道永冬季の朝。
AM6:00、冬の早朝は太陽も起きるのが遅くて困る。
「寒い・・・ストーブ・・・」
冬の暖房は石油ストーブ一択。
ぼやけた視界でよたよたとストーブのスイッチを押す。
数秒後、「ジジジッ、ボッ」という音と共に暖かい風が流れ込む。
ぼやけた視界のままでは準備もできないので、
寝てる間に吹っ飛んだ眼鏡を探し当てて装着。
時刻はAM6:05。
この石油ストーブの匂いに包まれた、
こじんまりの1Kに住んでいるのは_道永冬季、社会人3年目。
中小のリフォーム会社に勤め、建築業という圧倒的男社会で日々負けじと生きている。
毎朝6時に起床、のんびりと1時間ほど身支度をして
7時前には朝食を食べ始めるのがルーティンだ。
「あ、まって、コーヒー切らしてる・・・まじか」
年末が近づく最近では、かなり仕事量も増え毎日残業続きのため
ろくに買い出しにもいけていない。
コーヒーといっても、ブラックは全く飲めないので
ミルクを温めてティースプーン1杯インスタントコーヒーを入れるだけ。
その1杯分もないとなっては仕方ない。
「ホットミルクで妥協するかなぁ」
大学の頃から一人暮らしの為、もうかれこれ7年は一人の朝を迎えている。
ここまでくると独り言が非常に増え、なんでも口に出しては静かな部屋に消えていく。
そんな寂しい冬季でも、毎朝の楽しみがある。
7時半になる頃、急いでテレビを付けて朝食と共に着席。
ぱっと明るくなったテレビには、よくある朝の情報番組。
『おはようございます!始まりました、モーニングチャンネル!
本日もスウィートリチアの桐島ゆきさんとお届けします』
『皆さんおはようございます!桐島ゆきです。
12月10日、今日の朝も冷え込みますね!
ですが、寒さに負けず今日も元気に頑張りましょう!』
「はぁぁ~・・・・桐島くん、今日もほんと尊いな・・・」
冬季の楽しみとは、
人気アイドルグループ〈スウィートリチア〉の桐島ゆきがレギュラー出演している
朝の情報番組を見ながら朝食を食べること。
スウィートリチアとは、デビュー4年目にしてファンクラブ数が
日本総合ランキング上位に食い込む今大注目のアイドルグループ。
メンバーは桐島ゆきを含めて4人。
1人目は小池真吾。最年長の32歳で、しっかり者のリーダー。
2人目は谷斗真。見た目こそ派手めチャラめだが格式が高いTHEアイドル。
3人目は栗原れい。最年少の23歳で、マイペース可愛いキャラ。
そして、冬季の最推し_桐島ゆき。明るくお調子者キャラで、人懐っこいことで人気のアイドル。
テレビで見ない日はないと言われる、超人気アイドル達である。
そんな人気アイドルの桐島ゆきをデビュー当時から推し続ける冬季。
ちょうど今年の春に朝の情報番組でレギュラー出演が決まり、
毎朝推しを拝める幸せに乱舞したのは言うまでもない。
「今日もステキなお召し物だこと・・・これ衣装かな?
ぴったりめのタートルネックだから細さが際立つな、さすがに尊い」
今日の桐島は白色色のぴったりめタートルネックに
さわやかなオレンジのふわふわカーディガン、パンツは細身の黒スキニーと
スタイルの良さを一層際立たせるファッションだ。
おそらく毎回同じ衣装さんが付いているとみている冬季は、
毎朝どこにいるかも分からない衣装さんに手を合わせている。
桐島の尊さに胸を打たれている間に、時刻は7時45分。
『時刻は7時45分!続いて今週のメイントピックのご紹介です!』
「あ、まって45分じゃん!やば!」
冬季が家を出るのは8時ぴったり。
毎朝同じことをしているが、急いで朝ごはんの食器を洗い、
トイレへ駆け込んでから通勤カバンを手に取る。
「携帯、社用携帯、資料・・・あ、今日現場か。上着いるよね」
冬の現場は極寒かつ乾燥で木破片が鋭利になる。
ナイロン生地の上着が必要不可欠だ。
「よーし、いってきます!」
誰もいない部屋に行ってきますの声をかけるのも、かれこれ7年目。
今日もいつもと何も変わらない、慌ただしい日々の1日が過ぎる。
・・・そう思っていた、冬季だった。
皆さま初めまして。向井と申します。
ずーっと頭の中でぐるぐるしたためていたお話を、
なんとなく書き始めてみました。
皆様も暇つぶし程度に、ゆっくり見ていただけますと幸いです。




