不安に対する処方箋
家に帰った私は昨日以上に張り切っていました。
あんな話を聞いて、張り切らない方が無理があります。
傍に生えている青紫色のキキョウを眺めてから前を向き、私は気分を切り替えました。
さぁ早速始めましょうか。
目の中には青々とした空、そして深緑色の木々と、
風に揺られながら小さな花をギュッと集めた紫色の花が映っているのでしょう。
青々と茂る木々で覆われた丘の手前...そこには赤茶色の丸太で組み立てられた
柔らかい雰囲気のする家があり、その中から猫のうなり声のような声が時折聞こえてきます。
「う゛わぁぁ~」
二時間も経たないうちに家に帰ってきていた金髪の少女...つまり私はベッドに顔をうずめています。
......集中できませんでした。
“できなかった”と言っても、私としては集中していたつもりでした。
しかし、魔法というのは難しいもので私の潜在意識も大きく影響しているようです。
結局、私の特訓面では成果はありませんでした。
ただ、王女様についての情報は今日一日で大分得られました。
それにしても、この国の王女様が魔法に秀でていらっしゃるとは思ってもいませんでした。
第一、王女様は年に一度話題に出るか出ないかというくらいしか聞きませんので。
あ、そうだと思って、私は重たい頭を上げました。
「マートルさんは他に何か知ってますか?彼女のこと。」
「ほとんどはお昼に話したんじゃがな。実はその王女、
ここから10kmほど離れた都に住んでいるらしいんじゃ。」
あきれました。
「いやいや、それくらい私でも知ってますよ。」
「よく聞くんじゃ。あれだけ活力が強いとなるともしかしたら
わしらの存在に気づいているやもしれない。それも高確率でな。
一定以上の活力が扱えると、周りの活力の状況も手に取るようにわかるからのぉ。
そうするとお前さんが成長したときに姿を現して来るやもしれんぞ。」
「...うん?それが何か問題でもあるんですか?」
「色々行動しづらくなるじゃろ。」
「まあ...確かに、私も色々なところに行ってみたいので困りはしますね...。」
――実はわしの調査に支障が出るからなのじゃがな...。
リウビアには隠しておいても問題ないじゃろ。
なんせわしの言い分にも納得してくれよったしのぉ。
正直で助かったわい。
一方でこんなことを思いほくそ笑んでいる老木に私は一切気づいていませんでした。
その後のマートルさんの話を簡単にまとめると
「シールドを体得したら次に特別な魔法を教えてやろう。
それが王女に対する備えとなるじゃろう。」
ということらしいです。
シールドを体得してから......ですか。
マートルさんはシールドを体得するのには半年必要だとは言ってましたが、
そこまでかかるんでしょうか。
事実、シールドを初めて作りだすのに普通の1/5しかかからなかったのですから。
...いや、普通の人ではありませんね。マートルさんの“想像”の1/5です。
だって私にはマートルさんがいるのですから。
「う゛わぁぁ~」
京紫色の実を結んだ植物の横の草むらに、私は仰向けにドサッと倒れこみました。
すこし離れたところでショウリョウバッタがチキチキと羽ばたいていく音が聞こえます。
足の先から少し離れたところには
丸い型できれいに切り取った寒天のようなものが浮かんでいます。
それの厚さは均一で分厚く、私の理想の...そう、シールドです。
「マートルさん、ありがとうございます。」
この2カ月間みっちり教えてくれたことに礼を述べました。
「いやはや、リウビアよ。
お前さんがまさか2カ月でシールドを体得するとは......圧巻じゃ。
それではお前さんには、新たに教える魔法の簡単な説明をしてやろう。」
マートルさんの話を聞いた私は疲れを忘れ飛び起きました。
驚いた別のバッタが紅い空へ飛び立っていきます。
私は草の中に無造作に置かれたマートルさんをじっと見つめていました。
......好奇心に満ちた瞳ををきらきら輝かせながら。