読野美夜は美世のヨミ
こうして美夜となったヨミは現実世界の汚いモノを堪能していた。
「美夜の父、さいっこうに不快だったなぁ!」
よく子孫を残せたなぁと関心しつつ喉にこびりついた臭いの強い垢を歯ブラシで落とす。
現世はやはり求めた通りの世界だった。
他者の手入れしていない陰部とそこにある垢の不快さは想像の範疇だったが、心理の理解できない相手に犯される恐怖感、抵抗しても無駄だと分かる圧倒的力量差による無力感、呼吸のできない閉鎖感、孤独感、絶望感・・・
「そりゃ負の感情に埋め尽くされるわけだ。」
この世界に来て3日目、時刻は朝の7時30分。
今日は木の曜日で、休みの日じゃない。
つまり今日もまた学校があるということ。
慣れた手つきでお風呂場からしわくちゃなワイシャツを取り出し、シワが消えるスプレーを撒いて着る。
自室に戻って制服に除菌スプレーを巻いて着る。
もちろんこれもとてもスムーズ。
朝ごはんは母親がテーブルに用意してくれたなめ茸を、チンしたご飯に乗せる。
箸は割り箸入れが冷蔵庫に付いているからそこから取る。
飲み物は・・・今日は蛇口から水が出ないようだ。
そうしてヨミは3日目の学校に向かう。
学校に到着したヨミは、ここ2日で観察して覚えた"挨拶"をしてみることにした。
「三森さん、おはよう。」
「げ。」
げ?聞こえなかったのかな、とヨミは考えた。
「三森さん、おはよう。」
「・・・」
どうやら、三森さんにはヨミの声が聞こえないようだ。
過去2日の結果から、他の人との会話は何事もなく出来ていた。
そして三森さんもまた、第三者との会話が出来ていて、ヨミにも問題なく聞き取れる。
周波数の問題では無さそうだ。
もう少し調査が必要だ。
ヨミは次の生徒に挨拶をしてみることにした。
「ゆっちょ、おはよう。」
彼女はゆっちょと呼ばれていた。
「え?なにあんた。」
ゆっちょの眉間にシワが寄っているのがわかる。
「あだ名でしょう?」
「なんでお前があだ名で呼ぶわけ?消えろよ!」
筆箱を投げられ、その際に当たったハサミの縁が少しヨミの頬に傷をつけた。
ズカズカとヨミから離れていくゆっちょの後ろ姿を見て、ヨミもまたその場を離れることにした。
「・・・どうやら美夜は嫌われている。」
・・・嫌われている、という自覚をしたのはヨミにとって初めての経験だった。
夢世では全てのモノが私を愛してくれていた。
ああ・・・すごく不愉快。
「ははっ。」
・・・そう思えるこの環境が、堪らなく、良い!!
ヨミはこうして、美夜としての現実の世界を堪能しながら過ごしていた。
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