謎の子の真相、そして新たな日
私がレンズ越しに見たものは山を下るとすぐに現れました。
月明かりに照らされた全体像が見えてきます。
木造の家屋が軒を連ねています。
......どうやらここ小さな村のようです。
その姿はどこか懐かしさを感じさせるようなものがあります。
ふと私は男の子の姿が見えないことに気が付きました。
「あれ......どこ行ったのかしら」
私は村の中へ足を入れました。
中へ踏み込むと私は小さな悲鳴を上げてしまいました。
男の子は他よりも一回り大きな家の前で私を待っていました。
しかし月明かりに照らされた男の子の顔は、
一瞬ですがまるで鉄の仮面をかぶっているかのように見えたのです。
まあ実際のところ、単に私が来るのが遅く退屈していたようでしたけど。
「......ここが君の家?」
内心びくびくしながら尋ねました。
「うん......そうだよ」
「ここが僕の家」
この子......話し方もやけにしっかりしすぎています。
やはり何かあるに違いありません。
「一個聞いてもいい?」
「私をどうしてここに連れてきたの?」
かがみこんでそう尋ねます。
「私が呼ばせたんですよ」
声の方へ向くと初老の男性が扉を開けて立っていました。
「よくやってくれた、ありがとうビエント」
男の子はその老人のもとへ駆け寄って抱きつきました。
「そこのお嬢さん、話があるから入ってきてくれませんか」
「私のことですか?」
私は自分のことを指さします。
「あなたしかいませんよ」
その老人はふふっと笑い中へ入っていきました
バカなことを言った私は自らを責め、さっきの言葉を恥じるのでした。
〇
家の中には囲炉裏があり、私はおじいさんの向かいに座りました。
壁にはクマと思しき毛皮がかけられており、
パチパチと音を立てて燃える火に照らされ黄金に輝いていました。
「突然のことで驚かれたと思います。強引な手を使ったことをお詫びいたします」
そう言ってその男の人は深く頭を下げました。
「いえいえ、そんな謝る必要はないですよ。まだ何かあったわけでもありませんし」
私が必死に制止すると、
老人はゆっくりと頭を上げて神妙な面持ちで話し始めました。
「お優しいですね、それでは本題に入らせていただきます。
まず私、村長のコンテネドと申します。長いのでコンテと呼んでください。
とどのつまり、私があなたをここへ招き入れたのは他でもない頼みごとがあるからです。
今はお分かりにならないと思いますが、実はこの村ひどい天候不良に見舞われているのです。
あなたに天候を操作してほしいと申しているわけではありません。
私たちはあなたにあるものを探していただきたいのです。
話が長くなるので簡潔に申しますと、この村には代々受け継がれてきた鼎があったのです。
ええ、時々祭りとかで見かける器のことです。
その鼎なんですが、天候を操作する力があるのです。
この辺りをご覧になったらわかりますように、
この村は非常に大きなカルデラの中に位置しています。
そのためか雲が周りの山に遮られてほとんど雨が降らないのです。
しかし20年ほど前までは祈りをささげることによって意図的に雨を降らせていました。
そう、20年前までは。
ある時この村に住んでいた男二人組が鼎を盗んでいったのです。
それから20年、私たちは力を合わせて何とか乗り切ってきましたがもう限界です。
お嬢さんにはぜひとも鼎を取り返してきてほしいのです。
どうかよろしくお願いします」
話し終えると老人はまた深々と頭を下げました。
「わかりました」
「おぉ、それではやってくださると」
「えぇっとその前に一つお伺いしてもよろしいですか?」
「何ですか?」
「失礼かもしれないんですけど、村を移せばいいのではないでしょうか」
――まずい、失礼すぎました――
そう思ってこわごわ顔を伺います。
老人は以外にも笑みを含んで返してきました。
「まあ、そういう意見をお持ちになるのもごもっともでしょう。
ですが私たちにはここを離れられない理由があるのです」
「それはどういう?」
「この村に住む人はみな他の人たちとは違うのです。
一言で言うならば特別な力を持っているのです。
私たちの先祖はたまたまこの自然と会話できるほど活力を持ち合わせており
その得体のしれない気持悪さから迫害されてこの地にやってきました。
それは今も受け継がれています。
あなたもビエントを変だと思われたでしょう?
ですがあの子はこの村ではいたって普通の男の子です。
この20年間私たちは活力を最大限使ってきましたが
この村も年寄りが増え、それも不可能になりつつあります。
そこでわた...」
「わかりました」
私は話しているのを遮るように言いました。
老人の目がこれまでにないほど見開かれました。
「その鼎を探すのを引き受けましょう」




