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新鮮さ

 2日後、とうとう出発の日がやってきてしまいました。


 ふと青空を見上げるといくつかの雲がゆったりと流れています。

......ふぅ。

こうして自分とは色々な意味で遠く離れている物を見ていると心が落ち着きます。

「リウビア、もう外に出てたのか。」

「うん、そうだよ!準備自体はもう終わって、今はお父さんとお母さんを待つだけだからね。」

鏡を見て服装を整えているお父さんが私に喋りかけました。

「わざわざお父さんたちが付いてこなくてもいいんだよ。

私一人でもニアのお父さんにはお礼を言っておくことはできるから。」

「さすがにそれは申し訳ないし相手に失礼だよ。これまでも交流はかなりあったわけだし、そういうのも含めてお礼はしておかないとこちらの面目も立たないさ。」

ふ~ん、と思いながらお父さんと話していると準備を終えたお母さんがやってきました。

「さあ、お二人さん。話しているのも良いですがそろそろ行きませんか。」


 三人で歩きながら私はある種の新鮮さを感じていました。

学校に通い始めてからは一人でこの道を歩くことが多くなっていたので

三人で話しながら歩くということ自体珍しいからです。

ですが、それ以上にお父さんの手を握って歩くことにぎこちなさがあります。

 ――あれ、こんなにお父さんの手って小さくてごつごつしていたっけ...。

私の手が大きくなったことは承知ですが、私が確実にお父さんに近づいている......

それはすなわち私が独り立ちする時期も迫ってきている、ということで、私はそれに対して焦燥感や不安、そして正反対の感情であるはずの高揚感を感じていました。

 「お父さんは旅に出るときに両親になんて言ったの?」

ふと唐突に気になってお父さんに尋ねます。

「それは難しい質問だなぁ...。だってあの時は突然両親に話したものだから、打ち明けた後に二人とかなり長い間話し合いになって、正直なんて言ったかまでは覚えてないね。あぁ、そういえばエステベストもああ見えて家の跡取りだったから彼は親と相当話し合いになっていただろうね。」

質問の本筋とはズレた回答が返ってきます。

「ただ、僕は自分の中にあったわだかまりをそのまま言葉にして正直な気持ちを話したから両親とは何の障壁も作ることがなくてかなりすっきりしたことは覚えているよ。」

付け足してくれたおかげで私の求めていた回答にそこそこ近づきました。


 ――確かにエステベストさんと話すときはいつもと違い若干本音をむき出しにしていたような気がします。やはりああいうのが「気の置けない親友」というものなのでしょうか......。

ニアと私もそんな親友でありたいですね。

これから寝食を共にするであろう友人のことを考えながら歩いていると

不注意のせいか少し大きめの石につまづいてしまいました。

「うわっ」

とっさにお父さんが握っていた左手をぎゅっと持ち上げたことで私の顔が地面にぶつからずに済みました。

「リウビア大丈夫?」

お父さんとお母さんが聞きましたが、間一髪というところでケガからは免れました。

「大丈夫だよ。」

「よいしょっと」

お父さんが倒れかかっている私を起こし上げてくれます。

お父さんが手を引き上げようとしたその瞬間、私の目に美しい画が映りました。

......それは180度回転させただけのいつも見る光景です。

単に見る向きを変えただけのその光景ですが、何百回と見慣れた光景と違うせいか全く新しい物を見ているかのように感じさせてきます。

......そういえばマツモムシという虫は背泳ぎのような格好で水面を泳ぎ回っていますが、

飛ぶときはうつぶせになって飛んでいるのを見たことがあります。

彼らはいつも上下逆の世界をみているのに、飛ぶときは私たちと同じ世界を見ている。

それを見ていったいどのようなことを思うのでしょうか。

 そんな話を思い出しつつ、人間に対してもそういう視点の変更というのを使えないかな。

ふと妄想してしまう私でした。

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