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6話 二人の初討伐

とは言っても、今の状況ではあまり遠出するのも良くないだろう。俺は家から離れすぎないようにと意識しつつ歩く。

 予想になるが、ゴブリンくらいの強さのモンスターは、恐らく他にも沢山居るだろうと考えている。なぜなら、まあ、大抵のゲームがそんなもんだからだ。

 ゴブリンが何体かいたっておかしくない。ゴブリンの他にも、弱めのモンスターもいるはずだ。なぜなら……まあ、言わなくても分かるだろう。大抵のゲームが以下略ってことだ。

 それらを狩りまくって、レベルを上げていく。それが俺の考えていた、シンプルな作戦だった。

「……お」

 そして、その考えは間違っていなかったのだと、少し先の角を曲がっていくゴブリンを見つけて確信を持つ。

 やはりだ。雑魚モンスターと言われるようなやつらは、それなりの数居るっぽい。

 俺は剣を取り出すと、後ろについて来ている小日向さん達の方へ振り向いた。

「じゃあ、次はどっちがいく?」

「え、えー……」

 小日向さんはかなり消極的だ。まあそりゃそうだよな、バケモンと戦うとか普通に考えりゃあ無理すぎるし。

 けど、助けてくれと言ったのは彼女達だし、それに俺は協力してもいいと言っただけだ。協力とは、手を取り合うことだろう? お互いが努力しなければいけないはず。

「私が行くわ」

 反対に、飾さんはかなりやる気だった。小日向さんと比べて活発的な性格をしていそうである。

「つむぎ、私がやるから、見てて」

「だ、大丈夫なの?」

「穂村くんにおんぶにだっこってわけにはいかないでしょ。大丈夫かどうかは置いといて、やらなくちゃ」

 飾さんが包丁を胸に抱く。その手は、少しだけ震えていた。

 俺は飾さんと目を合わせる。

「穂村くん。協力してもらって、いい?」

「勿論。俺が先に行くから、トドメだけ刺してよ。多分それで経験値が入るはずだから」

 経験値の発生がどこで判定されているのかは分からないが、まあ最後の一撃を入れれば確実に入るだろう。

「俺が先に削る」

「分かった」

 先陣を切り、俺が進む。曲がり角から顔を出してみると、ゴブリンが道の真ん中で突っ立っていた。

 一体何を考えているのか分からないが、餌になってもらうとしよう。

 さて。

 それじゃあ、行くか。

「はっ!」

 俺は地面を蹴ると、剣を上手に構えてゴブリンへ接近する。

 初めて武器を使うけど、どんなもんなんだろうか。包丁でHPが半分削れてたから、それを考えるとかなりのダメージが入りそうだが。

 それと、忘れてはいけないのが、スキルだ。

「ブレードアタック!」

 スキル名を声に出すと、刃にオーラが立ち昇る。赤く、ほのかに光った剣先をゴブリンに向け。

「ギィァッ!?」

 声で気がついたのか、振り向いたゴブリンの肩目掛けて剣を振り下ろした。

 瞬間、するりと剣が抜ける。

「なっ」

 そう、抜けた。まるでそこに障害物なんてものはなく、宙を切ったかのように。

 ゴブリンの体は肩から袈裟懸けに寸断され、血が勢いよく吹き出す。途端にHPがゴリゴリと削れて、死ぬ一歩手前くらいでギリギリゲージに緑が残った。

 まずい、なんか思ったより強い。このままじゃ俺が倒してしまう。

「やばい! 飾さん急いで!」

 ふらりと揺れるゴブリンを蹴飛ばしてこかし、時間を稼ぎつつ叫ぶ。

「えええっ!? ちょ、ちょっと待って!」

「早く! こいつに包丁!」

 必死に走ってきた飾さんは、俺に言われるがままにゴブリンへと包丁を突き立てた。

 地面に倒れ込んだゴブリンのお腹に包丁がぶっ刺さり、彼はそのまま光の粒子となって消えていく。飾さんの目の前にウィンドウが現れ、そこにはレベルアップとの表記があった。

 よ、弱い。一瞬で終わった。危なげもなく。

 読み合いとかしなくても、不意打ちするだけで勝てたんだが。武器とスキルがどれほど強力なのかがよく分かった。

「はあ、はあ……」

 肩を上下させ、息を吐く飾さんに俺は声をかける。

「ナイス、飾さん」

「い、いきなり過ぎて何がなんだか……」

「倒せたんだからセーフセーフ」

 言いつつ、俺はウィンドウを指差す。

「レベル上がってるね」

 俺のステータスウィンドウも確認してみるが、経験値は入っていないようで。やはり、とどめを刺した人に経験値が入るシステムみたいだ。

「だ、だいじょーぶ!?」

 後ろから小日向さんも駆け寄ってくる。

「うん、なんとか」

「良かったあ」

 ほっと胸を撫で下ろす小日向さん。その隣で、俺は飾さんの前にある画面を指差す。

「それタップしてみて」

「うん」

 俺に言われるがまま操作した飾さん。遷移した画面にはレベル1との表記と、それから。

「鍛冶師、か」

 職業:鍛冶師。その文字列は、明らかに戦闘職ではなさそうだった。ランクはD、俺より一個高いくらいか。そこまでではなさそうだが……。

 てか、こんな職業まであるのか。なんか、剣士とか戦士とか、弓使いとか魔法使いとか、そういう戦うやつらばかりだと思ってたけど、どうやらそんなことはないみたいだ。

 持っているスキルは、製造。詳細はまだ分からないが、職業が鍛冶師ときてさらに製造とは、中身がなんとなく想像ができる。装備欄には金槌が表示されていて、どうやらこれが武器扱いらしい。やはり分かりやすいな。

「鍛冶師ってあれよね、刀打つみたいな」

「だな。詳細見れる?」

「ん。これ押して……あ、見れた」

 スキルの説明欄には『ランクCまでの武器を作成できる』と書いてある。

 ランクC。見慣れない単語だ。

 俺は自分のウィンドウを開き、武器をもう一度よく見てみる。そこにはランクEとの文字が小さく記されていた。

「なるほど」

 武器には職業と同じようにランクがあり、現状飾さんはランクCまでの武器を作成できると。恐らく、B、Aと順々に上がっていくんだろう。

 それをそのまま彼女に伝えると、分かっているような分かっていないような、微妙な表情を浮かべ。

「良い? のかしら、これ」

「まだ分かんないな。けど、有用ではあると思う」

 今の出来事のおかげで、どうやらこの世界では武器が作れるらしいということが分かった。そして、俺が今知っている武器を作る手段は飾さんのこれしかない。

 きっと使えるはずだ。腐ることは無さそうだが。

「すごー。柚子ちゃん、鍛冶するの?」

「できる気はしないわね……」

「家事はできるのにねえ」

「はい?」

「家事。家のこと」

「ふざけてる場合じゃないのよ」

 飾さんの放った手刀が、小日向さんの頭にこちんと激突する。

「あいてっ」

「とりあえず、私はこれで終わり?」

「ああ。あとは小日向さんだな」

 二人の視線が突き刺さり、小日向さんが狼狽える。

「うう、できる気がしないよお」

「頑張るのよ。それにほら、やってみたら一瞬だったし」

「俺もコツ掴んだから、そんな苦労しないと思うよ」

「うん……」

 未だ表情が暗い小日向さんを連れ、俺を先頭にしてまた歩き始める。

 こうして歩いてみた感じ、モンスターはそこまで密集して分布しているわけではないみたいだ。街なかにギュウギュウに居られると困るからありがたいが、少なすぎるのはそれはそれで困る。

 モンスターが少ないってのはつまり、レベリング――レベルを上げるのが遅くなるということだ。モンスターを倒せる数が減り、必然的に経験値を得る機会も少なくなる。

 それは困るが、いや、でも居すぎるのもな。丁度よくあってくれ。

「……お」

 と。

 少し遠くに、何か変な物体が。

 目を凝らす。青い球体のようなそれは、上下に跳ねながら移動していた。少し透けていて、体の奥の景色が見える。

 この見た目は。

「スライムまでいるのか」

 間違いない。RPGでは王道の敵といっていいだろう。

 ぷよぷよしていてなんだか可愛いが、やつは紛れもないモンスターだ。油断してはいけない。

「小日向さん、俺の後ろについてきて」

「う、うん……」

 未だ怖がっている彼女を連れて、俺は目標へと接近していく。スライムの移動速度は遅く、歩いているだけで簡単に追いつくことができた。

 スライムの目の前まで来ると、その小ささがより際立つ。俺の膝下より少し小さいくらいの、実に弱そうな見た目だ。おまけに警戒心すらないのか、背後に迫る俺達に気がつく素振りも見せない。

 それの頭上にはスライムという名前と、レベルが1であることを示すUIが現れていた。

 ザ・チュートリアルみたいな敵ばっか出てきてくれてありがたいな、ほんと。都合が良くて助かる。

「よっ」

 俺は剣を手に取ると、それを振り下ろした。とどめを刺さないよう、少し弱めに。

 ぬるりとした気持ち悪い感覚が手に伝わってきて、スライムの体が切り取られる。まるでゼリーを切ったときみたいな、そんな感覚だ。スライムはぼよんと跳ねたのみで、攻撃に驚いているっぽい?

 途端にHPバーが減り始め、半分より少し多いくらいの体力が残った。

「もうちょいか」

 再度剣を振るう。チクチクと攻撃を繰り返し、いい塩梅までHPを削り取っていった。スライムはぽよぽよとどうやら抵抗しようとしているみたいだが、あまりにも弱々しすぎて全く抵抗できていない。

 なんか、弱いものをいじめているみたいで心が痛むな……。ゴブリンの時の方がマシだったかも。

 そんなこんな思いながら、俺は剣を振りやめた。HPをほんの少しだけ残して、俺は小日向さんにバトンタッチする。

「じゃ、小日向さん」

「うう、どうすればいいの?」

「包丁をそのまま、ずばっと」

 彼女はおろおろした後、息をすうはあと吸って吐き。

 少しして、どうやら覚悟が決まったのか、包丁を握りしめて。

「え、えいやあっ!!」

 そんな掛け声とともに、小日向さんの持つ包丁がスライムへとめり込んだ。残されたHPが、ずばっと減ってゲージ全体が灰色になる。

 途端にスライムの体が光りだし、そのまま粒子となって消えていった。無事討伐成功だ。

「なんか慣れてきたな」

「早くない?」

 俺が言うと、飾さんがツッコんでくる。

「うう、怖かったあ……」

「レベルアップしてるね。ウィンドウタッチしてみて」

「うん。職業、だよね」

 飾さんの時と同様、小日向さんに指示をして操作をさせる。

 レベルが1、そして職業は……。

「魔法使いだって、雪斗くん!」

「まじか」

 そんなのもあるのか!

 この単語を見てワクワクしない人間はいないのではないだろうか。それほどに強いファンタジー感を、魔法使いという単語は孕んでいる。

 ランクはD。飾さんと同じだな。

「すごいな、小日向さんは魔法使いか」

「えー、なんかわくわくするかも」

 はにかむ小日向さんは、なんだか嬉しそうであった。

 さらにウィンドウへ目を通す。スキルは、ミニフレイム。武器は杖のようだ。実に魔法使いらしい一式だな。

「えー、魔法使いかあ。ちょっと嬉しいなあ」

「よかったわね、私なんて鍛冶師よ鍛冶師」

「でへへー」

 なんか楽しそうだな、この人。

 ま、気持ちはかなり分かるけど。俺だって魔法使えたら絶対こうなるし。

 いやー、剣士も無難にかっこいいけど、やっぱり魔法使いのほうがよかったかもなあ。選べるわけじゃないからしょうがないんだけど、もしいろんな職業の中からなにか一つ選べと言われたら、魔法使いを選んでしまうかもしれない。

 ううむ。流石に少し羨ましい。

 まあ、ともあれ。だ。

 二人に説明もせず外に出てきてしまったわけだが、なんとか全員がレベルアップし、職業を得ることができた。スキルも、武器も。

 これはとても大きな収穫だ。そして、これから俺達が戦っていくための大きな一歩になる。

「んむむ……! せいっ!」

「おお、意外と大きいわね」

 小日向さんは自分の身長より少し小さいくらいの大きな杖を手にして、満面の笑みを浮かべる。その隣で、飾さんもそれをしげしげと眺めていた。小日向さんの身長は小さい方だと思うけど、それを差っ引いても随分でかい杖だ。

「私のは……よっ」

「金槌だねえ」

「金槌だな」

 普通サイズの実に普通の金槌だ。殴ったら結構強そうではあるが。

「なんか、せっかくならもっと別なのが良かった」

 そんな風に飾さんはぼやく。

 さて、と。

 じゃあこれで終わり、というわけにもいかない。

 俺達のゴールはここじゃない。あくまでこれはスタートラインに立ったに過ぎないのだ。

「二人とも、疲れてないか?」

「うん、別に」

「私も。ドキドキはしたけどね」

 時刻は分からないが、空を見上げれば太陽は未だ高く登っている。もうしばらくは外にいられるはずだ。

「じゃあ、もうちょっとレベル上げしよう」

 ただ、そうは言ってもモンスターがどれだけいるのかが分からない。ゲームだと無限に湧いてくるもんだけど、この世界だとどうなんだろうか。

 まあ、この世界がゲームになってしまったのだとしたら、それに準拠しているはずだ。無限とは言わずとも、ある程度は敵が出てきてくれるはず。

「けど、あんまり無理しすぎるとまずいから、疲れたらすぐ言ってくれ。オッケー?」

「はい!」

「了解」

 そうして。

 俺達はモンスターを見つけては狩り、見つけては狩り。

 しばらくして、情けないことに一番に俺が音を上げ、家に帰ることとなった。

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