第7話 蠅の王part5
ミッドポートは巨大な独立都市のひとつだ。人口は三万三千人。
ミッドポートは東の国ルヴァンと西の国セヴェーラとの中継貿易で栄えている港町である。
主な産業は観光であり、主な宗教は輝ける太陽である。
ミッドポートの広場では常に司祭による説教を聞く事ができる。
ミッドポートはセヴェーラの重要な貿易拠点であるため、セヴェーラと南の国ケドミルとの戦争の時に攻撃された過去がある。
その時にはセヴェーラから兵を支援され、ミッドポートのパルチザンと合流してケドミルの兵を倒した。
ミッドポートに住む住民は港町であるため自由で開放的な性格である一方、戦火にさらされた過去から(特にケドミルの人間に対して)閉鎖的な性格を持つ。
ケドミルによるミッドポートへの侵略が失敗に終わってから数年、ケドミルは武力による侵略をやめ、経済的に支配する事を決めた。
そのためケドミルはミッドポートを事実上支配している裏社会のギャングと輝ける太陽に接触し、ミッドポートでの支配力を強めようとしている。
「ケドミルは今、私たちの故郷であるララ・ドゥエンに攻撃を仕掛けようとしている。その手始めとして、各地でエルフ、ドワーフ―あなたの言葉で言う非人間族―への差別感情を高めようと画策しているの。それはミッドポートでも同じ。ケドミルの密偵が輝ける太陽の野心のある司祭に接触し、金をやる代わりに信者に差別意識を吹き込むように言ってあるの。」
「待ってくれ、そもそも輝ける太陽は非人間族にも寛容なはずじゃなかったか?」
「本当に寛容だったら殊更に非人間族を受け入れる事を言うかな?私達が人間から嫌われているのは私達が良く知っているよ。」
ララは深くため息を吐いた。茶色の目はアルではなく、遠くを見つめている。彼女はアルが知りえない昔から存在しており、色んなものを見てきたのだ。アルはララが急に老け込んだように見えた。
「あとの質問は私がなぜ輝ける太陽を気にするのかだったね。さっきも話した通り輝ける太陽は非人間族をこの街から追い出そうとしている。ケドミルの狙いはララ・ドゥエンを侵略した際の批判を少しでもなくすため。これから起こる戦争の火を少しでも抑えておきたいの。」
ララは話し終わると、椅子に深く座り直して黒い髪を撫でつけた。アルはララの話を顎に手を当てて考えながら聞いていた。
ララはおそらくその本心の半分も言っていないだろう。
事実として同じエルフを助けたいという気持ちはあるだろうが、それと同じくらいケドミルがこの街に入ってくる事が許せないのもあるだろう。
ララにとってケドミルはあくまで商売相手であって、同じ様に肩を並べるような立場にはなってほしくないのかもしれない。
「わかった、司祭のガルべ・トゥーリは対処する。ただ、報酬の話がまだじゃないかな?」