また地獄へ。
「悪人の・・・皆殺し・・・?」
ぽよぽよは驚いた顔で美夜を見る。
「そう、悪いやつ全部殺すの!」
美夜は笑って答えた。
「・・・僕行かない。」
ぽよぽよはまた地面を見て言う。
足のような部分で地面にいじいじとしながら、ぽよぽよは話を続けた。
「悪い人はね、きっとどこかで悪くなっちゃったの。確かに酷いことをするのはダメなことだよ。でも・・・」
足で輪を描きながら、ぽよぽよは話す。
「酷いことをされるのはその時だけだけど、死んじゃったらずっと痛いんでしょ?」
美夜はぽよぽよの頭に手を乗せて答えた。
「いい?スライム。痛いのは一瞬なんかじゃない。私、ずっと痛いんだ。身体じゃなくて、心が。」
美夜は胸をさする。
「そして、やがて心は壊れちゃう。」
美夜は何かを持ったような仕草をした腕を前に突き出すと、それを握りしめた。
「壊れた心を持ったまま生きるのって、常に心臓に鎖でも刺さったような気分なの。」
「鎖・・・?」
ぽよぽよは首を傾げるような動きをした。
美夜は手元にあった花に指を沿わせて話を続けた。
「鎖なんてここにはないか。・・・何かを縛り上げて、締めて、食い込ませて、動けなくする物。」
ぽよぽよは美夜の胸を見る。
「なにも、ついてないよ?」
「自分にしか分からないんだよ。」
「でも、だからってその鎖を外すためなら他の人を殺すの?そんなの・・・」
美夜は立ち上がった。
「だめ、かな。」
ぽよぽよも立ち上がった。
「だめ、だよ。」
美夜は森の方に踵を返すと、飛んでいた妖精を手で叩き落とし、ぽよぽよを見ることもなく口を開いた。
「スライム。お前はやっぱり私に着いてこないで欲しい。」
ぽよぽよはぷるぷると震えた。言葉はない。
口を開いてはいるものの、言葉は何も出てこなかった。
沈黙の中、別れの一歩を踏み出そうとした時、脳内に声が聞こえてくる。
「やぁ。元気そうでよかった。でも貴女、殺し過ぎよ。現世では結構問題になってる。足はつかないだろうけど。」
「・・・何の用?」
「一度元の世界に戻りましょう。」
美夜は動揺して自分の目玉が揺れ動くのを感じた。