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第一話 バレてしまった女の子のお話

カクヨムにて連載しております。「幼馴染♀️にあることがバレてしまった女の子のお話」の第一話です。

 私は今、幼馴染に押し倒されている。

 彼女の綺麗で透明感のある長い白髪が、カーテンのようになって私を閉じ込める。

 その手には、見覚えのあるノートが広げられていた。

 「澪……」

 優花が私の名前を呼ぶ。視線を戻すと、吐息がかかりそうなほど近くに、優花の綺麗な顔があった。

 柔らかく垂れた目が、じっと私を見つめる。

 「ねぇ……澪は、このお話に書かれたようなこと、してみたいなって思ってたりする?」

 その言葉に、心臓が跳ね上がる。思考が渦を巻いて、呼吸も早くなる。手がほんの少し震えて、顔が熱くなった。

 優花は、熱を帯びた瞳で私の口から言葉が紡がれるのを待っている。


 私は――……。


 ***


 キーンコーンカーンコーン――……。

 下校時間を知らせるチャイムが鳴り響く。教壇に立つ先生は、それに気付きつつも話を続けている。

 いつになったら終わるのやら……うちのクラスは毎回、先生の話が長くてホームルームの時間が長い。

 チラッと廊下を見ると、他のクラスの子達がいるのが見えた。その中に、幼馴染である坂城優花(さかき ゆうか)の姿も見える。

 どうやら、私のことを待っているらしい。私の視線に気づいたのか、優花はこちらに向かって手を振った。私は、それに小さく手を振り返す。

 「望月さん?」

 ビクッと体が跳ねる。急いで声のした方へ向き直ると、先生がこちらを見て笑っていた。いや、正確には口元だけが笑っていて、目が笑っていない。

 「わかっていますね?」

 「はい……すみません」

 先生は、それだけ確認するとみんなの方に向き直り、日直へ挨拶を促した。日直がホームルームの終わりを告げる。

 席を立ち、一礼。別れの挨拶をし、やっと長いホームルームから解放される。

 優花をいつまでも待たせるのは悪いと思い、急いで帰宅の準備をする。

 「み・お・ちゃ〜ん!」

 「うわぁっ!」

 後ろから抱きつかれたのに驚いて声を上げてしまった。振り向くと、茶髪にポニーテールを揺らす花岡(はなおか)ひなたがニヤニヤと笑って抱きついていた。

 「先生に怒られてたね〜。澪ちゃん、真面目なのに、珍し〜」

 「たまには、そういうこともあるでしょう……」

 またまた〜、と言って彼女は笑っている。本当に私の事をからかうのが好きなようだ。

 「そこまでにしておいたら? ひなた」

 そう言って、助け船を出してくれたのは、水野彩(みずの あや)。長く綺麗な濃紺の髪に眼鏡をかけた落ち着いた雰囲気の子だ。私の後ろの席に座っていて、馬が合うからよく話す。

 私たちは、席が近いという理由で友達になった。クラスに馴染めるか不安だったけれど、二人がいてくれて助かった面もある。

 正直、からかってくるのは程々にしてほしいけれど……それが私たちのコミュニケーションになってしまっているのだから仕方がない。

「それで、何をよそ見していたの?」

 彩がそう尋ねてくる。私は、視線を廊下に向け、優花のことを見た。

つられて二人も私が見ている方向を見る。

「なるほど。いやぁ、健気ですね〜。ね、澪ちゃん」

「……別に。幼馴染ってだけだから」

「もう、照れちゃって〜」

そう言って、ひなたは私の頬を指でツンツンと突っついてきた。

照れてないから、と言ってカバンを持つ。

「待たせると悪いから、もう行くね」

「はいはい〜。また明日ね!」

「また明日」

 そう言った二人に手を振り、廊下に出ると優花が駆け寄ってきた。

「遅いよ〜、澪」

「ごめんなさい。友達と話してて」

 優花の眉が、ほんの少しだけ寄っているのが見えた。

 ……あれ?ちょっと拗ねてる?

 その仕草に、私はドキッとしてしまう。

 廊下の光に照らされた優花の顔は、いつもと同じく美しいけれど、ほんの少しだけ頬が赤くなっている気がした。

 私は慌てて笑顔を作る。

「そ、そろそろ……帰りましょう?」

 優花は、小さくため息をつき、でもすぐに笑顔に戻った。

 ああ、もう……可愛い。

 私は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じながら、彼女の隣に歩み寄った。

 校門を出て、いつもの通学路を歩いていく。通い慣れた道だけど、優花と一緒に歩いているとデートをしているみたいで少しドキドキしてしまう。

 「それでね……」

 優花が今日あった出来事を楽しそうに話してくれる。私は頷きながら耳を傾けていたけれど、ふと隣の横顔に視線が吸い寄せられた。

 白髪をハーフアップにまとめ、そこに結んだ青いリボンが揺れている。楽しげに話す彼女が眩しく見えた。

 笑った時の表情や優しげな瞳、柔らかな仕草……その全てが胸をぎゅっと締め付ける。

 優花は誰にでも優しいけれど、私に対しては少し距離近い気がする。

 そう思ってしまうのは、優花の事が好きな私の都合のいい勘違いだろうか。

 けれど、もしこの気持ちを知られてしまったらーー。

 優花は優しいから「気持ち悪い」までは言わないだろう。でも、きっと今までみたいにはいられなくなる。

 最悪、一緒にいることすら、できなくなるかもしれない。

 ……それは嫌だ。だから、この想いは心の奥にしまっておかなきゃいけない。そう頭では、分かってるのに……。

 「澪?」

 「え?」

 「どうしたの? ぼーっとしているみたいだけど……」

 優花の心配そうな声にハッとした私は、慌てて首をを振り、誤魔化すように笑った。

 「ご、ごめんなさい。ちょっと考え事しちゃって……」

 「考え事? 何か、悩んでるの?」

 「え、えっと……今日の夕食どうしようかなって……」

 思わず口をついて出た言い訳に、自分でも顔が熱くなる。

 優花は「……そっか」と小さく笑った。その笑顔が、少しだけ探るようにも見えた気がして、胸がざわつく。

 「澪らしいね」

 そう言って、また楽しげに話し出す彼女の横顔を見て、私は安堵とどうしょうもない不安を同時に覚えていた。

 家の前に着くと、夕暮れの光を浴びた優花がふっと笑って振り返った。

 「またね、澪」

 頬を染めているように見えるのは夕日のせいか、それとも……。

 青いリボンが風に揺れて、長い白髪が赤く照らされる。その一瞬の光景が、胸を強く締め付けた。

 私は、ただ「うん」と返すことしかできなかった。

 そのまま、優花と別れて家の中に入る。ただいま、と声をかけるが返事はない。そういえば、今日は遅くなるとお母さんが言っていた。

 二階へ上がり、自室に戻ると机の上に置きっぱなしにしていたノートが目に入った。

 ……また、書いちゃおうかな。

 胸に残った優花の笑顔を思い出すと、苦しくなる。こんな気持ちを抱えているなんて、本人には絶対に言えない。

 だから、私はペンを取り、思いの丈を綴っていく。

 優花とあんな事をしたい、こんな事をしてみたいーー胸の奥でずっと押し込めていた妄想を、文字に変えていく。自分の妄想に心臓が早鐘を打つ。その度に手が止まってしまう。

 一通り自分の妄想を書き終えた私は、ノートの一ページ目を何気なく開く。

 そこには二人の少女が描かれていた。

 一人は、長い黒髪でクールな雰囲気の少女。この子は、私に似せて描いた子だ。

 もう一人は、ふわっとした長い白髪に青いリボンを結んだ少女。優しげな表情で、明らかに優花を模しているのがわかってしまう。

 ……どうしよう。見られたら絶対、引かれる。それどころか、気持ち悪いって思われる。

 そう分かっていても、自分の妄想をノートに綴ることを止めることはできなかった。

 日に日に積もっていくこの想いを制御できそうにないと思った私は、このノートにそれを書くことで気持ちを落ち着けている。現実でできないのなら、せめて妄想の中でもそうしたかったのかもしれない。

 でも、最近になって恥ずかしいと思うようになった。だから、今日で終わりにしようと思っている。

 「はぁ……」

 この気持ちとはどこかで折り合いをつけなければ……。

 そう考えていると、徐に部屋の扉が開いた。驚いて振り返ると、そこには優花が立っていた。

 「チャイムを鳴らしたのに一向に出てこないから、心配して入っちゃった」

 「え、あ……ごめんなさい。ちょっと作業してて、気づかなかったみたい。お茶淹れてくるわね」

 私はそう言って、そそくさと立ち上がり一階へ降りていく。

 お湯を沸かし、お茶とお菓子を準備する。二人分のカップとお菓子をトレーに乗せ、二階の自室へと持っていった。

 扉を開けて、部屋に入ると優花がノートを見ていた。そのノートには、見覚えがある。そう、ついさっきまで私が妄想を書いていたーー。

 「ゆ、優花……そ、それ……」

 「テーブルの上に置いてあったから、気になって……ごめんね?少し読んじゃった」

 その言葉を聞いて、トレーを落としそうになるが、なんとか持ち堪える。頭の中では、高速で言い訳が流れてきている。

 「そ、その……放置していた私が悪いの。気にしないで」

 声が震えてしまう。一番見られちゃいけない人に、見られたくないものを見られてしまったことでパニック状態だ。

 そのまま立ちすくんでいると、優花がゆっくりと近づいてきた。

 何かを察した私は、心臓が早鐘を打っているのを感じる。手を握られ、その音が耳まで響いてきた。

 「え……?」

 優花の視線が私を真っ直ぐに捉えて、熱を帯びているのが分かる。

 何をされるのか分からない……怖いけれど、逃げることはしたくない。

 恐怖と期待が混ざり合って、頭の中は混乱していた。

 そして、次の瞬間、優花は私をベッドへと押し倒してきた。

 「澪……」

 私のことを見る優花の瞳は、いつもの優しい感じじゃなくてどこか熱を帯びていた。

 彼女の綺麗で透明感のある長い白髪が、ふわりと包み込むように私を閉じ込める。

 「これって私たちだよね……?」

 その手には、あのノートが広げられていたーー……。


 ***

 

 気がつけば、私の目の前に優花がいた。

 そうだった……今、私は優花に迫られているんだった。あのノートのせいで。

 優花は、私の反応をじっと待っている。熱を帯びた瞳で私の言葉を求めるように見つめられ、息が詰まるほどだった。

 どうしよう……こんなに見つめられたら、考えが全部吹き飛んじゃう……。

 心臓が早鐘を打って、手のひらまで熱くなる。

 このまま、何も言わなかったら……いや、でも言ったらどうなるんだろう……。

 頭の中で考えがぐるぐると渦を巻く。優花の表情を見れば見るほど、胸が締め付けられる。

 「ねぇ、澪……教えて……?」

 答えに臆する私に、優花はそう優しく囁く。どこか期待を帯びたその声に思考が溶けてしまいそうになる。

 私は口を開きかけるが、言葉が出てこない。喉が渇いて、手が震えてしまう。

 どうしよう……こんなこと、私……。

 「わ、たしは……」

 やっとのことで声を絞り出す。言葉を選ぶ余裕もなく、ただ心のままに。

 「……うん」

 優花は頷く。その一瞬の沈黙が、私の心をますます揺さぶる。

 「……したい、と思ってる」

 言い終えた瞬間、心臓が跳ねる。恥ずかしさと期待、少しの罪悪感が混ざり合い、頭の中が真っ白になる。

 優花はふふ、と微笑んだ。その小さな笑い声が私の耳に甘く響く。

 「澪がしたい事なら、なんでもするから」

 その言葉に、鼓動が早くなる。

 なんでも、って……そんなこと言われたら、私、どうしていいのか分からない。

 でも、優花としたいことができるなら……いや、でも流石にそれは……。

 理性が叫ぶけれど、心は揺らいでいる。もう優花の近くにいるだけで、息苦しくなるくらいドキドキしてしまって、思考がまとまらない。

 なんとか、自分の邪な気持ちを抑え込み、私は必死に口を開いた。

 「そ、それは、申し訳ないというか……その……」

 言いかけた言葉が、心臓の高鳴りで途切れそうになる。

 お、落ち着いて……しっかりしないと……。

 そう言い聞かせるが、逆効果だったみたいで更にドキドキしてしまった。

 そんな歯切れの悪い私の様子を見た優花は、少し考えるように視線を伏せてから、そっと微笑む。

 「じゃあ……このノートに書かれていることをしてみる、っていうのは?」

 「え……!?」

 思わず声が裏返った。

 あ、あれを……優花と……!?

 い、いや、確かに、私が優花としたいことを妄想して書き綴ったものだけど……!

 その提案が恥ずかしくて、頭を抱えたくなる。けれど、優花は真剣な眼差しで私を見つめていた。

 「澪が書いたことなら、全部受け止めるよ」

 「わ、私は……!」

 恥ずかしさと嬉しさで、言葉がつっかえる。

 そんな私に優花は、そっと顔を近づけ、囁くように続けた。

 「たとえば……ここに書いてある、キス。これなら……どう?」

 き、キス……!? そ、そんなの……でも、優花が言うなら……いや、でも……!

 明らかに動揺しているであろう私を見て、優花はスッと目を細める。

 「澪……嫌ならしないよ。でも、したいって思って書いたんだよね?」

 「……っ!」

 だめ……息が詰まる……でも、目を逸せない……。こんなに意地悪な優花、初めて見た。

 私の返事も聞かず、優花がゆっくりと顔を近づける。私の理性は、「だめ」と叫んでいるけれど、心の奥では「してほしい」と願ってしまっている。

 そしてーー唇が触れる寸前で、私はそっと目を閉じる。

 触れた唇は、思っていたよりもずっと柔らかくて甘かった。

 ただそれだけなのに、全身に熱が広がっていく。

 ……これって、夢じゃないわよね?

 息がかかる距離、閉じ込められるように感じる彼女の存在。

 ずっと望んでいたのに、いざ叶ってしまうと胸が苦しくて仕方がない。なぜ? と一瞬思ったけれど、答えはすぐに出た。

 そうか……これは、優花が優しいから、私を傷つけないように付き合ってくれているだけなんだ……。

 期待と不安でぐちゃぐちゃになった心を必死に抑え込む。

 よく考えれば、分かることだった。私は、少し夢を見過ぎているんだ、きっと。

 唇が離れた後、優花は小さく微笑んだ。その笑顔は、私の胸を強く締め付ける。

 優花は、何を思って私に優しくしているのか、それが分からない。

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