3話
「うわー、凄ーーい!立派な野菜や果物が実ってるーー!しかも全部食べ頃ーーー!」
はい、僕です。
ただいま絶賛案内中の身でございます…なんちゃって。
少しばかりテンションおかしいけど、誰が見ても多分こうなるって。
だって視界一面に広がる農作物の数々!
しかも日本で言うところの季節関係なく、しかも1つ1つが食べ頃に実ってるんだよ!?
凛様から魔力を込めた水で育てたと説明は受けたけど、流石ファンタジーって思ったし実際に口にも出しちゃったよ!
それから凛様に冒険者。
と言うか今までの生活について尋ねられたんだけど…
「手裏剣と苦無?あるよ、これでしょ?」
なんて言葉にしながら、アッサリと出して見せた。
「え?ちょっ、え?苦無と手裏剣、だよね?うん本物だ。でもなんで苦無?…じゃなくて。凛様、この苦無と手裏剣をどこから?まさか…。」
「そう、空間収納アイテムボックスだよ。僕のはその上の無限収納インベントリで、苦無と手裏剣は少し前に必要になったから用意したんだ。」
「苦無と手裏剣が必要な事態って一体…。」
「仲間から、投擲武器を使ってみたいとの要望があってね。」
ああ、そう言う…。
と返して納得はしたものの、そのお仲間さん。
怖かったり裏稼業の人じゃないよね?
大丈夫だよね?
はぁ…。
「? ステラ、どうかした?疲れたなら休む?」
おっと、いけない。
つい溜め息が漏れてしまった。
でも、凛様がいけないんだよ?
いくら出来るからって、何でもかんでもやれば良い訳じゃ…ほらー、やっぱり。
移動方法とか家とか、カップ麺とかペットボトルが実質費用0?
いやいやいや、そんな魔法みたいな…あ、魔法あったんだった。
脳がオーバーヒートするのを恐れた僕は、考えるのを止めました。
その後、色々あって…いやホント色々あったよ。
美羽ちゃんの誤解(?)が解け、何となく凛様とお笑いデビューしたら面白そうかもと思ったのは良いとして、一気に押し寄せる情報達。
アルファさん含めエクスマキナを創っただとか、僕の好きな0◯シリーズの兵装(実はちょっと嬉しくなったのは内緒!)とか。
美羽ちゃんが皆にドヤ顔で僕を妹なんて紹介するものだからもみくちゃにされるし、極め付けは沢山の女の人達とお風呂?
いやいや、無理無理無理無理。
でも逃げようにも雫ちゃんからバスタオルを剥ぎ取られ、袋の鼠状態。
体の隅々まで洗われたし、ここへ至る道中含め根掘り葉掘り聞かれちゃったよ…。
そうそう、雫ちゃんで思い出した。
凛様主導で僕の歓迎会を開いてすぐ、こんな事があったんだ。
「改めて、私は雫。お色気担当を務めている。」
「オメーがお色気ぇ?お笑いの間違いじゃねえの。」
「フッ、貧乳はステータス。希少価値が高い。どこぞの中途半端乳とは違う。」
「だ・れ・が・中途半端だこらぁぁぁぁああああああ!!」
的な感じで、いきなり取っ組み合いの喧嘩が始まっちゃった。
中途半端…十分大きい様に見えるけどなぁ。
ってか雫ちゃん小柄なのに意外と力強っ。
あ、火燐ちゃんの服が…ま、真っ赤?(下着が)
あっ、あっ、雫ちゃんのスカートが捲れて…って紫!?
しかもなんかヒラヒラしたの(※レースの事です)まで付いてるぅぅぅ!!
お、お、大人だぁ〜〜〜〜〜!
コホン。
失礼、取り乱してしまったよ。
さてさて、僕が凛様に会えると思って尋ねた街…街?
どう見ても都市だけど、皆は街って呼んでるからそれに倣おう、うん。
ともあれ、尋ねた街サルーンが乗っ取られちゃった…らしい。
それが分かったのは歓迎会の途中で、治める立場の人(ガイウスさんって方)が尋ねて来たから。
乗っ取られたのに全然悲しそうじゃないなぁ、なんて思ったら事前に分かってたんだって。
確かに、お世辞にも進んでいない文明の中。
これだけ異彩を放つ街が出来たらそりゃあ気になる。
仮令強引にでも領主の地位に就きたい人はいるだろうし、身分が自分より上ってなるとまず逆らえないもんね。
今回はそれを逆手に取って利用。
ガイウスさん、久し振りの休暇だーってめちゃくちゃ騒いでる位だから、よっぽど嬉しかったんだなぁ。
気付けば僕の歓迎会じゃなくガイウスさん達の慰労会みたいになっちゃったけど、これはこれで悪くないかも?
その3日後、僕達は件のサルーンにいた。
領主に成り代わろうとした人…ガストン子爵が捕まったとの報告を受けての訪問。
ガイウスさんの屋敷に到着するや、子爵がいきなり喚き始めたけど…どんな形にせよ、他人のものを無理矢理奪おうとする人の行き着く先は碌なものじゃないと思う。
多かれ少なかれ他人を陥れ、そこに罪悪感を覚えないから当たり散らすんだもん。
今もみっともなく大人数で文句を垂れる中、凛様が説得。
と言うか声を掛けてくれたんだけど…
「皆さん。大変だとは思いますが、これからもガイウスさんの事を宜しくお願いしますね?」
『はい、喜んでーーー!!』
怖ーーーーー!?
いやだって、さっきまでの怒りは全部嘘だったのかな?って聞きたい位、実に良い笑顔で。
しかもハキハキと答えるんだよ?
ビックリしちゃったよ。
勢い余って僕も(隠れながらにして)えーーーーーーーーーーーーっ!?って住民の皆さんと一緒に叫んじゃったけど、こればかりは仕方ないよね?
「…話には聞いていたけど、王国の貴族ってのは酷いね。あれがこの世界の常識だと思うとゾッとするよ。」
これは紛うことなき僕の本音。
ペットボトルとか即席食品に釣られてサルーンに来ちゃった訳だけど、扱い上は王国に属する街の1つ━━━━今はどう見ても都市だけど━━━━なんだよね。
僕達獣人。
それと亜人に対し、王国の人達。
特に王族貴族が厳しい目を向けるなんて事実、村を出てから知った。
ガストン子爵なんて、その典型的な例。
ガイウスさん(凛様がそう呼んでるが理由で僕も許可された)が話の分かる方で本当に助かったよ。
だからこそお互い仲良くなれたし、住む人々も優しい。
環境の変化に戸惑いつつ、負けん気の強さも併せ持っている。
でも言わせて。
凛様程の実力で洗脳なんてしたら、誰も敵わないと思うの。
しかも、解除出来るのがお姉さんにシロ、美羽ちゃん位?
他は恐らく厳しい?
どんな無理ゲーだよって思ったのは僕だけじゃないはず。
「やっと見付けた。これは一体何の騒ぎだい?」
なんてやってたら、知らない人が…えーと、鋼の錬◯術師だったっけ?
その主人公のお父さんっぽい方がこちらに来た。
…強そうなのもだけど、なんだか熊みたいな人だなぁ。
そう思ったからなのかな。
いつの間にか、凛様の後ろに小さな女の子が立ってた。
女の子は9歳位の見た目、腰まで伸ばしたくすんだ灰色の髪。
生気の感じられない赤い瞳に、全長50センチ程の熊のぬいぐるみを…って。
視線も含め、熊好きなのがあからさま過ぎるっ!
ちょいちょい熊さん…なんて言ってるし。
名前はミレイちゃん。
ただそれは本名じゃなくて、ミドラルネ・レムル・リーベンディーアが正式名称。
もう滅んでなくなっちゃったけど、レムル王国の元王女なのだとか。
彼女と初顔合わせの時。
凛様が名前を尋ねたものの、ボソボソと喋るものだから上手く聞き取れず、辛うじて分かった部分を繋ぎ合わせてミレイ?と返し、それで落ち着いたんだと。
生前の愛称はルネ。
響きだけで見れば可愛いけど、女の子にミドラルネって…。
本人も嫌だったみたいで、凛様の提案(と言うか聞き直し?)でそっちが良いってなったらしい。
見ての通りボーっとする事が多く、声も小さい。
なのに行動力は意外とあって、度々驚かされるんだよね。
「くまさん…。」
ほら、今もそう言ってゴーガンさん。
やって来た冒険者ギルドマスターの人の背中によじ登り、困らせちゃってるし。
これにはやられた本人含め、僕達も苦笑いになるのでした。