手紙の上の驚き
手紙にはこう書かれていました。
〇
――君はお父さんの過去についてほとんど知らないそうだね。
今回このように手紙を残したのは、他でもないその過去について言及するためだ。
君のお父さんと俺は昔から仲が良かった。
たしか俺たちがちょうど20の時だった。一緒に冒険に出ようと二人で決めて
勢いそのままに広い世界の中へ飛び込んだんだ。
それからかれこれ9年ほど様々な風景、人々の暮らし、そして闇を見てきた。
ある町を出ようとしたそんな時だった。
彼が冒険を辞めると言い出したのは。
30歳近くになっていた彼は、気づけば以前ほど勇猛果敢ではなくなり、
良い暮らしを維持したいという保守的な一面を持ち合わせていたんだ。
対照的に俺は依然として冒険を続けたかった。
何より俺はまだ見ぬ景色がこの世界にあるなんてことに我慢できなかったから。
そうして一週間ほど俺たちは将来について久しぶりに話し合った。
結果的に、彼は冒険をしてきた中で最も居心地の良いと感じた村に定住することになり、、
一方で俺は一人で冒険を続けた。
だが、ここ10年ほどはこれ以上続けるのが体力的にも困難になった俺の豊富な経験を
買ってくれた国王の下、補佐官として手伝いをしているというわけだ――
〇
お父さんの昔を知ることができたことに対する興奮と驚きに私はしばらくの間浸っていました。
......が、わざわざ隠すまでのものなのでしょうか?
疑問を抱きながら何周も何周も手紙を読んでいると、
封筒の中に小さな紙切れがあることに気づいたのです。
字はさっきよりも汚いですが文字の形から推測するにエステベストさんのものでしょう。
さっそく読んでみるとしますか。
〇
――書き忘れていたが、今君のお父さんに聞けばもっと詳しく話してくれるだろう。
実は、彼は君にどういうアプローチでこれらについて話せばいいのか悩んで
この頃俺に相談していたんだ。
だから彼には内緒でこうやって君に手紙を書いたんだ。
彼を助けるためにね。
そういうわけだからぜひとも君の口から彼に聞いてやってほしい。
なぜなら君もわからないことがまだいっぱいあるだろうし
......それに、彼も喜ぶに違いないから。――
〇
短い内容ですがエステベストさんの優しさがひしひしと伝わってきます。
お父さんのことを気にかけて手紙まで書いてしまうんですもの。
内容を端的にまとめると、私の疑問はお父さんに直接聞いて納得しなさい、ということですね。
手紙を引き出しに丁寧にしまい、ゆったりと本を読んでいると
きりの良いところで昼食の時間になりました。
お母さんの手伝いをしに下へ降りると、すでにお父さんは椅子に座っていました。
私の中でのお父さんの像は手紙を読む以前と比べて大きく変わりましたが、
現実のお父さんはそんなことは知る由もなく、いつもと何ら変わりありません。
食器を並べ、見かけ上はいつもと同じように昼食をいただきます。
昼食を終えたお父さんが出かけようとしたまさにその時、
私は思い切って尋ねました。
「お父さんは昔、冒険者をしていたって本当?」
自分でも大きいと思う声で。




