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不安と希望と桐島と冬季

PM19:30


「ちょっとゆきくん、あんまりのぞき込むと失礼だよ」

「あ、ごめんごめん。ついテンション上がって!ごめんねお姉さん」


少し高めの甘いかわいらしい声と、大人っぽいのに少し癖のある、

何度聞いても胸がきゅんとなる声。


冬季が被写体にしていたのは、スウィートリチアの栗原れいと桐島ゆきだった。


「ごめんね、びっくりさせたよね。大丈夫?」

「固まってるね、おーい、どしたの~?」


目の前の光景に桐島の顔を見たまま停止しつづける冬季。

頭の中は現状への理解が追いついていない。

ただ心配そうにこちらを見る2人に、迷惑をかけてはならないと

ファンの心得を唐突に思い出した冬季は、急いで桐島から目をそらした。


「あっ、の・・・本当にごめんなさい。

とってもきれいな景色とおふたりに吸い込まれてしまって・・・。

も、もちろんこの写真は消しますので!こんな写真流失してしまった時には

私はもう皆さんに顔向けできな・・・あ、」


本気の謝罪とともに本音が漏れ出た冬季は、急いで口をふさぐ。

ここで自分がファンだと2人にばれれば、

本当にやばいストーカー的ファンとして認識されるに違いない。


「あれ、俺たちのこと知ってんだ」


(終わった、ちゃんとばれた。私の推し活人生終了した・・・)


絶望的な状況に俯くしかなくなり、何を言っても墓穴しか掘らないと悟った冬季。


「ファンの子が偶然俺らを被写体にするとか、運命じゃん!ね?」

「そうだね、素敵な写真をありがとう、お姉さん」


想像とは違う返答に、ゆっくりと顔をあげる。

れいのにっこりと笑う可愛い表情と、桐島の無邪気に笑う大好きな表情。

これは夢かと疑うほど、幸せな光景だった。


「・・・そう言っていただけて嬉しいです。でも、本当に勝手に撮ってしまってごめんなさい。

これはちゃんと消して__」

「いや!消さなくていいよ!あんまり顔もわかんないし、なにより

こんないい写真消すとかもったいないから!絶対ダメ。」

「うんうん、それにさ、この写真を何かに使おうと思ってる子は

俺らに謝り倒さないし、消します!なんて言わないと思うよ。

お姉さんが大事に持っててくれるでしょ?」


桐島とれいの優しい言葉に、つい泣きそうになる。


テレビの前で、ライブで、握手会で。

彼らはどこで見ても優しさと強さに溢れた素敵な人達だった。

けれど、そのどれにも劣らないほどプライベートの彼らも優しさに溢れている。


「ありがとうございます・・・大事に大事に保管させてもらいます」


スマホをぎゅっと抱きしめる。

自分史上、一番大事な秘密と宝物ができたみたいだ。

冬季の口元が少しゆるむ。幸せがこぼれだすように、つい笑みがこぼれる。


「お姉さんみたいな子がファンでいてくれてほんとに幸せだねぇ」

「そうだねぇ。・・・お姉さん、名前は?聞いてもいい?」


桐島が冬季の顔を覗き込んで、にっこりと名前を聞く。


「え、っと、ふゆきと申します・・・」

「ふゆきちゃん!いいね、きれいな名前!

・・・俺らさ、ちょっと色々あってここで話し込んでたんだ。

普段こういうところにはいないんだけど、いつもいる場所にいるとどうにも整理がつかなくて」


桐島がぽつりと話始める。

れいは一瞬止めようとしたが、冬季の心配そうに桐島を見つめる表情に口をつぐむ。


「たぶん、根本の大事なことを見失ってるんだよね。

俺はどうしてアイドルになって、何を想ってこの仕事をしてるんだろって、

色々メンバーと話さなきゃいけないタイミングでさ。

考えすぎて考えるのがちょっと嫌になっちゃって、

れいがたまたま見つけたここに連れてきてもらったんだよね」


不安そうな話し方と、表情。

冬季はふと、桐島の手に目が行く。

ライブやイベントの時ファンの前で話したり、何かするときに

桐島は上着や服の裾をぎゅっと持つ癖がある。

その癖は、なんとなくだが緊張してるときにするのではと冬季は考えていた。

桐島は話をしながら、上着の裾をぎゅっと握っている。


「あ、あの!・・・詳しいことは分からないですが、

桐島くんがアイドルになった理由や仕事への気持ちって確かに大事だと思います。

けど、・・・だけど、私は・・・私たちファンは、何よりも

皆さんが心から愛せる世界で、ただただ幸せになってほしいんです。

言ってしまえば、アイドルだから桐島くんが好きなんじゃないです。

桐島くんだから好きなんです。・・・だから、根本を思い出すのも大事だけど、

桐島くんが幸せを感じるままにお仕事して、プライベートを過ごすのが一番だと、私は思います」


桐島は裾を握る手をゆるめ、冬季を見つめていた。

不安そうな表情は、いつしか柔らかく優しい表情に戻っている。

れいはそんな桐島を見て、安堵した表情をしていた。


「すみません、小生意気なことを・・・」

「全然。・・・めちゃくちゃ響いた。

ていうか、こんなに真正面から誰がに好きって言われたの初めてだから

信じられんくらいドキドキしてるんだけど」

「どっ?!え?!」

「ゆきくん意外とそういうところ初心だよね~。

ファンの子がいつも言ってくれてるじゃん、それと一緒なんじゃないの?」

「いやれいも聞いたっしょ?さすがにどきどきするくない?」

「まぁ、そうだね。俺の名前出なかったから大人しく聞いてたけど、

これ俺の名前出てたらぎり耐えられないかも」


桐島とれいの会話で、勢いに任せてとんでもない

告白まがいの発言をしていたことに気づいた冬季は、ばっと顔を隠す。


(どう考えてもやばい奴だよね?!いきなり幸せになってほしいとか好きとか、

普通に気持ち悪いよね?!・・・ほんと何やってんの私!)


「わ・・・」

「ん?」


ついにどうすればいいか分からなくなった冬季は、

スマホをぎゅっとポケットに突っ込み、もう一度顔を上げる。


「私事で大変申し訳ありませんがこちらで失礼いたします!!!

夢のような時間をありがとうございましたおやすみなさいませ!!」


早口で謝罪とお礼と挨拶を述べ、冬季はくるっと踵を返し、

強めに地面をけって職場へ向かって走り出す。


「え?!お、おやすみ?」

「ふゆきちゃーん、気を付けてねー」


驚くれいと楽しそうに見送る桐島。

冬季はここ数年で一番のスピードで走り去っていた。


____


「・・・ゆきくん、俺たち、アイドルやっててよかったね」

「・・・そうだな。なーんか、なに悩んでんのかよく分かんなくなったわ」

「いいことじゃん!明日はちゃんと話し合いできそうだね」

「うん。・・・また、会えたらいいな」

「そうだねぇ。今度はもっとちゃんと話をできると嬉しいね」

「・・・うん」




皆様こんばんは。向井です。

どうでもいいですが今日社会人2年目にして、初めて寝坊をしました。

この世の終わりかと思いましたが、寝坊ごときでこの世は終わりませんでしたね。


ちなみに桐島くんは朝が苦手です。機嫌が悪いというより、ぽやんぽやんで話になりません。


それではまた次話で。

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