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短編

くちなし通りで、夜に出会った

作者: 月蜜慈雨
掲載日:2025/07/13



 最近、いつも同じ夢を見る。

 僕の幼年時代と同じ顔をした少年と、赤いリボンが印象的な黒猫と、近所のくちなし通りで散歩をする夢だ。

 何の会話はしているか覚えてないが、とても楽しいことだけは覚えている。

 不思議と少年は、僕とは違う、他人であることが直感で分かった。

 でも驚く程僕に似ているのだ。

 くちなし通りの花々が、その濃厚な甘い匂いを漂わせて、虫を誘う。

 白い花々は、まるで桃源郷のように美しい。



 夜を楽しみにしている自分がいる。

 毎日、今日はどんな会話をするんだろうと考えている自分がいる。

 それなのに、ある日突然、夢に少年が出なくなった。

 あるのは、くちなし通りに1人佇む自分の姿だけ。

 僕は胸がはち切れるほど悲しくなって、途中で起きてしまう。

 そのせいで、最近寝不足だ。





 ある夜、ついに眠れなくなって、僕は外に出た。足は自然とくちなし通りの方を向いていた。

 夜だからかくちなし通りは閑散としていた。

 その道の先に、少年と黒猫がいた。


「えっ」


 僕の声に少年は、振り返る。それは夢に見た少年とそっくりだった。そばにいる黒猫も赤いリボンをしていた。




 少年は僕に近づく。

 そして言った。


「僕たち、夢で会いました?」


 その言葉に僕は徐に頷いた。


「そうですか、あなたが…」


 少年は僕の顔をまじまじ見て、似ている、と呟いた。

 僕も、同じことを思った。まるで鏡の中の自分を見ているようだった

 少年が僕の方を見たので、僕は少年の背丈まで屈んだ。

 僕は会話に困って、自然とくちなしを見つめて言った。


「この花知っている?」

「え、この白い花ですか?」

「そうだよ。くちなしっていうんだ」

「くちなし…」


 しばらく沈黙を挟んで、少年が言う。


「あなたに、聞きたいことがあるんです」


 同じ顔をした少年は、やはり僕と同じ顔で、困り顔をしていた。

 少年の小さな手が、僕の膝小僧に触れる。

 僕はそれを拒むことが出来なかった。

 少年は言う。


「大人になったら、あなたみたいになるの?」


 僕はそれに何も言うことが出来なかった。

 黒猫が僕たちの間を優しく彷徨う。

 僕は言葉を探し、ふと、くちなしの花が目についた。

 そしたら、急に口が開き、言葉を吐いた。


「僕は今まで、過去に戻れたらいいなと思うことあったよ。でも今は過去に戻っても、同じ人生を歩むと思う。僕はそうだけど、君はどうかな?君は今の人生を歩みたい?」


 僕と同じ、黒い瞳が僕の姿を反射して、星明かりに反射して煌めく。

 そこには僕にはない、強い意志が存在しているように見えた。

 少年はやはり、困った顔で、言った。


「そうかもしれない」


 少年は黒猫の横顔を撫でた。黒猫の首輪の赤いリボンが揺れる。

 少年はそれで少し微笑んで、僕に言った。


「僕は僕の人生を歩む。あなたはあなたの人生を歩む。でも今、こうして僕とあなたは一緒にいる。不思議だな、なんだか、奇跡みたいだ」


 街灯が辺りを明るく照らした。眩いくらいに。

 くちなしの花の香りが僕たちの言葉を甘く濁す。

 少年の笑顔が、僕の網膜に焼きついた。

 すっと、少年の頭を僕は優しく撫でた。まるで、黒猫を撫でるように。

 少年は頭を押し当てて、互いに撫で合うように体温を交換した。

 僕は言った。 


「またここにいるよ。また、来てくれたら嬉しいな」


 少年は笑顔で頷いた。

 黒猫は肯定するように、ひと鳴きした。

 夜風が僕たちの合間を吹き抜け、甘い香りを包み、くちなし通りの花々を優しく揺らした。


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