2話
15歳の誕生日を明日に控えた日の夕方。
いつもの様に、村の特産品だったり僕が倒して得た魔物の素材の売却。
それと必要なものを仕入れに、近くの街へと向かった犬獣人の男性━━━トムおじさんが帰って来た。
「トムおじさんお帰りー。」
おじさんとこうやって会うのも取り敢えずは今日で最後かー、なんて思いながら話し掛けてみる。
「おう、ただいま。」
ニカッと笑ったおじさんが僕の頭を撫でる。
おじさん面倒見は良いんだけど、力が込もってるって言うか。
ちょっとだけ痛いんだよね。
「そうだ、知り合いから面白いものを貰ったんだ。」
でも下手に指摘すると落ち込んじゃうから、タイミングが難しいんだけど。
…って考えてる内に、おじさんは背負ったリュックを下ろしてた。
何だっけ…面白いもの?
え?え?嘘!?どうして異世界にあんなものが!?
「どうだ、珍し━━」
「こ、これ…ペットボトルじゃん!?」
気付いたら、おじさんがリュックから取り出したペットボトルを引ったくってた。
これ…見た目透明だけど多分水だよね?
パッケージにもデカデカと、それもご丁寧に水って漢字で書いてあるし。
それに缶詰まで!
おじさん「ぺっとぼとる…って何だ?」って困惑してるみたいだけど、そんなの後々。
大事の前の小事…あれ、障子だったっけ?
…まぁ良いや。
まずは出所を聞かないと。
「おじさんおじさん!」
「お、おぉ…どうした?」
「これ!どこで貰ったの!?」
「王国にあるサルーンって街を出た知り合いからだ。何でも(獣国)王都へ向かう用事があるとかでな。」
「サルーン…。」
初めて聞く名前だ。
まぁ王国を含め、外国の主要都市すらも知らないんだよねぇ。
村を出たら色々調べないと、と。
「サルーン…どんな所なんだろう。」
と、言う訳でやって来ましたサルーン。
流石、噂になるだけあって僕が住んでいた村とは大違…え?
ここに至るまでの過程はどうしたかって?
それは
さささー
さささー
さささのさーーー
ってな感じで、影の中を走りながら移動…そうそう。
影の中って、意外と快適なんだよ?
障害物は勿論。
人も魔物もいないから進みたい方向へ真っ直ぐ進めるし、温度はちょっと涼しい位?
村にいた時に何回か外で戦闘になった事もあったけど、安全圏から。
それも一方的に攻撃出来るからとてもとても助かってる。
助かると言えば、影収納(勝手にそう呼んでる)も大活躍。
これは文字通り影の中に物を仕舞えるとの能力で、特に収納量への制限はないっぽい?
今までのだからトラブルらしいトラブルはなかったし、僕はこれでも獣人だからね。
体力には自信があるし、村で1番魔力があるおかげか数日で辿り着く事が出来たんだー。
両親ともしっかり別れは伝えた。
僕はこれから大人として扱われる訳だから、成り上がるつもりで頑張らなきゃだ。
ってな訳で目的地へ!
トムおじさん曰く、『ホズミ商会』と言うのが試供品をくれたところなんだって。
うん、名前からして間違いなく日本人が関わってるよね!
それからしばらくして建物を発見。
いざ行かん…なんちゃって。
はい調子に乗り過ぎましたすみません。
現在、僕はとても高級感溢れる部屋で待機中。
座るよう促されたソファーもだけど、置かれてる家具とか調度品(?)とか…どう見てもお高いやつだよね!
汚したりなんて考えたら、とても座れる様な空気じゃないって!
…そう言えば、受付のお姉さん(綺麗な人)に目的を聞かれ。
案内された人(こんな人いるのかって位めっちゃ綺麗)にも同じ説明したら「ああ」って顔されたけど何だったんだろう??
なんて考えてたらノック音が。
平常心、平常心…。
「お待たせ致しました。」
落ち着け…良し。
「いえ、全然待ってないので大丈夫です。」
笑ってはみたけど、上手く出来てるか心配…え、あ、嘘?
ちょっとぉぉぉぉ、有り得ない位に可愛いんですけどこの子ぉぉぉぉぉぉぉ!?
え、日本人…日本人だよね!?
あまりにも(顔が)整い過ぎてるし、こんな子いたらテレビ局が放っておかないでしょ絶対!!
それに後ろにいる子!
髪色とかちょこちょこ違うけどミ◯ちゃんだよね!
電子の歌姫の!
プ◯セカやってるからめっっっちゃ気になる…でもどうして…いやいや、いやいやいやいや落ち着け自分。
クールだ、クールになるんだ僕。
ヒッヒッフー、ヒッヒッフー。
あれ?気分を落ち着かせる呼吸法ってコレだっけ?
どちらにせよ、後で納得するだけの説明はして貰おう、絶対、うん。
あ、何か1周回ったせいか逆に落ち着いて来た。
「僕はステラって言います…成程、思った以上に…いえ、凄くお若いんですね。それと、やっぱり日本人だった。」
「え…?」
あれ、驚かれてる!?
もしかしなくてもスベっちゃった感じ…?
あわわわ、とっとにかく謝らないと!
「あ、ごめんなさい!僕、初対面なのに色々と失礼な事を…!」
まずは誠意を見せなきゃと深くお辞儀。
声が聞こえた気がしたから頭を上げてみたら、ホズミさんが不思議そうな顔で首を傾げ…くっ、その可愛さはズルい。
そんな仕草されたら、何があっても許しちゃうって。
もー、さっきから調子狂いっぱなしだよー。
おっと、何か話題を…。
「それにしても、(性別上は女性の)僕が言うのも何ですが…ホズミさんって、物凄く可愛いですね!」
なんて口にしながら、尊敬の眼差しで。
それも色んな角度から眺めるのが悪かったのかなぁ。
ホズミさんは苦笑いだし、◯クちゃんっぽい子はむー…と頬を膨らませ…大変視線が痛うございます。
てか今ボソって!
初対面なのに、マスターとの距離が近過ぎじゃないかなって呟いた!
それはそれで大変眼福な上に、ある意味予想通りでしたありがとうございます!
じゃなくて!
マスターの件で確信に至ったものの、いつまでも無視は良くない。
そう思った僕は「うわっ、ミ◯ちゃん!?え…嘘、本物?」と驚いてみたけど、大丈夫かな?(ドキドキ)
演技が嘘くさい…あ、2人共反応してくれたからセーフ?
セーフかな?
ではないですね。
これ以上ない程に◯クちゃんジト目ですもん!
ごめんなさーーーい!
それから僕は、凛様と僕は沢山話をした。
凛様はアレが素なのも勿論だけど、ホズミ商会のホズミは穂積だと勘違いしていたとか。
これまで普通に暮らしていた(ホントかな?)のに、失踪した姉が実は神で、そのおかげ(せいかも?)で自分もそっち側に足を突っ込まされたとか。
ミ◯ちゃん…美羽ちゃんが創られた存在なのもだし、さっきのめっちゃ綺麗な女性(ベータさんって言うらしい)はエクスマキナ。
つまり金属で出来てるって、そんなまさかー…えええぇぇぇぇ!?
首が!首がスポンって!!
「仕様です。」
ベータさん、それだけ言って部屋から出て行っちゃったんだけど…。
「きゃああああああ!!」
デスヨネー。
首が胴体から離れてるのを目の当たりにしたら、普通驚くって。
「あ。」
いや、あって。
凛様あって。
1番忘れちゃダメな方がしちゃいけないリアクションでしょう。
ベータさんもだけど、凛様ってお茶目さんなのかな?
そんなこんなで凛様と仲良くなり、雇ってくれるとの流れに。
美羽ちゃんからは、未だに警戒の視線を向けられてるのが何とも言えないけど…。
それからポータルを潜り、凛様の屋敷へ。
ふわーー、おっきぃぃぃ!!
エントランス!キレー!
リビング&ダイニング!凄く広いし立派ーーー!!
これからここが仕事場になるんだ!
そう思うと身が引き締まるし、同時に楽しみでもある。
なんて燃えてたら、クスクスと声が。
見れば凛様が笑ってるし、美羽ちゃんは横を向きながら笑うのを我慢してるっぽい?
あれ?何で?
「さて、これから案内を…の前に。」
居住まいを正した凛様が説明を中断。
何だろう?と疑問符を浮かべていたら、続きを話してくれた。
「まだ午前中ではありますが、先にシャワーでも浴びてスッキリして来ます?」
シャワー。
シャワー?
シャワー!?
「シャワー!?広いお屋敷だからお風呂はあると思いましたが、まさかシャワーまで…是非使わせて下さい!」
「分かりました。浴室までご案内しますね。」
そうやって、再び凛様からクスクスと笑われ、浴室に案内される人物。
まぁ僕の事ですね、ハイ。
使い方の説明は不要か聞かれたので勿論と返し、姿が見えなくなると同時にダッシュ。
脱衣場で衣服はキチンと畳んで…いざ、戦場へ!
「うわぁぁぁぁ、ホントにシャワーだーー!」
入ってすぐのところにあったシャワー含め、どこか懐かしい内装に感動。
一頻り眺めた後、体を洗おうと椅子に座り、お湯が出るであろう赤い印の付いた蛇口に手を延ばしてみる。
「おぉ…最初からお湯だ。しかも丁度良い温度。」
恐る恐るながら水ではなくお湯が出る事を確認した僕は、異世界に来て初のお風呂を堪能するのでした。




