一輪の薔薇
私たち二人はそうして講堂へと行きました。やはりこの国で最も権威のある学校ということもあってか、所々知らない言葉が聞こえてきます。
入り口には座席表があり、それを見たニアと私はそれぞれ指定された席に向かうため、そこで別れました。
〇
学校長の式辞が終わり、大まかな説明がありました。
その後レクリエーションがあり、今後の予定や専攻する分野ごとの詳細についての説明がありました。
クラスもその分野ごとに別れており、計4クラス。
かのクルーゲさんと私は同じマクロ魔法学部、ニアはその対となるミクロ魔法学部でそれぞれ学んでゆくことになるのです。
距離感がおかしい人とこれから顔を会わせなくてはならないことに少し気が滅入るものの、少なくとも彼以外に関わりにくそうな人がいないことに安堵していました。
何と言っても他のクラス……特にニアのところは分野のためか、何人かの男を連れていて話しかけにくそうな金髪の女子生徒であったり、おかしな呪文をぶつぶつ唱えている長髪の男子生徒であったりと、すでに収拾がついていません。
「先帰っといて」
困った様子でニアは言いました。
私たちのところは早々に先生からの紹介も終わったため、ひとまず部屋へ戻ることにしました。
明日から忙しい学校生活が始まるのです。
今のうちに出来ることをしておかないと後で後悔するのは目に見えています。
取りあえず私は今日配られた基礎的な魔法の一覧とマートルさんを手に中庭へと向かいました。
○
「リウビアよ、どうじゃったか?」
「ええっと、強いて言うならクルーゲっていう隣国の王家の人が私に凄い挑発的でしたね」
「ほう、そうか。まあ、分かる奴には分かるのじゃろう。何せわしがついて指導してやってるのじゃからな」
「どこからやってくるんですかその自信は……」
そうこう言っているうちに整った庭を抜けて、ある建物へとやってきました。
中庭には大きな鍛練場があり、そこでは自由に魔法を使うことが許可されているのです。
中に入ってしばらくしました。
私が一つ一つ魔法を確認していると後ろから視線を感じました。
振り向くと、そこには先程何人も連れていた金髪の生徒がいました。
面倒に違いない、そう思って一度部屋へ戻ろうとしました。
「もう少し見ていたかったな」
すると、彼女は詩を吟ずるように優しく、私を呼び止めました。
気まずい……これで帰るなんて無理じゃないですか……
仕方なく私はまた戻ってすることにしました。
「……どうしたんですか。私の魔法なんて見ていても面白くないんじゃないですか」
なんとなく気まずい空気を壊すように言いました。
「いいえ、私には貴方の魔法が色付いてみえるもの」
彼女の言葉に私は手を止めました。
「どういうことですか?私の出す炎のこと……ではないでしょう?」
「これは比喩じゃないの。誰にも分からない……というか分かるはずもないけど」
「面白いことを言うのですね」
私は彼女を正面から見ました。
彼女からは特異な魔法の気配は感じられません。
「それより、あなたの魔法も見せてくれませんか?私ばかり見せるのも不公平な気がしますし」
彼女は初めて笑みを浮かべ、そして了承しました。
「拙い物だけどごめんなさいね」
彼女はそう言って両手を構えました。
多くの魔法使いは力を入れる際に杖などを持つことが多いのですが、彼女はなにも持たず指揮者のような格好で魔法を繰り出していました。
優雅な動作に見とれていると、扉が少し乱暴に開けられ、ニアが入ってきました。
「リウビアこんなところにいたのか~遅いから心配で来ちゃった」
そうして私の近くにいる金髪の子に目を向けました。
「あら、あなたは確か私と同じクラスの……」
「エレーナ·ソレアードです。あなたはニア·マリンさんですよね。リウビアさんとは仲が良いのかしら?」
「よく知っているわね…ええ、幼なじみと言っても良いかしら」
「というか、リウビアは何してたの?」
もう一度私に視線を戻しました。
「私は明日の予習をしてたの。そうしたら彼女が……」
「ふ~ん、ソレアード、リウビアすごいでしょ。リウビアってばものすごい上手いもんだから、みんなの先生もやってたくらいなのよ」
「それはすごいですね。だからでしょうね、色が見えたのは」
「ええ、それはもうリウビアは……ってうわっ!」
気付くとニアのすぐ後ろには先程いた連れの人がいました。
「ソレアードさま、もうそろそろ……」
「分かってるわ。それではまた明日お会いできることを楽しみにしています」
そう言い残し、彼女は足早に去っていきました。
多忙




