その”木”との出会い
こんにちは、阿古久曽です。この度は本小説を開いて下さってありがとうございます。拙い内容ではありますが不定期(目指せ3日に一回)更新するので読んでくだされば幸いです。あと誤字、脱字、特に“改善点”などのご指摘は大歓迎です。
(というか、客観的な目線から改善点をお聞きしたいです。)
「…………」
「リ…ウ…ビア」
一体誰の声......?
朦朧としている私に対し、その声は何かを訴えかけていました。
「…………を………い……じゃ…」
とても優しい老人の声で。
〇
「リウビア~どこにいるの~?」
「……ううっ」
遠くから聞こえるお母さんの声で、私は一気に現実世界に引き戻されました。
「うわっ」
目を開けた直後、
私は飛び上がりました。
私はふかふかのベッドの上......で寝ているつもりでした。
けれども実際は落ち葉の上で寝ていたのです。
「どうしてこんなところで.......まったく...髪が汚れちゃったじゃない。」
ぶつぶつ口にしながら
髪についた土をさっと払いました。
自分で言うのもなんですが、私は自分の金髪に自信があるのです。
そして私は辺りを見渡しました。
――ここはどこだろう?
薄暗いですが、地面はふかふかの落ち葉で覆われています。
そう、私がいた場所はまったく知らない場所...というわけではなく、
一見すると、いつも遊んでいる森の中かと思う場所でした。
......いや、一つだけ異様なものがありました。
一本の“木”です。
その木はほのかに光って見えたのです。
昔お母さんから聞いた話に出てくる、光るの竹ように。
幹は穢れのない白さとつやがあり、
枝についた白い花にいたってはこぼれんばかりに咲き誇っていました。
――なんてきれいなの......
その木のあまりのうつくしさに
私はぽかんと口を開け、
時間を忘れ、その木に見入っていました。
どれほどその木を見ていたのでしょうか...
再度遠くから呼ぶ声を聞き、はっと我に返りました。
「お母さんが呼んでたの忘れてた!早く帰らなくちゃ!」
私は慌ててその声のもとに向かって走り出したのでした。
走りながら私はふと考えました。
思い返すと、あそこにいたのは不自然すぎました。
覚えている限りでは、野原で花を摘んでいたはずです。
――と、声のする方へ向かって、根っこを飛び越えつつ走っていると
息が切れそうになるころに、ようやく森から出ていました。
私の視界は、森を抜けた途端一気に鮮やかになりました。
私の瑠璃色の目を赤くするほど、空は紅く染まり、
その中に夕日を背に受け黒く塗りつぶされている私の家がありました。
そして家の外には、頬を膨らませたお母さんが立っていました。
ふと私は、門限をとっくに過ぎていることに気が付きました。
色々な感情が交じって、私は勢いよくお母さんの胸に飛び込みました。
「......おかあさん、ごめんなさい。」
私はお母さんのおなかに顔を押し付けました。
「......リウビア、こんな遅くまで遊んでたらだめでしょ。
森の中で迷子になったんじゃないかって、お父さんもお母さんも心配したんだから。
遅くなるなら事前に言ってくれたらいいのに。」
お母さんはそう言うやいなや
すぐにぎゅっと抱きしめてくれました。
――よかった。
ホッと安堵のため息をつくと
「さぁ、家に入ってご飯を食べましょ。今日の夕食はお父さんが作ってくれているわよ。」
そうお母さんは言い、私の手はお母さんの大きくて温かい手に握られ、
おいしい匂いがただよう家の中へと入っていくのでした。
その時、私はどこかから一瞬視線を感じたような気がして振り返りました。
が、そこには何もなく、果てしもなく広がった草原と赤く染まった森があるだけでした。
〇
家に入ると、クリームのまろやかな匂いが鼻を満たしました。
「お父さん、ただいま!」
「リウビアおかえり。今日はお父さんの作ったシチューがあるぞ~」
シチュー...我が家ではクリームシチューのことを、そう呼んでいます。
お父さんが育てた野菜とクリームのまろやかさが口の中で合わさって
たまらなくおいしいのです。
「やったー!」
思いがけない好物の登場で興奮した私は
小さな切り株の椅子にぽんっと座りました。
お父さんの用意したシチューはまだ熱々の湯気を上げています。
お母さんもお父さんも準備が終わり、席に着きました。
ようやく夕食です。
「「「いただきます」」」
寝ていただけなのに体は思った以上に疲れていたので
お皿に飛びつくほどの勢いで...もちろん礼儀正しく
夕食を食べ始めたのでした。
色鮮やかな野菜を頬張り
木のスプーンで、シチューの入ったお皿をすくっていると
底の方から、なにやら黄土色の塊が出てきました。
「これ...なぁに?」
私はその得体のしれない塊をスプーンですくい、お父さんに見せながら聞きました。
「うん? あぁそれはジャガイモという植物だよ。
...なんでも冒険家たちが未開の地で、新たに見つけてきたものらしい。
物珍しいからお父さん、買ってきちゃったよ。」
ワインを飲み、酔っぱらって機嫌が良いのか、ワハハとお父さんは笑っています。
私は、ジャガイモという名前の物を口にいれましたが
う~んパサついているからでしょうか...?
お世辞にもおいしいとは言えませんでした。
お父さんには申し訳ないですが...
そんな気持ちをごまかすように、お父さんに聞きました。
「ふ~ん。じゃあこれから
もっともーっとおいしいものが見つかるかもしれないってこと?」
「うん。食べ物だけじゃないだろう。
もっといろんな物が見つかるだろうなぁ。
そういえば......」
何かを思い出したのかお父さんはぷつりと話をやめました。
しかし肝心の私は、新しく見つかるかもしれない食べ物に思いを馳せていて
その変化には全く気づきませんでした。
「............?」
「...ああ、そういえばリウビア。今日は何をしてたの?」
お母さんは話を繋ぐかのように私に聞いてきました。
「えーっとねぇ...なんか気づいたら森の中で寝てたの。
それでね、起きたら近くに、すっごくきれいな光る木があったの。」
私は手で形をなぞって二人に示しました。
「光る木?」
お父さんが興味津々といった様子で少し食い気味に聞いてきました。
私はつづけました。
「真っ白なお花を付けていて、とてもとてもきれいだったの。」
お父さんとお母さんは顔を見合わせお父さんが言いました。
「そんな木は知らないなぁ~。
次見つけたら花の一房や二房を持ってくるといいよ。
植物博士のお父さんがなんの木なのか調べてあげよう。」
またハハハと笑いました。
もちろんお父さんは植物博士ではありません。
お父さんから村の中心部に行った話を聞いているうちに外も完全に暗くなり、
私はお皿の底にほんの少し残った冷たいシチューをすくったのでした。
布団に入った後私は考えていました。
二人はその木のことについて何も知らないようで
この辺りについては私以上に詳しい二人が知らないとなると
いよいよ私が木を見たことも“夢の一部”だったんじゃないか...
そんな疑惑が鎌首をもたげてくるのでした。
――いや、あれは本当に夢なんかじゃない...
“あのきれいな木がこの世界に実在する”という希望を持ち続けたい私は
――明日行って確かめてみればわかる話だよね
そう自分を励まして眠りにつきました。