1. 俺、最速で無能から最強になる
薄暗い森の奥で、ユウトは膝を抱え、ため息をついた。
「はぁ…なんでこうなるんだよ…」
ついこの間まで、彼は日本の普通の高校生だった。部活帰りにコンビニで買ったエナジードリンクを飲みながら夜道を歩いていたら、突然トラックに轢かれ、気がつくとこの剣と魔法の世界に放り出されていた。
「異世界転生って、もっとカッコいい展開じゃなかったのか?」
転生時に現れた女神らしき存在から「特別なスキル」を授けられたが、それはユウトを絶望させるものだった。
「収納」――物を無限にしまえる空間を作り出し、いつでも取り出せるスキル。攻撃力ゼロ、防御力ゼロ、魔法適性ゼロ。戦闘には一切役立たない、まるで「無能」としか言いようのない能力だった。
「『収納』って…ただのバッグ代わりじゃん!」
女神は「とんでもない!このスキルは世界を変えられる力だよ!」と笑顔で言っていたが、ユウトには嫌がらせにしか思えなかった。それでも、転生したばかりで右も左もわからないこの世界で生き延びるため、ユウトは動き出すしかなかった。運良く、冒険者パーティ「シルバーブレイド」に拾われたのは転生直後のことだった。
リーダーのクロウは筋骨隆々の剣士で、仲間には火魔法使いの紅一点エルナ、聖魔法を操る僧侶レオン、弓使いのキリンがいた。ユウトは彼らに「収納スキル」を披露したが、反応は冷ややかだった。
「は? 荷物持ち? そんなスキルで魔王軍と戦えるわけないだろ!」
クロウは鼻で笑った。
「でも、荷物を無限に運べるなら便利じゃない?」
エルナが控えめにフォローしたが、クロウは一蹴した。
「戦えないやつは足手まといだ。試しに一週間、荷物持ちとして使ってやる。それで役に立たなかったら即追放な」
ユウトは必死に貢献しようと努力した。食料や装備を「収納」にしまって運び、キャンプの準備も率先して行った。だが、戦闘ではただ見ているしかなく、モンスターが襲ってきたときも「隠れてろ!」と怒鳴られる始末だった。
一週間後、クロウの判定は冷酷だった。「お前、ほんと使えねえな。荷物持ちならその都度雇ったほうがマシだ。パーティから出てけ!」
「待ってくれ! 俺だって頑張っただろ!」
「頑張り? ハハッ、戦えないやつの頑張りなんてゴミ同然だ!」
クロウはユウトの胸ぐらをつかみ、森の奥へと放り投げた。エルナが少し同情の目を向けたが、誰も止めなかった。ユウトは地面に叩きつけられ、土と埃にまみれた。「くそ…覚えてろよ…」一人残された森の奥で、ユウトは途方に暮れた。多分ゲームだったら、レベルは1のまま、スキルは「収納」だけ。武器も防具も満足になく、食料はパーティが置いていったわずかなパンだけだった。
「これ、どうやって生き延びろってんだ…」
空腹を紛らわすため、ユウトは「収納」からパンを出し、かじりながら考えた。
「収納スキル…ほんとにこれだけか? 女神のやつ、なんか隠してる気がする…」
ふと、収納空間を覗くと、奥で奇妙な光がチラついているのに気づいた。意識を集中し、その光に触れてみると、頭の中にメッセージが響いた。
【収納スキル:特殊条件達成。進化可能状態に移行。】
「え、進化? なんの話!?」次の瞬間、ユウトの視界が真っ白に染まり、身体が熱くなった。収納空間が突然広がり、無数の光の粒子が渦を巻いた。ユウトは直感的に叫んだ。
「進化、開始!」
【収納スキルが「無限収納・改」に進化しました。】
【新機能:物質解析、スキル変換、時空操作をアンロック。】
「は!? 物質解析? スキル変換? 時空操作!? なにこれ、めっちゃチートじゃん!」
ユウトは興奮で震えた。試しに近くの石を「収納」に取り込み、解析してみると、その成分や構造が頭に流れ込んできた。石を「鉄」に変換してみると、なんと本当に鉄の塊に変わった。
「まじか…これ、なんでも作れるってこと?」
さらに、収納空間に「時間」を閉じ込めると、空間内で時間が停止しているかのように物体が保存された。これなら食料も腐らず、武器も劣化しない。
「女神のやつ…最初からこれが本命だったのか!」
ユウトは笑いが止まらなかった。無能だと思っていたスキルが、実はとんでもない可能性を秘めていたのだ。
次の朝、ユウトは森を抜け、近くの村にたどり着いた。冒険者ギルドに立ち寄り、収納スキルの新機能を使ってみることにした。掲示板には「魔獣の牙」を集める依頼があった。ユウトは森に戻り、魔狼を倒して牙を収納。解析機能で牙の構造を調べ、スキル変換で高品質な素材に変えた。ギルドに持ち込むと、受付嬢が目を丸くした。「こ、この牙…伝説級の素材じゃないですか! どこで手に入れたんです?」
「ちょっとしたコツでね」
ユウトはニヤリと笑った。報酬として大金を受け取り、装備を整えた。収納空間に溜めた魔物の素材を解析し、剣や防具を自作。スキル変換で強化を重ね、見た目は地味だが性能は規格外の装備が完成した。
その夜、酒場で偶然、シルバーブレイドのメンバーと再会した。クロウは新しい荷物持ちの冒険者を連れ、ユウトを嘲笑った。
「お、荷物持ちの無能じゃん! まだ生きてたんだ? ハハハ!」
ユウトは静かに微笑んだ。
「ああ、生きてるよ。むしろ、調子いいんだ」
「調子いい? お前みたいなゴミが?」
クロウが笑い声を上げた瞬間、ユウトは収納空間から作ったばかりの剣を取り出した。一振りで酒場のテーブルを真っ二つにし、クロウの目の前で剣先を突きつけた。
「な、なんだその剣!? どこで…!」
「悪いな、クロウ。俺のスキル、実は無能じゃなかったんだよ」
ユウトは収納空間から魔獣の牙を一斉に放出し、クロウたちを威圧した。エルナやレオンは青ざめ、キリンは腰を抜かした。「お前…何者だ!?」
「ただの荷物持ちさ。…いや、元荷物持ち、かな?」
ユウトは剣を収め、「騒いですまない。これ、テーブル代だよ」と店主に金貨袋を渡して、酒場を後にした。クロウの悔しそうな顔を見ながら、心の中でつぶやいた。
(こんなの序の口だ。まだまだ悔しがらせてやるからな)
村を離れ、ユウトは次の目的地を決めた。魔王軍の脅威が迫るこの世界で、自分の力を試すためだ。収納スキルの真の力はまだ未知数だったが、物質解析やスキル変換を使えば、どんな敵にも対抗できる自信があった。
「魔王だろうが神だろうが、俺の収納にしまってやるよ」
夜空を見上げ、ユウトは笑った。無能と呼ばれた少年の逆襲が、今、始まったばかりだった。




