とされる。貴族の殆どは魔法または剣術を子供の頃から教わるのが基本のようで…俺も当然範囲内だ。ただ、少し違うところを言うならば普通の貴族より少し早めに剣術を始めたというところだけだろう。


筆談が出来るようになって、直ぐに両親に伝えた。魔法と剣が習いたい…と剣術はいずれ習うし、幼いうちから簡単なものでも、やっておくと良いだろうと許可が出た。だが、魔法は幼いうちは魔力の制御が難しく、何か怪我をするかもしれないと…激しく反対されたので秘密裏に独学で学んで得た。魔法が使えるのは両親にも、弟にもまだ内緒だ。魔法が習えるようになるのは7歳になってから、そう両親との約束だから。




数ヶ月間の有給を取っていた俺、ギルリアの専属の使用人である護衛兼執事のロビルが帰って来た。


「久しゅうございますね。ギル様」


何時も、手放さずに持っているメモ帳にペンで「久しぶり、よく休めた?」そう書いて見せる。その字を見ると、ロビルは嬉しそうに表情をパッと明るくさせると頭にある大きな犬のような耳が上に上がる。なんとも、まぁ…分かりやすいこった。


「えぇ、勿論!!休暇、とっーても満喫させて頂きましたよ〜。にしても、ギル様!まーた、文字を描くのがお上手になりましたね?ロビル、感激です!」


そう言って、大袈裟にわんわんと泣くような仕草をするが全く涙は出ていない。この一見、ポンコツそうな獣人の使用人は、見ていて心配になるが…こう見えても戦闘に関しては相当腕が立つし、家事もある程度は出来るので問題ない。だが、強いて言うならば…今もブンブンと揺れる尻尾が少々騒がしいことくらいだろうか。


「ん?なんですか、またメモを…『動きがうるさい』?え、別に俺…動いてるつもりないんですが……!」


無自覚なのが、また末恐ろしい。



この日は、家庭教師による授業も兵士に混ざって剣術の練習もお休み。自室で魔法について、書かれた本を読む。本を読んでいると言葉を話すことは出来ないというのも大分痛手だが、文字を読むことは出来るのがせめてもの救いだなと思う。


本の内容通りに魔法を実践する。胸に手を当てると、胸の奥に暖かいものを感じる…これが体内にある魔力。あと2年、その時がこれば本格的に魔法を学ぶことが出来る。2年後、絶対に俺はこの欠点を覆してみせる。



2年後__


俺は7歳になり、今日は貴族恒例のお披露目会という名の誕生日会だ。貴族の子息、令息は7歳の歳を迎えると盛大にパーティを開き、祝いの席として他貴族との交流をする。貴族の子供はこの日から、正式にその家計の血筋として、家の看板を背負うのだ。


今は誕生日会前の準備中で華やかな衣装に着替えて、別室で時間になるまで待機しているのだが…


「いやぁ!!」


幼い子供の大きな声が部屋に響く。2年経って、俺は7歳…そして今、俺に抱き着いて離さない弟リックは4歳になっていた。2年経って、大分言葉をハッキリと話せるようになったリックはお喋りでよく俺にその日、1日あったことを報告してくれる。最初は俺は言葉が喋れないし、筆談しようにも…リックは幼く文字が読めないから必死に言葉を発していたが、今ではリックは俺が喋らない理由も喋らないということも幼いながらに理解しているようで弟の成長に喜ばしく思っていた。だが、相変わらず…兄離れは出来ないようで今も、リックはまだ4歳なので誕生日会には表立って参加出来ず、俺から離れるのを嫌がって駄々を捏ねている。


「リ、リック〜?ほら、お前のお気に入りのお人形さんだぞ〜!ほら、こっちおいで〜…」


そんな弟リックをどうにかしようと、父上がリックのお気に入りの人形を手に奮闘している。だが…


「…りっくは、あにうえがいいのっ!!」


そう言って、そっぽを向いてしまった。その様子に普段、親バカな父上も流石に参っている様子だった。そんな父上の少し後ろには母上も、頭を抱えているようだった。使用人達が声を掛けても、弟は嫌の一点張りで折れようとしなかった。これは俺がどうにかするしか無さそうだ。でも、俺は言葉が話せない。更に弟に抱き着かれて手足を使おうにも上手く動けない。どうしよう…何とかする方法もあるにはあるが、今使ったら……面倒なことになる。他に誰か、なんとか出来そうな人は……そう思って、辺りを見渡すが辺りには困った顔をした両親とありとあらゆる弟の好きなものを用意する使用人。どれも頼りになりそうになかった。


『○#?△✗彡○…!(仕方ない…!)』


これをすれば、確実に両親に叱られる。けど、このままだと誕生日会が一生始まらない。誕生日会の参加者には、ロビルアート家だけじゃなくて…他にも沢山の参加者が居るんだ。このままじゃ、大変なことになる。


あらゆる本を読み尽くして、初級の簡単な魔法の応用。水属性魔法、ウォータブル。水球を魔力によって、生成する魔法。攻撃性は低く、芸術や生活面での使用が多い初級中の初級魔法。使い道が少なく、戦闘向きではないことから余り使われない魔法だが…俺にとってはこの魔法がうってつけだ。いくつかの小さな水球が繋がって、文字を浮かび上がらせる。


〈あにうえは、やらなくちゃいけないことがある〉


弟の歳に合わせて、簡単な言葉を並べる。浮かんだ文字を弟はジッと見つめて声を出して読み上げる。


「やらなくちゃいけないこと…?」


そう言って、首を傾げて俺の顔を見つめた。弟の背中を優しく撫でて、文字の方に目線をやると弟も文字の方に目線をやる。


〈だから…りっくにすこしのあいだ、いいこにしていてほしいんだ〉


「でも…」


浮かんだ言葉を見て尚、やはり離れ難いようだった。だが、さっきの様子と比べると確かに揺らいでるものがある。続けて、文字を綴る。


〈りっくがいいこにしてくれると、あにうえはうれしいよ〉


そう文字が浮かび上がると、弟は大きく丸いつぶらな瞳をギュッと瞑って、抱き着いている手に少し力が入る。少しすると、ゆっくりと俺から離れた。


「あにうえがいうなら…ぼく、いいこにしてる!」


そう言った弟の目元は潤んでいて、今にも泣き出しそうなのを我慢しているようだった。偉いぞ、その意味を込めて俺は頭を撫でた。


これで一件落着…と思って油断していると、何処からかゴゴゴゴッとまるで音が鳴るような恐ろしいオーラのようなものを感じた。その目線の先を見ると、そこには今までで1番、恐ろしい顔をした母上と普段親バカな父上からは想像出来ないような親の表情があった。


「ギル…」

「ギルリア…!」


「「説明しなさい!!!」」


両親の今までで最大の大きな怒号が部屋に響いた。両親の初めて見たその姿に圧倒されて、萎縮する。その時、丁度扉のノックが鳴った。父上はため息を着きながら入室を許可すると、そこは我が家の使用人が居た。


「お時間です。旦那様、奥様、ギル様」


危機を一先ず、回避出来たようだ。そう思って、ホッと一息着くと釘を刺すように母上が言った。


「終わったら…書斎に来ること。良いわね?」


ひぇ…母上の鬼の形相はこの世のものとは思えないぐらい恐ろしく、手足がブルブルと震えながら俺は必死に頭を縦に振った。




私の名前リア・ベルガー。ベルガー子爵家の一人娘で今は上級貴族であるロビルアート公爵家の長男、ギルリア様のお誕生日会に出席している。ギルリア様…貴族の中でも王族の次に身分の高い公爵家の長男で次期当主。子爵家の私と比べれば、雲の上の存在のような人。そんな人の誕生日会に出席するのは、光栄なことであり、貴族としての役目。貴族の7歳の誕生日会はお披露目を兼ねており、将来の婚約者などを見定める日でもある。それで、下級貴族の令嬢である私も参加することになった。私の周りには上級貴族の伯爵家や侯爵家から下級貴族の私と同じような子爵家の者まで沢山居た。この誕生日会に本来、私が参加する意味はないのだ。何故なら、私のような下級貴族が主催の公爵家ギルリア様の目に入るわけが無い。そして、何より…私は婚約を決められるのが嫌だった。


幼い頃に見た、白馬の王子様とただの平民の女の子の物語。よくあるような至って、普通の童話。結末は当然、女の子と王子様は恋に落ちて、結ばれて幸せに暮らす。それが本当になれば、どれだけ幸せか…そんな夢物語に憧れるけど、それはどこまで行っても憧れ。それでも、そうやって自分が恋に落ちて、自分が愛し愛されたいという相手と婚約したいと思うのは行けないことだろうか。気が乗らないギルリア様の誕生日会が始まろうとしていた。階段の上から、いくつかの足音がコツコツと聞こえるとそこには主催のロビルアート公爵家の公爵様と奥様が居た。


「皆様、この度はロビルアート家長男ギルリアの誕生日会に足を運んでくれたこと感謝する。」


そう言って、社交辞令の言葉を口にして頭を下げた。本当なら、最初の挨拶は主役が自ら口にするはずなのだが…彼らの周りには誕生日会の主役の姿が見当たらない。


「本来、主役である我が息子…ギルリアが挨拶をするのが貴族の礼儀。ですが、我が長男は言葉を発することが出来ないのです」


その言葉に辺りは息を飲む者、驚いたような声を上げる者と、まだ対面すらしていないギルリア様を既に婚約者候補から外そうとする者と様々な反応だった。私はと言うと、特に思うことはなかった。ギルリア様と言えば、ろくな噂を聞かないし、余り情報も表立っていない。注目するほどの人物ではなかった。ただ、公爵家という肩書きを除けば…


「そちらを考慮して、誕生日会を楽しんで頂けると幸いです。では…ギルリア、皆様に挨拶を」


そう言うと、体の向きを変えて背にある大きな扉の方を見る。そこから大人と比べて、小さな足音と共に現れたのは噂とは到底似つかない容姿をした綺麗な少年だった。公爵様の言葉通り、静かに頭を軽く下げると目を細めて会場を見た。


いつも耳にする噂は、悪党のを継ぐ悪党の子…だとか手に負えない暴君だとか、醜い容姿をした傲慢な者だとか…ろくでもない最低最悪な者として言われていた。だが、目の前の人物はどうだろうか。確かに髪色は執着や悪党の象徴と言われる黒髪。でも、彼の目は確かにロビルアート公爵家の血筋と証明する紫色の瞳。醜い容姿とは程遠い。細身で7歳ながら手足が長く鼻も高い、白く綺麗な肌に口元を隠す黒のベールが髪の色とよく合って美しい。更には、1個下とは思えない凛とした立ち姿。そして、目を細めている姿は長い睫毛がより強調されて尚更美しさを増大させる。


そんなギルリア様に、私は一瞬で瞳を奪われた。ドクドクと心臓が鼓動を打つのを感じる。初めての感覚で頭がこんがらがってしまう。そんな私の慌ただしい感情も虚しく、時は流れてパーティが始まった。ギルリア様は公爵様と共に挨拶に回り始めていた。ボーッとしている私の背中を父が軽く叩くと言った。


「ほら、公爵様に挨拶に行くぞ」


下級貴族である私達は上級貴族の彼らにわざわざ、赴かせる訳には行かない。父の後を着いていくように私は彼の方へと近づいて行く。鼓動はどんどんと加速していき、まるで自分の体が自分のものではないかのように感じる。気付けば、遂に目の前にさっき遠目で見た少年…ギルリア様が手の届く先に居る。


「公爵様、ギルリア様。この度は誠におめでとうございます。」


父がそう言って、頭を下げると公爵様と父は握手を交わす。私は初めての感覚に頭がいっぱいいっぱいで、頭がクラクラするような気がして…俯いていた。そんな私の肩に突然、手を置いて言った。


「こちら…娘の…ほら、挨拶しろ」


私を紹介するようにそう言って、小さな声で私にそう指示すると背筋を真っ直ぐするようにと背中を軽く叩いた。私は咄嗟に顔を上げて、言葉を発する。


『り、リア・ベルガーです!』


余りの緊張とそれどころでは無い感情に少し戸惑いながらも、名を名乗ってからゆっくりと少し目線を落とすとバチッと雷が走ったように目が合った。その人物は私と近い背丈の紫色の綺麗な瞳をしていて、目が合うとさっきの凛とした雰囲気とは正反対の無邪気な子供のような可愛らしい笑みを浮かべて、軽く首を傾げた。その仕草に私はまたしても、瞳を奪われた。


「長男のギルリア・ロビルアートです。ギルリア、お2人に挨拶を」


公爵様がそう言うと、さっきの子供のような雰囲気から一転して、最初の時のように凛とした姿勢と表情になった。そして頭を下げると、メモ帳とペンを取り出し何かを描くと私の方にそれを見せた。


〈緊張しなくて、大丈夫。父上はさほど厳しい人ではありませんから。〉


私の様子がおかしいのを察していたようだった。その気遣いに私は感謝を伝えて、その後は気付いたら挨拶は終わっていた。

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