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導かれるままに

 ......

「え、ちょっと待って」

私はとっさにその子供のところへ駆け寄っていました。

「どうしたのこんなところで。もしかして迷子?」

そこに現れたのは私より10歳程年下の男の子だったのです。

こんな時間にいるはずがない、何かの事件か?

とも思いましたが、

その子の体には土がついているだけで目立った傷はないので違う......のでしょうか。

いや、私の直感は間違っていないのかもしれません。

なぜならその子の目からは、本来子供にあるはずの輝きが感じられないのですから。


 ......。

じっと目を見ていると、その子は突然私の腕をぐいぐいと引っ張り始めました。

突然の事に驚いて少し後ずさりしてしまいましたが、

私に対して敵意があるわけではなさそうです。

......たぶん。

ですが、その子が必死に私に何かを訴えかけようとしていることだけは分かります。

「行きたいところ...あるの?」

そう尋ねるとその子はこくりとうなずきました。

私はおもむろに立ち上がります

「......マートルさん、行ってもいいですか?」

自分一人の決定というのは自信がないのでマートルさんに同意を求めてしまいます。

「うむ......まあ良いじゃろう。行くからにはしっかり助けてやるんじゃよ」

「あたりまえですよ」

私は男の子に向き合います。

「それじゃあ連れてってくれる?」

彼は私とマートルさんのやり取りを不思議そうに見ていましたが、深くうなずきました。

そういうわけで私たちはその男の子に着いていくことになりました。

「えぇっと、お名前はなんていうの?」

「............」

ここまで話さないなんて......。

何か話したくない理由でもあるのでしょうか?

まあ、無理に聞き出す必要もありませんし気長に待つとしましょう。

話さなくなるといよいよ私たち二人が葉を踏みしめる音だけが山にこだましています。


                     〇


歩くこと30分ほどでしょうか。

気付けば私たちは山の稜線部分に登ってきていました。

後ろを向くと、暗闇の奥に私たちが今晩泊まっている宿も見えます。

「ふぅ」

登ってきた高さを実感した途端、足が重くなってきました。

「あとどれぐら......」

私の言葉を遮るように男の子は指さします。

「......何かあるんですか?」

目を凝らすも何か目に付くようなものはありません。

夜の闇のせいでよく見えませんが奥に屹立する山の手前には、

目一杯に広がる樹海があります。

私が住んでいたところからは見ることのできない壮観に、

私は疲れを忘れてしばらくの間浸っていました。

「う~ん」

「やっぱり何もないんじゃ......」

景色を堪能し私が文句を垂れていた時です。

「見てて」

「え、今喋った......?」

男の子はそう言うと指をくるくると動かして、

私とその子の前に大きなレンズのようなものを作り出しました。

レンズのようなもの、と言ったのはそれがレンズではなかったからです。

そこから覗くと縮尺の変わらないさっきの風景が見えます。

それではこれは一体何なのでしょうか。

二つを見比べていると私はあることに気が付きました。

樹海の手前の方に何かあります。

......何軒もの家のように見えます。

「あれは......家ですか?」

彼は一瞬だけ目を合わせてくれたもののすぐに逸らしてしまいました。

「あそこに本当に家があるんですか?」

私がそう言うと、男の子はついてきてと言わんばかりに家が見えたところへ歩き始めました。

私は空を仰ぎます。

満月は少し西に傾いています。

まだまだ長い夜は続きそうです。

ふぅと一息ついて私はまた後を追い始めました。

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