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長い往路への身支度

 時間というのはあっという間なもので、気づけば村の学校へ行く最後の日も過ぎてしまいました。

今、私は王立学校へ行く準備をしています。

都までは2日後に、ニアの家の馬車で一緒に送ってくださるそうです。

そのために色々物を整理していると、引き出しからあるものを見つけました。

「あら...。これは......。」

......そう12年前に見つけた木の枝です。

完全に存在を忘れていました......。

それはそうとして、12年経ってもその美しさは健在です。

汚れ一つない純白の枝は、マートルさんをいつも見ている私でも惚れ惚れします。

今となってはこじんまりとしたこの枝はいったいどうしましょうか。

いったん、マートルさんに聞いておきますか。

「マートルさん、一つ聞いてもいいですか。」

ベッドの上に置いてある彼にそう聞くのでした。

「...そうじゃな......。その枝も一緒に持っていくんじゃ。

何せ、お前さんの魔法の上達度をあげてくれるからのぉ。」

......えぇー!そんな効果がこの枝に......。

まじまじと手に持つ枝を見つめると、確かに得体のしれない力を感じます。

「そんなこと一度たりとも教えてくれなかったじゃないですか。」

「そりゃそうじゃろ。聞かれなければ教えることはないからのぉ。」

「うっ...。確かにそうですけど......。」

 マートルさんと話しながら私は必要なものをいくつか目に見えない空間に投げ入れていきます。

......そう、二年間の間に、私は物を別の空間に物を出し入れする魔法も習得しているのです。

この魔法はもしかしたら習得した10個の中で一番使い勝手の良い物かもしれません。

そうこうしているうちに、一日で部屋にあるほぼすべてのものを取捨選択し終えました。

よく使うものはカバンに入れたので、もういつでも出発できます。


 日も傾いたので、階下へ行くと私の大好きな匂いが鼻をくすぐりました。

キッチンの方を覗くと、私の想像通りお父さんが料理を作っていました。

「あ、お父さん!今日の夕ご飯はまさかシチュー?」

「そのまさかだよ。」

「やったーお父さんありがとう。」

「お父さんもシチュー作るだけでこんなに感謝されるなんて作り甲斐があるよ。」

湯気の奥に見えるお父さんの顔も笑っています。

ちらっと見ましたが、ジャガイモはありませんでした。

良かった。


 そうして最高の夕食を終え、私は部屋に戻りました。

ドアを開けると目の前には、これまで見たことのないほどきれいな部屋がありました。

――あぁ、この部屋とももうお別れか...。

私は一通り部屋を見渡して、残っている机やタンス、そしてベッドに触れました。

感謝の気持ちを込めてやさしく。

お父さんが手作りした家具たちはほのかにしっとりとしています。

本当に遠くへ行くんだな...と改めて気づかされました。

しんみりとした気持ちになりながら私は布団に入り、来たる2日後に備えるのでした。

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