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ファーレンハイト・第二部  作者: 風森愛
後日譚 8月20日編
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ぼくが考えた最強の作戦

 本当は、この『パイ☆パニック』も『湯けむり女将のナントカ』も巨乳好きな飯倉にあげるつもりでいたが、梱包してしまい飯倉に渡せなかった。最初は相澤にあげようかと思ったが、相澤は清楚系一択だから女将のおっぱいに食指は動かなかったし、こう言っていた。


『俺、松永さんのお父さんとの思い出をAVで上書きされたくないです』


 ごもっともだなと俺は思い、飯倉に出処は伏せて話すと『見ます! 欲しいです!』と元気に言っていた。飯倉は本当にいい子だ。


 何と答えようかと考えていると、優衣香は少しだけ意地悪そうな目に変えて口を開いた。この目は見たことがある。何かを企んでいる時の目だ。イヤな予感がする。優衣香は俺の左手を取るが……。


「痛たたたたっ!! やめっ! 優衣ちゃ痛たたたっ!!」


 優衣香は俺の小指を手の甲に向けて押している。護身術か。いや、これは逮捕術でもある。


 ――チンパンジーめ。ロクでもないことを教えやがって。


 だが小指がダメならと、喉輪、目潰し、金的と段階を踏むはずだ。さすがに目潰しと金的はしないと思うが、どうしよう。


「優衣ちゃん! ダメなのっ!」


 小指から手を離した優衣香はまた頬を膨らました。可愛いが、絶対に『パイ☆パニック』は見せられない。だが――。


「おっぱい揉みたい?」

「うんっ!!」


 何をやっているんだ。俺はまた条件反射でうっかり元気よく答えてしまった。


「なら見せて」

「ダメなの」

「ならおっぱいダメー!」


 そう言って優衣香は両腕を組んでおっぱいを押さえてしまった。モミモミ出来ない。だが、『パイ☆パニック』は見せられない。


 俺は頬を膨らまして『ダメ』と言い、また片付け始めた。優衣香は諦めたようだ。

 その時、ダイニングテーブルに置いた俺のプライベート用のスマートフォンが震えた。優衣香はすぐに気づき、俺に視線を寄越す。少し不安そうな表情の優衣香に胸が痛む。仕事ではないと伝えると安心したのか笑顔になるが、俺の電話が鳴ると嫌な気持ちになるのだろう。


 スマートフォンを確認すると、兄からのメッセージだった。電話したい旨が書かれている。

 優衣香に伝え、リビングを出て玄関で兄に電話をした。


 呼出音は二度鳴ることなく、兄の声が耳に流れ込む。普段はメッセージのみで電話をすることは稀で、久しぶりに聞く電話越しの兄の声は焦っているようだった。


『バニーガールのAVが無いんだよ』


 ――お父さん、お兄ちゃんがロクでもないことを言ってるよ。


『ほら、お父さんの部屋で見つけたバニーガールのAV。団地妻はあるんだけど――』


 タイタニックに擬態した『パイ☆パニック』を持ちながら、弟の俺は唇を噛んでいた。何と答えるか考えているが、ロクでもない言葉は続いている。


『――バニーガールがあったとこに逆バニーのエロアニメがあってさ、敬志か中山が忍び込んですり替えたのかなって思ってさ』


 ――俺らはそんなロクでもないことはやらないよ。


『逆バニーのニプレスと前貼りって何?』

『えっと、ハート型だけど』

『ハートか……星じゃないんだ』

『敬志、それは関係あるの?』

『多分無い、かな』


 兄の家は玲緒奈さんが家中に様々なトラップを仕掛けていて、忍び込んだ奴は玲緒奈さんに捕獲されて酷い目に遭っている。中山は九割五分侵入に成功しているが、捕獲された時はメンタルをエグられているようだ。俺はだいたい失敗しているから、だいたいは物理攻撃されている。とても辛い。


『お兄ちゃん、バニーガール見ようとしたの?』

『うん。今、玲緒奈はいないし、拓志(ひろし)はバイトで剛志(つよし)麻里奈(まりな)も夏期講習でいないんだよ。家に一人なんて久しぶりでさー』

『そうなんだ』


 俺は兄の家に侵入していないし、中山もしていない。残るは玲緒奈さんだが……兄は怖くて聞けないのだろう。気持ちはわかる。


『とりあえず逆バニー見とくわ。団地妻って気分じゃないし』

『……そう』

『じゃあなー』


 よくわからない兄の電話を終え、俺はリビングに戻る。リビングに入ると、優衣香は俺を見て目を輝かせて口を開いた。


「こういうの敬ちゃ……好きなンフッ……」


 優衣香が手に掲げていたのは『湯けむり女将のナントカ』のDVDだった。男性客数人にご奉仕する若女将の湯けむり女将のナントカだ。ジャケ詐欺でもなかったし、おっぱいも敬ちゃん好みで何度か見た湯けむり女将のナントカだ。


 ――忘れてた。


 優衣香は涙目だ。肩を震わせて俺を見ている。優衣香の笑顔は大好きだが、笑いすぎて可愛いとも言えないギリギリのラインだ。そんな優衣香を見つめていると、ロクでもないことを言い出した。


「でも敬ちゃんって女教師モノが好きなんでしょ?」


 ――なんで知ってるのっ!


「いや、別に、それは……」

「玲緒奈さんが言ってたよ?」


 ――あのモンスターめ! 余計なことを!!


 俺が目をそらすと、優衣香は笑った。何を言われるのか――と思う俺の警戒をよそに、優衣香は笑顔のまま微かに視線を彷徨わせながら、俺に近づいて小さな声で囁いた。


『ねえ、女教師モノで、する?』


 ――しないわけがないだろう。


「いいの? 優衣ちゃん……」

「うん。今日、飲みに行って、それからホテル、行かない?」

「……いいね」


 酒に酔って、そのままか……。

 ヤバいな、楽しみすぎて敬ちゃんの敬ちゃんが反応してる。無理もない。女教師モノの優衣香だ。Tバックの優衣香だ。黒ストは穿いてくれるのだろうか。優衣香の黒ストを破きたいと言ったら、優衣香は許してくれるだろうか。


 ――ヤバいな、敬ちゃんの敬ちゃんがもっと元気になってきたぞ。


 俺は優衣香を引き寄せ、唇を重ねた。優衣香は気づいて、指先を下腹部へと動かしている。

 唇を重ねたまま、目が合う。

 優衣香はそっと唇を離して、甘えた声で囁いた。


「タイタニックの中身、見せてくれたら、ね」


 ――セコい! 優衣ちゃんセコい!


 だが俺は思った。

 すでに『湯けむり女将のナントカ』を見られてしまったのだ。『パイ☆パニック』を見られても問題無い。特殊性癖でもないし、南国のビーチではしゃぐ女の子のおっぱいがいっぱいの『パイ☆パニック』だ。問題無い。しかし、このまま圧力に屈したままなのは嫌だ。どうしようか。


「じゃあ、いいよ、一緒に見ようよ」

「……中身はタイタニックなの?」

「うん、タイタニック、だよ」

「じゃ、早く片付けちゃおうねー」


 ――敬ちゃんが考えた最強の作戦、初動は成功だ。


 優衣香と『パイ☆パニック』を見ながら優衣香のおっぱいをモミモミする。ぼくが考えた最強の作戦はおっぱいがいっぱい――敬ちゃんは頭いい。


 明日、三十八歳の誕生日を迎える俺は、幸せを噛みしめながら片付けを再開する。

 おっぱいモミモミしながらパイ☆パニック、そしてラブホで女教師モノだ。

 最高の誕生日前夜祭に向けて、俺の心は高鳴っていた。





 





次は須藤諒輔視点です。

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