計画始動
部屋に差し込む日光で私は目を覚ましました。
「う~~ん。」
私はベッドから起き上がって、思いっきり背伸びをします。
お母さんが、下で食器を並べている音が聞こえてきます。
机の上を見て、マートルさんが確かにいることを見て
夢でなかったことにほっと一息ついてから、着替えるためにベッドから下りました。
「リウビアよ、おはよう。」
「うわっ!びっくりした。起きているなら言ってくださいよ。
動かない分、ただでさえ分かりにくいので。」
キッとマートルさんを睨んで言いました。
...本当に心臓に悪いですからね。
空色のブラウスに白のスカートを合わせ、一階へ下りました。
こんがりと焼いたパンの匂いが鼻に広がります。
「お母さん、おはよう!」
「リウビア、おはよう。パンできてるわよ。」
「それでは、いただきます。」
半熟の目玉焼きを乗せた、焼きたてのパンは至高です。
...異論は認めますが。
ともかく、贅沢な朝食をいただいた私は、カバンの中にマートルさんを忍ばせて家を出ました。
「いってきま~す。」
無限に広がる蒼い空へ目線を上げ
学校に向かって、勢いよく走りだしました...が
「リウビア~お弁当忘れてるよ~。」
おっとっと。
駆けだした足を止めると、カバンの中で「イテっ」という声が聞こえたような気がしましたが
今は特に気にする必要もありません。
お母さんからお弁当を受け取って、次こそ学校に向かって駆けだしました。
学校での私はいつもと何ら変わりありません。
なぜなら、活力を多く使えるようになっても、賢くなるわけではありませんし、
魔法の授業で、変に活力を使わないよう、マートルさんに釘を刺されていましたので。
つまり、私“たち”の計画は放課後から始まるわけです。
〇
お弁当を食べてやる気に満ち溢れている私は、
食後の授業を終えると、ニアとお母さんに断って
色とりどりのガーベラが咲く草原へと行きました。
たくさんの宝石に囲まれる中、
私は人が周りにいないことを確認してから、カバンからマートルさんを取り出しました。
「それで、何を教えてくれるんですか?」
右手にマートルさんを握った私は、はやる気持ちを抑えてそう聞きました。
「それでは、シールドの張り方を教えてやるとするかのぉ。」
シールドですか...とっても面白そうですね!
「それでどうやるんですか?」
マートルさんは、少し溜めた後もったいぶったように話しました。
「お腹に力を入れ、分厚い板のようなものを意識しながら、右手で円を描くんじゃ。」
「こうですか?」
よくわからないまま、私は取り敢えずお腹に力をギュっと入れて、
枝を持った右手で円を描いてみました。
......まるで何も起きません。
サッと吹いた風が、まるで私をあざ笑っているように私の髪を乱しました。
「...失敗じゃな。」
――1時間、いや2時間ほど経った頃でしょうか。
ついさきほどまであったやる気は消え失せましたが、
心を落ち着かせるために、私は一度深呼吸をし、木版を彫刻刀で彫るように
じっくりと空気に円の形を刻み付けました。
ちょうど一周したころに、私の右腕が何かに引き寄せられるように
ぐぐぐっと動いたかと思えば、私の目の前にギザギザの、歪なレンズのようなものが現れました。
近くにあるガーベラが小さく見えるので
どうやら真ん中がへこんでいるようです。
「やっっっった~。」
私は少し赤みを帯びた空にこぶしを突き上げました。
「成功じゃな。」
その声を聴きながら、しだいに空気に溶けゆく物体を静かに見守りました...。
こうして、マートルさんによる私の強化計画初日は、一日目としては上出来の結果で終わりました。