未来への投資
その後お父さんが私の少し前に出るのを見送ってから
私もいそいそと家を出る準備をして学校へ向かいました。
秋も深まり小麦もだんだんと黄金色に染まってきています。
お父さんの育てる小麦は他のとは違う、というのを以前酔ったお父さんから聞いたことがあります。
話によると収穫の時期を遅らせて、ほかの農民たちとの競争の少ない時期に売りに出して
少し高く売っているそうです。しかしそこまでの道のりは大変だったようで寒さに強い苗だけで交配したり、温度を高く保つために落ち葉を苗の周りに敷いたりと試行錯誤の連続だったようです。
私はそんなお父さんを尊敬しています。
特に、
「みんなと同じことをするということも確かに重要ではあるんだがな、
違うことをしないと見えないものもあると思うんだ。
私たちも新しいことを模索し続けなくては千変万化するこの社会についていけなくなると思うし
一番の理由は、お父さんはもともとみんなと違うことに挑戦することに自分の意義
を見出していたからなんだけどな。」
と言っていたお父さんの姿は8年たっても変わらず鮮明に覚えています。
小麦畑を抜け、背の低い草の中、紫のコスモスがぽつぽつと咲いている休閑地へ出たところで
ふと私は顔を上げました。いつの間にか太陽は夏ほどギラギラと私を攻撃しなくなっていたので
反射的に添えていた左手を下ろした後、カバンを背負い直して、橙色のスカートを持ち転ばないようにしながら学校へ走り出しました。
〇
空は澄み渡り、太陽の光がさんさんと降り注いでシルクにみまがうほどの金髪をした彼女を見つめています。彼女の進む道はまっすぐで行く手を阻むものもなく、脇に生える草花もまた風に揺られ楽しそうに踊っています。
彼女の青い瞳は太陽の光によって薄まりながらも一心に彼女の通る道を、彼女の未来を映し出しています。