幻想
目を丸くしている老人に向かって私は続けます。
「鼎を見つける方法、何かあるんですか?」
「おっと言い忘れていましたか。
さっきも申した通り鼎には特別な力が備わっておりまして
同時に多量の活力も放出しているのです。
お嬢さん......あなた程の活力の使い手ならば十分わかるでしょう。
もし不自然に天気が変わったとしたら、その周辺に鼎があるかもしれません。
おお、渡したいものがありました」
そう言うと老人は立ち上がり奥の部屋へ行き、何かを大切そうに持って戻ってきます。
囲炉裏の灯りに照らされた顔には深くしわが刻まれていました。
「これをぜひ」
そう言って彼は私に勾玉の形をしたお守りを手渡しました。
それには山吹色に輝いており中央にはラピスラズリを使ったスミレがあしらわれていました。
「これは......お守りですか?」
「ええ、お守りです。
ですがただのお守りではありませんよ。
実は、私たちはすでに鼎を探させるために何人か送り出しているのです。
彼らは皆このお守りを身に着けていて、
このお守りを見せればあなたを援助してくれるでしょう」
そう言うと老人は一息ついて窓の外へ目をやりました。
つられて私も目をやると、月は山の稜線に下半分を飲み込まれてしまっています。
「......あ、そろそろ宿に戻らないと」
私が立ち上がろうとすると老人は出ようとする私を制止して、
宿の近くまで送ると言い出しました。
「お気遣いなさらず。お気持ちだけいただいておきます」
「遠慮はいりません。一瞬ですし」
その言葉が終わるやいなや老人、いやコンテさんは手を素早く振り、
気付けば私は男の子と会ったところに佇んでいました。
手にはお守りを握りしめながら。
「不思議な人じゃったな」
マートルさんがボソッと呟きます。
「ええ、そうでしたね」
そう言って私は斜面を下り始めます。
眠れてもあと数時間かぁ......。
疲れた頭でそんなのんきなことを考えながら。
〇
下の階から聞こえる食器のぶつかる音で私は目を覚ましました。
小さなあくびを一つして、私はベッドから起き上がります。
ゆっくりと着替えをしているとドアをノックする音が聞こえました。
「お~い、リウビア起きてる~?」
「うん起きてるよ~」
「もうそろそろ朝食食べないとまずいからすぐ下りてきてね。先行っとくから」
「わかった、すぐ行く」
私は急いで身支度を済まして階段を駆け下りるのでした。




