第8話 蠅の王part6
「報酬ね。あなたはガルベ・トゥーリに対処する。そのおかげで数多くのエルフを助ける事になる。戦争を遅らせて戦火にさらされる子供たちを救う事ができる。それだけで十分じゃない?」
「僕は政治に興味はないよ。わかってるだろう?」
「そうね、目の前でエルフの子供が死にかけていてもあなたは興味を持つ事が出来ないわよね。」
「当てつけはよしてくれ。僕は自分の力で何ができるか知っているだけだ。」
「報酬はいつも後払いにしているけど、あなたは仕事してくれるでしょう。情報よ。」
ララは懐から革で出来たナイフケースに入れてあるナイフを取り出した。
「見てみて。」
ララはナイフの刃先を自分に向けてアルに渡した。アルはナイフケースのボタンを外し、ナイフを取り出した。
渡されたナイフはどこにでもある鉄で出来たハンターナイフだ。
ナイフの刃には読む事ができないが、文字が書かれている。
「ルーンって知っている?」
アルは首を振った。ルーンというものは聞いた事があったが、実物を見た事がなかった。
こんなものか、とナイフに掘られたルーン文字を指の腹でなぞった。
「最近になってルーンを使った彫金技術が実現したの。もちろんルーンを刻む事は簡単よ。問題はルーンの力をちゃんと引き出せるか。最初はルーンに使った素材が耐えられなくて困ったそうよ。」
アルは話を聞きながら本棚から適当に一冊、本を取り出すと表紙の紙を破いた。
それをナイフで切ると、普通のナイフと同じように切れた。
「それを解決するためにルーンの文字を意図的に間違えた綴りでかいたそうよ。これならルーンの力は半減するけれど、壊れないで済むの。それに魔法を使う時みたいに意識をナイフに集中してみて。」
アルはナイフの文字を見つめ、イメージした。
それに応えるようにナイフに書かれた文字は薄く光りはじめた。それで紙を切ると、切った傍から紙が燃え始めた。
「ルーンの根本は呪術の類。けど使う分には魔法と変わらない。」
アルはナイフをケースに戻すと、ララにナイフを返した。
「あなたに関係あるのは、この彫金技術が一か月後にこの街に輸入されてくるの。これはあなたにとって死活問題でしょう?」
アルは魔法を独占し、それを少数にのみ共有する事で魔法という力の希少性を守ってきた。
そこに魔法と同じような力のルーンが市場に入ってくると、途端に魔法はその希少性を失い、魔法とルーンは市場を食い合う事になってしまう。
「確かに問題になりそうだ。ありがとう。」
「礼はいらないよ。私はあなたが私の問題を解決してくれればいいの。」