逃げるように
美夜はまた、洗面所で吐瀉物の掃除をしていた。
胸が膨らみ始めた程度の頃からこんな生活を送っている。
嘔吐にも慣れたものだ。
父には勝てない。それは何度も味わってきた。
何度も何度も味わってきた。
なんどもなんどもなんどもなんども。
何度も。
過去の父にされた数々の暴力の記憶が、美夜の脳内を暴れ回る。
美夜は血が出るほどに唇を噛み締めた。
今、美夜の左耳はかなり遠くなり潰れている。
美夜の左目から見る景色は常に赤みがかっている。
歯は左の奥歯が2本ない。
2年ほど前、脇の下にペンを刺された頃から指先が若干痺れる。
父に逆らえば、何年も先の美夜まで悲しい思いをする。
逆らわなければ、ただその瞬間が辛いだけ。
次に父に呼ばれるまでに、父が死んでいるかもしれない。
次に呼ばれるまでに、私が死んでいるかもしれない。
次に呼ばれるまでに、誰かが助けてくれるかもしれない。
・・・美夜がそう考えている間に、ようやく洗濯が終わった。
美夜はすっかり静まり返った外の様子を窓から眺める。
家の下に設置している自販機のライトに虫が当たったのだろう、バチっという音が時折聞こえてくる。
・・・子供の頃は夜が嫌いだった。
綺麗なものが目立たないから。
でも今は好きだ。
汚いものが目立たないから。
何もないから、1人にさせてくれる。
・・・しかし今日は色々あった。美夜は枕に顔を埋めた。
疲れた。今日はもう寝よう。
美夜は眠りについた。
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