都に向けて......
幸いなことに、服にはほとんど土が付きませんでした。
それじゃあ行きますか。
ニアの家へ。
道中、お母さんから体調に気を付けてね、だの時々連絡してしてね、だの色々心配事を吐露され、ようやく話すことも尽きた頃にはニアの家に着いていました。
......やれやれ、すこし疲れました。
やっとこさ着いたニアの家はやはりいつ見ても威圧的です。
青空に映える白を基調としたその家は、確かに美しいんですが......周りとかけ離れているので
周りを圧倒する威圧感があるんですよ。
「どうもいつも娘がお世話になっております。」
「いえいえこちらこそお世話になっております。………………。」
二人のお父さんが話しているのをよそに私もニアに話しかけます。
「ニア~、おはよう。」
「おはよ~。とうとう出発の日だよ。リウビアは緊張してる?」
「思ったより緊張してないんだよね~。なんか今は逆に冷静なんだ。」
もしかしたらお母さんの不安を払拭していたおかげで、
私の緊張する暇がなかったからかもしれません。
お母さん...意外と策士なのでは......と思いましたが、
ニアのお母さんと話す姿を見る限り違いそうですね。
「うらやましいなぁ~。私今心臓バクバクだよ。何か解決法ない?」
そんなこと言われましても......。とっさに思い付くのはありません......。
いや、そういえば昔お父さんが教えてくれた奴がありました。
「一つ知ってるのはあるよ。ニアにも効くかはわからないけど。」
「物は試しでしょ。何でもいいから教えて。」
「それじゃあ、教えるよ。」
「まず右手を前に伸ばしてみて。」
私を手本としてニアも右手を前に突き出します。
「それじゃあ次に左手で、右手首を後ろからギュっと掴んでみて。」
「......これで合ってる?」
「うんうん。合ってるよ。」
「......それで最後に、目をつぶって思いっきり深呼吸していれば緊張が和らぐらしいよ。」
言われた通りにニアは数回深呼吸をします。
「どう、少しは役に立った?」
少したって、瞑っていたニアの目がゆっくりと開きます。
そしてゆっくりと顔をほころばせました。
「うん!なんかさっきよりもだいぶ緊張が和らいだみたい。
これからも緊張したときにやってみようかな。
ありがとうね、リウビア。
「いやいや、私も役に立ててよかったよ。」
太陽の光が当たっているからか輝いているニアの顔を見て私はホッとするのでした。
〇
しばらく経ち、ニアの家の方も用意が終わったようです。
がたいのいいニアのお父さんに付いていき大通りの近くまで行くと、
何とも大きな馬車が姿を現しました。
「うわぁ...。すごいね、こんなの持ってるなんて。」
「そうかなぁ。この馬車本当に使う機会が少ないんだよね。舗装されたところしか走れないし。」
ポンポンと叩きながらそう言っています。
「よろしくね。」
これから私たちを運んでくれる馬に対して、たてがみを撫でながら語り掛けます。
ブルルッ
任せてくれ、そう言っているようでした。
「さ、リウビア。先乗っていいよ。」
「ありがとう。」
ニアに譲ってもらい、私は先に乗り込みます。
幌で中は少し薄暗いせいか、外がより一層鮮やかに見えます。
ヒヒーン
御者の人が馬を走らせ始めます。
「お母さん、お父さん行ってきます!」
ちょうどその時、一陣の風が吹きました。
きゃあと小さい悲鳴が口から漏れ出てしまいます。
一方で、草花は私たちを見送るように葉を揺らしています。
――立派になってまた帰ってきますから。
私は彼らに向かってそう誓うのでした。




