嘘つきは死ね
びちゃびちゃと飛び散る茶色い血液は、緑色の巨体をドス黒く染め上げた。
その巨体は外見同様相当な重量があるようで、地響きに近い音を立てて倒れ込む。
件のスライム(ぽよぽよ)はというと・・・
「うわ。」
巨体が放った茶色い血液を至近距離で浴びたせいか、まるで糞のようになっている。
当の本人は何のショックか気を失っている。
「うえー。」
美夜はぽよぽよをつまみあげると、ここに来るまでに見かけた川へと向かった。
薄汚れて馬糞のようになったぽよぽよを、洗濯板状にした右手に密接させると、美夜は強く擦り合わせた。
「いだだだだだ!!!」
今度は腫れて赤くなっているぽよぽよは、大声を出しながら跳ね起きた。
「おはよう。」
「お、おはよう・・・」
先ほどまで機関銃を構えていた人間と、その銃口を向けられていたとは思えない平和な挨拶は、美夜を少し笑わせた。
ぽよぽよもまた、少し笑った。
「なんで、僕を助けてくれたの?」
美夜は答える。
「お前、死を覚悟していた時写真見てたよね。家族の?」
ぽよぽよもまた、その問いに答える。
「うん、ぽに子。妹。」
「・・・そ、か。」
続けて美夜は聞いた。
「なんで借金したの?なんで返さない?」
「お腹が減っていたんだ。」
「お腹が?」
「うん・・・お父さんとお母さんが死んで、家族は僕と妹だけになったの。僕たち家族は少し遠くの山に生えているお花を食べてたんだけど、いつもお父さんが取りに行ってたから・・・」
美夜はぽよぽよに言う。
「お前が取りに行けばよかったじゃん。」
ぽよぽよは珍しくムッとした表情で切り返した。
「行ったよ。でも場所、分からなくて。でね、僕思い出したんだ。昔お父さんが言ってたこと。」
「なんて?」
ぽよぽよは父との会話を思い出した。
「お父さん、今日のお花ちょっと苦いね。」
ぽよぽよが父に言う。
父は少し恥ずかしそうにぽよぽよに答える。
「この花はあまり良いエネルギーで育っていないからな。ごめんなぁ。」
「ふーん、よく育たなかったんだ。・・・僕、良いやつの方が好き!」
ぽよぽよは元気よく父にそう伝えた。
「そうか。でもなぁ、うーん。」
今まで花を啜っていたぽに子も口を開く。
「あたちも、いいのがいー!」
父はそれを聞いて笑う。
「そうかぁ。でもな、良いエネルギーを吸収できる花ってな、火山とか海の底だとか、そういった神秘が溜まっている所にあるんだ。」
ぽよぽよは2本目の花に手を伸ばしながら父に言う。
「じゃあ僕が行ってくるよ!」
10本目の花に手を伸ばしたぽに子も、それに追う形で父に言う。
「あたちも、いーのとってくる!」
父は2人を慌てて止めた。
「ダメだダメだ、本当に危ないんだ。」
「いや、美味しい花を採ってきて、ぽに子にあげるの!!お父さんにもあげるから、お願い!」
「ダメだったらダメだ。」
父はぽよぽよ達を制止させると、大きなため息をついて2人に言った。
「・・・はぁ。まったく。今日はもう寝なさい。」
「一度でいいから食べさせてあげたいの!!」
駄々をこねながら寝床に行くぽよぽよを見て、父は何かを考えるように頭を抱えていた。
そして、2人が眠った頃合いに、2人の額にキスをすると、父はそっと巣を後にした。
「・・・で、いつまで経っても帰ってこなかったんだ。」
美夜は眉間にシワを寄せながらぽよぽよの話を聞いていた。
「残念ね。・・・でもそれが借金となんの関係があるの?」
「僕、妹と僕のご飯のお花を取りに行こうとしたんだけど場所が分からないから、お父さんが言っていた火山ってところに向かおうとしたんだ。」
ぽよぽよはコロコロと話す。
「でも、途中で創世者・・・?っていう人に出逢ったんだ。創世者は僕を見るとすごい勢いで近づいてきて・・・」
ぽよぽよは泣きそうになりながら声を絞り出す。
「いきなり檻に閉じ込められて、たくさんたくさん大きい針で身体を刺されて・・・」
創世者と聞き、美夜は少し怪訝な顔をした。
「それで・・・バラバラにされて捨てられたの。」
美夜は困惑、怒り、どれにも属さない、えも言えない感情になっていた。
「僕は怪我をしても治るから生きてたんだけど、でも動けなくて。そしたら、あの緑の大きい人が僕を拾って繋げてくれたんだ。・・・でも、無事に繋がったのを確認したら手の平を向けてきて・・・」
「・・・で、そしたらお金を要求されたってことね。」
美夜は頭を抱えながら言う。
「夢世ってメルヘンチックなとこだと思ってたけど、腐っても現世と対になる世界ね。見えないところの汚さまでそっくりだわ。」
そして美夜は立ち上がってぽよぽよの方を向くと、声を張り宣言した。
「まずはお前を捨てた父、次に創世者を騙って酷いことをしたそいつ、最後に借金を返さないクソスライム。悪いやつ皆殺しの旅に行こっか。」
ぽよぽよはぷるぷると震えて美夜に言った。
「僕、スライムじゃない。ぽよぽよ。」