第6話 蠅の王part4
マダム・スカーレットが部屋から出るのを見ると、アルは軽く息を吐いた。
「母親から何か言われたのかい?」
蠅の王は肩肘をついて、にやついた顔でアルを眺めていた。エルフ族は長寿ゆえにどこか人を子供扱いするところがある。
「馬鹿な真似はよせ、と。」
蠅の王はその答えに少し笑うといつまで経っても母親には勝てないか、と呟いた。
蠅の王には全てを知った上で人を試す癖があった。それはちょうど子供が虫の足を引きちぎってどう暴れるかを観察する純粋な好奇心と加虐心だった。
「馬鹿な真似は隣にいた彼女にいいところでも見せたかった事かな?」
彼女はすでにアマリリスでの出来事を知っていた。
それは―彼女が『街の耳』と呼ぶ―物乞い達が彼女に知らせてくれたからだった。蠅の王は物乞い達の女王であり、彼らのおかげで蠅の王は裏社会の中で地位を築くことが出来たのだった。
「どうしてわざわざ僕のところへ来たのか、そろそろ教えてくれないかな?」
アルは話を本筋に戻した。観察されるのが気に食わなかったのもあるが気になった事がある。
蠅の王が何かを話したいならば直接会わずとも使いを走らせればよく、わざわざ出向く必要はない。
「わかったよ、大事な話があるの。」
蠅の王はアルをいたずらに怒らせて観察する事をやめ、机の上で指を組んだ。その表情はとたんに暗く、真剣なものだ。
「輝ける太陽は今、二つに分断されつつある。一つは人間、エルフ、ドワーフ種族関係なく信者として受け入れる穏健派。もう一つは人間だけを信者としてエルフとドワーフを受け入れない過激派。あなたには過激派のリーダーであるガルベ・トゥーリに対処してほしいの。」
「対処?」
「つまり、彼の事はあなたに任せるって事。」
「わかった。ただ気になるのは、輝ける太陽がどうして分断し始めたのか。なぜ蠅の王の君が輝ける太陽の事を気にするのか。教えてくれるかな。」
「それより私を蠅の王って呼ぶのやめてよ。むずがゆいわ。」
「わかったよ。ララ・セーヌ。」
ララはそれでよし、と言うと微笑んだ。
「輝ける太陽が分裂し始めたのはこの街―ミッドポート―にケドミルの密偵が入り込むようになってから。」
ララはこの街について話し始めた。