ターミナル・エデン/奇跡
「ターミナル・エデン」
社宅のみんなで飼っている恐竜にフルーツを買うため
昼食はワンコインで済ませる
宇宙港と連絡を取った仕事の終わり
上司は江戸時代へ帰る
火山岩を融かす夢の中で
あいつと一言二言会話をした
お互い二度と会えなくても生きていて
お互い結末を知っていても笑っていて
たとえば時代を繋いで
どこでもない場所でずっと過ごせたなら
忘れたいことも全て遠くなるだろう、
と思っていたことを今思い出した
火傷の痕を指で押したときのように
どんな痛みだったかも今思い出した
うん、これでいい
今日もカフェオレを作って飲む朝
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「奇跡」
虹の切れ端やオーロラ
雷雪や月食や流星群
花筏花吹雪ロンパースで走る幼子
嘘のように爽やかな風
サーモンピンクの東雲
世の中にある大小の奇跡ぜんぶぜんぶが
嬉しい以上に卑屈な自分を悲しくさせる
これは奇跡じゃない
ただ自分の目を束の間喜ばせるだけのものだと言い聞かせる
綺麗なものを見ているのに
自分の虚無について考える必要なんてない
もう二度と会えないと苦しむ意味もない
自分が居なくても新緑は綺麗だろう
目に焼き付けるのも人間の勝手
青年がクロスバイクを漕ぐ
雲が繊月が沈む
丘の上の住宅街の煌めきが薄れて
橘の花は風を溜めている
呼吸のように流れた