第一話 赤色の蕾
純文学作品に挑戦!
稚拙な部分もあるかと思いますがご了承下さい
季節は春。
今日は高校生活三回目の始業式があり、その帰路の中、また同じクラスになった女子と二人で新しいクラスやこれからの生活についての会話を交わす。
僕らは高校一年生の時にたまたま意気投合し、それからというもの学校のある日はほとんど一緒にいるようになっていた。
勿論、クラスメイトから冷やかされたり、「付き合ってんの?」と揶揄われる事もあったが、僕は逆に嬉しかった。
理由は明快で、僕は1年の夏からずっと彼女の事が好きだったから。今まで伝える事が出来ていなかったけど、臆病な僕は今日、告白する決意を固めて彼女の隣を歩いている。
そして、ウグイスの声を聞きながら桜並木の道路を渡る。
会話の種が尽きた頃、僕は意を決して彼女を呼び止め、「何?」と小首をかしげる彼女に、僕は自分の思いをぶつける。
「……ずっと好きだった。だから、僕と付き合って欲しい」
緊張を呑み込み、彼女の目を見据え、告げる。
彼女の目には驚きが表れている。
少しの間……沈黙が続く。
風も動きが止まり、先程まで舞っていた花弁も一斉に地面に向かって揺れ始める。
怪しい雲行きに不安を覚え、断られるのだろうか。と心の中で花が蕾のまま枯れていくように感じる。
しかし、帰ってきた返答は前向きなものであった。
「結構待たされたけど……私も、ずっと好きだったから。こちらこそ、よろしくお願いします」
彼女ははにかんで、嬉し涙を流しながら答えた。
その言葉は、僕の枯れかけていた心の花を再び咲かせてくれるようだった。
そんな拙くて、初心な僕らを祝福するように桜の花弁が再び舞い始める。
そんな嬉しい春の日に、僕らを祝福する桜とは裏腹に天では雲が陽光を遮る。
その上、桜さえも怯えるように祝福を終え、周囲は動きのない暗闇に包まれる。
続けて、目の前の彼女の顔が曇り始める。
「どうしたの?」と問う前に、タイヤの急回転する耳をつんざくような音が周囲に響き渡り、大きなクラクションの音が僕の鼓膜を激しく震わせる。
音のする方と視線を向ける前に、僕の身体は宙へと舞う。
宙に舞った一瞬の時間は僕には永遠のように感じられた。
その時間の中で桜より高い場所で見た曇天と、トラックのライトで照らされたさくらはなんだかとても美しく見えた。
痛みが遅れてやってきて、激痛により理解が追い付かないまま頭から地面に衝突する。
脳が激しく揺れ、朦朧とする意識の中、視界には歩道に乗り上げた一台のトラックと僕の傍らで涙ぐむ彼女の姿が見えた。
その涙は悲しみだけでなく、やっと想いが通じた日の最悪の終わりを恨み、叫んでいるようにも思えた。
僕はやっとの思いで彼女の頬に手を伸ばし、触れる。
その手の上に彼女は震える手を重ねてくれる。
とても幸せな感触だった。
僕を迎えに来たサイレンの音が聞こえる。
落ち行く意識の中、僕は手に残る温もりをギュッと抱きしめた。
苦しい場面を書くと苦しくなってくる。
轢かれたけど転生はしないので!