吸い込まれるイルミネーションと。
PM19:00
今日中に済ませたい事務処理を1件終えた冬季は、
夜ご飯を買いに会社の外へ出ていた。
コンビニで買うか、お弁当屋さんで買うか、お店に入って食べるか・・・
そんなことを考えながらふらっと歩いていると、
不意に遠くの方にキラキラと光る空間が目に入った。
(あんなところでイルミネーションしてたっけ・・・?)
冬季の目に入ったのは、おそらくイルミネーション地帯だった。
12月も半ば、そこかしこでイルミネーションが輝いている時期だが、
住宅地へ続く少し長めの階段を上った先にそれは見えていた。
(・・・なんか、いい写真撮れそうじゃない?)
あれよあれよと発見したイルミネーションに引き寄せられる冬季。
冬季は推し活以外に、カメラ趣味がある。
はまったのはつい1年前程度だが、いいロケーションや
絵になりそうな風景を見つけるとついカメラを構える癖がある。
このカメラ趣味も推しの桐島に影響されたもので、
はじめは桐島とのひそかな共通点程度に始めたものの
今となっては1つの趣味として大沼にはまり続けている。
長めの階段を登り切った冬季は、つい見たことない風景に立ち止まっていた。
高台のような造りのその場所は、左手に進むとフェンスがずらりと並び
街の一部を見渡せるようになっている。
右手には等間隔に常緑樹が並び、樹木の葉の部分に巻き付けるように白い光が輝いている。
フェンスにも白いイルミネーションがつるされており、
フェンスと樹木の間に生まれた暗闇がより一層美しさを際立たせていた。
樹木のそばにはベンチが何カ所か設置されているようで、
白いイルミネーションでぼんやりと浮かび上がっている。
(こんなところあったんだ・・・。住宅地だしと思って気にしてなかったけど、
これはどの季節でも撮りがいあるロケーション!)
初めてみるいいロケーションにテンションが上がる冬季。
ふと真ん中あたりの樹木下に、2つの人影が揺れた。
少し遠いためぼんやりだが、1人はベンチに座っており、
もう1人は座っている人の方を向いて話をしている様子だ。
その2人の影は、白いイルミネーションの光を逆光にして
とても美しくそこに浮かび上がっていた。
(きれい・・・こんなに絵になるんだ。すごい、素敵・・・)
冬季は無意識に影の方へ近づき、手に持っていたスマホを構えていた。
近づいたことで、ぼんやりとした影が手前のイルミネーションの光によって
男性2人が話している風景に切り替わる。
顔は良く見えないが、立っているほうはポケットに手を突っ込み、
ベンチに座ってる方は立っている方の男性を指さし肩を揺らしていた。
カメラのピントを2人に合わせて、光を調節し、シャッターを切る。
冬季は高鳴る気持ちで撮影した写真を振り返る。
白いイルミネーションの光と暗闇に映し出される、美しい男性2人。
絵になりすぎて息をのむ冬季。自分の撮影技術以前に、風景とこの人達のポテンシャルに驚いていた。
「あの、すみません」
冬季ははっとして顔を上げた。
「あの・・・写真、撮られてました?」
声をかけてきたのは、被写体にしてしまった男性の1人のようだった。
冬季は一気にぐるぐると頭の中を回転させ、
自分が見知らぬ人を突然撮影するかなりやばい奴と認識した。
「あっあああの!本当にごめんなさい!わた、わたし写真が趣味で、
そのおふたりとここのロケーションがきれいすぎて無意識に!
あ、いや違うんです言い訳じゃなくてそのあの本当に・・・・」
パニックでどもりながら意味の分からない事情を説明する冬季。
話しかけてきた男性の方も見れず、写真を見つめてただ言い訳をするやばい女である。
どうしようと、とりあえず顔をあげて再度謝罪しようとした時だった。
「え!すごい!この写真俺たち?めちゃくちゃきれいじゃん!」
もう1人の男性と思わしき人が写真をのぞき込む。
それと同時に、冬季は別の驚きでばっと顔を上げた。
(・・・・・え?)
「ちょっとゆきくん、あんまりのぞき込むと失礼だよ」
「あ、ごめんごめん。ついテンション上がって!ごめんねお姉さん」
___冬季が勝手に被写体にしたのは、
スウィートリチアの栗原れいと、桐島ゆきの2人だった。
皆様こんにちは。向井です。
私にも推しがいますが、
妄想の中では妄想の中の自分と推しを出会わせ放題で楽しいですね。
推しはあくまで推しとして、ただ幸せな笑顔を見ていたいものです。