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98_VSアニミークリ・バルドル_その1

 僕は心子さんと一緒に偽バルドル召喚の準備を行っていた。召喚魔術について僕はそれほど詳しくないので、ほとんど心子さん任せだけど。


 とりあえず空間転移の部分については協力できるので、僕はその部分を担当している。召喚対象の指定とか、触媒の運用とかは心子さんがやってくれている。


「とりあえず、召喚された瞬間に囲んで叩けばいいんだよね?」


 季桃さんが脳筋みたいな発言をしているが、今回の作戦は大体その通りだ。


 こちらから召喚する都合上、偽バルドルが出現するタイミングも、出現する位置もこちらの思い通りになる。その上、偽バルドルは突然召喚されたことを理解するだけでも大変なはずだ。


 偽バルドルが混乱している隙に、僕たちは四方八方から氷のルーン魔術と旧き印を刻んだ武器で攻撃を打ち込んでやればいい。


 偽バルドルは複数の分体に分かれているらしいとはいえ、最初の先制攻撃で分体の数を大きく減らしてやることもできると思う。そうして短期決戦に持ち込めれば最高だ。そのまま押し切って勝つことも不可能じゃないだろう。


「そろそろ召喚の準備が終わりますよ。皆さん、戦う用意はできていますか?」


「うん、大丈夫。いつでも魔術を撃てるよ」


「魔石も氷の弾丸が撃てるやつに付け替えたし、私も準備OKだよ!」


 ルーン魔術起動装置を持っているのは僕、季桃さん、ヴァーリの3人だ。ヒカちゃんは自力でルーン魔術を扱えるので必要ない。心子さんの分は用意できていないが、彼女には銀の鍵とトートの剣で僕たちの守りを担ってもらう大切な役割があった。


 基本的には攻撃が最大の防御といった感じで攻めるつもりだが、アニミークリである偽バルドルは触れただけで熱を吸ってくる。でも心子さんなら、1人で吸熱への対処が可能だ。銀の鍵で障壁を張れば触れさせないように防ぐことができるし、トートの剣で低体温症を治療することもできる。


 もし心子さん1人では対処できなくても、ヒカちゃんなら魔石を付け替えることなく防御系や回復系のルーン魔術で役割を切り替えることが可能だ。それに障壁の用意だけなら僕もフォローできる。


「では召喚します!」


 心子さんは呪文を唱えて、偽バルドルの召喚魔術を発動した。それと同時に僕たちも『氷の弾丸』魔術や『動きを縛る吹雪』魔術を発動する。


 ……しかし心子さんによって召喚されたのは、あの全身白づくめの男ではなく、無数のカラスだった。


 カラスたちは僕たちに囲まれていることに気づくと、一斉に羽ばたいて飛び回ることで僕たちを攪乱する。


「えっ!? どうしてカラスが!? しかも1匹や2匹じゃないし!」


「召喚魔術は成功しています! このカラスが偽バルドルで間違いありません!」


「とにかく氷のルーン魔術を撃て! 旧き印を刻んだ武器で攻撃しろ!」


 氷のルーン魔術が命中したカラスは、光沢のないオパールのような物体になって砕け散っていく。


 この場に現れたカラスが全てアニミークリであることは明白だった。全部をまとめれば、偽ヘズよりも遥かに巨大なアニミークリとなるだろう。


 カラスたちも吸熱するために体当たりしてきたり、ルーン魔術を使って反撃してくるが、僕と心子さんが銀の鍵を使って防いでいく。


 そうしてしばらく攻防を繰り返した後……。突然、一部のカラスたちがバシャッと音を立てて漆黒の液体に変わった。


 そして一か所に集まったかと思うと、ぐねぐねと人の姿を形作り、白い男が現れる。


「まったく……。急に攻撃されて驚いたよ。久しぶりだね、結人君。いや、初めましてかな。結人君と一緒に行動していた俺は消滅したからさ。常に同期してるわけじゃないから、キミと共闘した記憶は残ってないんだ」


「でもカラスとしては何度も会ったことがあったんだろう」


「まぁ便利だから使っているけど、カラスのような黒い姿は嫌いなのさ。なんたって俺は白い花に例えられる光の神バルドルなのだから。そういうわけでカラスの姿はノーカウント、初めましてが好ましいね」


「カラスが偽バルドルと協力しているんじゃなくて、そもそもカラスは偽バルドルの一部だったのか」


 僕の言葉に対して、偽バルドルは酷く不機嫌そうに表情を歪める。


「偽物と呼ぶのはやめてくれないかい? 俺は本物のバルドルなんだよ」


 この期に及んで、まだ本物と言い張るのか。


 ヴァーリも僕と同じ気持ちだったようで、偽バルドルに食って掛かる。


「偽物だろうが! 本物はヘズに殺されたんだ。お前がアニミークリってのはわかってる。っていうか本物のバルドルは、そんな風に液体に変わったり分裂したり、変身したりしねぇよ」


「……それでも俺は、本物のバルドルだ。……北欧の最高神オーディンの息子にして、戦争の後に冥府から蘇った次代のリーダー。それが俺なんだ……!」


 一体何なんだ? どうしてそこまで本物のバルドルであることに固執するのだろう。


 彼は明らかに偽物なのに。何か僕たちの知らない秘密でもあるのか?


 ヒカちゃんが偽バルドルに尋ねる。


「どうしてそんなにバルドルであることにこだわるの? 別の人に成り代わることなんて無理だよ。パラレルワールドの同一人物でさえ差異があって、成り代わることはできないのに。例えば私にとってユウ兄はユウちゃんと違うもん。ユウ兄とってもヒカルと私――ヒカちゃんは違うしね」


「……その理論で言えば、やはり俺はバルドルだ。偽物でも別人でもない、本物のはずなんだ……!」


「どういうこと?」


「そもそもお前たちに認めてもらう必要なんてないんだ。俺をバルドルだと認めさせたいのは1人だけなんだから。父上に……オーディンに認めてもらえさえすれば、それで!」


 僕と行動していたときははぐらかしていたけれど、やはり偽バルドルはオーディンが生きていることを最初から知っていたようだった。その割に銀の鍵とか、時空操作魔術の使い方とか、そういった知識はほとんど教えてもらっていないように見える。


 そういった歪さは、オーディンに本物のバルドルだと認めてもらえていないことが関係しているのだろうか?


「お前たちを殺して、優秀なエインフェリアを集めて、父上がパラレルワールドへ攻め入るときの手助けをできれば……。そうすればきっと、俺を息子だと認めてもらえる……!」


 偽バルドルは僕たちに召喚されて攻撃に晒された直後も冷静だった。それなのに僕たちが偽物呼ばわりした途端に、精神的に不安定になった。


 オーディンに自分を認めさせることだけが、彼の存在意義とでも言った様子だ。


「父上、黄金の腕輪を通じて見ていてください。こいつらを排除して、証明して見せます。俺が不出来な失敗作じゃないことを、本物のバルドルと同等に、いや……それ以上に父上のお役に立てることを!」


 偽バルドルは多数のカラス型の分体と共に襲い掛かってくる。


 もう彼はまともに会話するつもりは無いらしい。こちらが何を問いかけても、何も言葉を返してこない。


 最初に思ったほど分体の数を減らせなかったのが痛かった。大量のカラスが出てくると思っていなくて僕たちの攻撃が鈍ったことや、偽バルドルが瞬時に危機を察知して僕たちを攪乱したせいで、想定していたような戦い方に持ち込めていない。


 広間を埋めつくすほどではないが、それに近い数のカラスが今も部屋を飛び回っている。こんなに多くては、僕と心子さんの2人がかりでも完全に触れさせないのは無理だ。


 旧き印は予め、全員の武器に刻んである。そのおかげで体当たりしてきたカラスを武器で打ち払うこともできるが、何度か直で接触されてしまい、熱を吸われていた。


 今のところはトートの剣で治療すれば回復できる程度に収まっているが、このままだとまずい。


「とにかくカラスの数を減らすんだ! 吹雪を起こしてまとめて片付けろ!」


 僕の号令で、ヒカちゃんたちは中級ルーン魔術の『動きを縛る吹雪』魔術を一斉に発動する。しかしカラスたちも中級ルーン魔術の『障壁を張る』魔術を一斉に発動して、吹雪をやり過ごした。


 ルーン魔術を使えるアニミークリは厄介すぎる!


 弱点はわかっているのに、弱点を突かせてくれない。もしかしてロキと同じか、それ以上に強いんじゃないか!?


「ヴァーリ! キミは年の魔石に切り替えて『魔術的強化を解除する』魔術を使ってくれ! それで障壁は解除できるはずだ!」


「わかった。俺に任せろ!」


 ヴァーリに頼んだのは、彼はルーン魔術を使わなくても範囲攻撃を行うことができるからだ。大量の矢をショットガンのように放つことで、前方のカラスを一掃することができる。年の魔石に切り替えたら氷のルーン魔術は使えなくなるから、魔石を変えるならヴァーリが適任だった。


 戦闘センスに優れた彼なら、『魔術的強化を解除する』魔術と弓での広範囲攻撃をうまく使い分けてくれるだろう。


 とりあえず、これでどうにかなるか……? そう思った僕だったが、すぐにその甘い考えを打ち砕かれることになる。


「遊びはここまでだよ、結人君。俺を相手にすることが、どれだけ愚かなことか教えてあげよう」


 偽バルドルがそんなセリフと共に、大仰な様子で指をパチンと鳴らす。


 彼は何をしたんだ? 特に変化は無いように思えるが……。いや、まさかルーン魔術起動装置か!?


 僕が気づいた直後、季桃さんからも悲鳴が上がる。


「大変! ルーン魔術が使えないよ! 装置が動かないの!」


「ルーン魔術起動装置はヴィーダルが開発したものだからね。こっちの都合で停止できて当然だろう?」


 僕が偽バルドルと一緒にムスペル教団の拠点を襲撃したとき、偽バルドルはそんなことしていなかったじゃないか! まあ、あれはルーン魔術起動装置を停止するまでもない戦いだったからだろうけど。


 僕たちを脅威だと認めていると考えるべきか。こちらが劣勢なように感じているが、偽バルドルも内心では焦っているに違いない。


「ねぇヒカちゃん、戦乙女の権限で装置を再稼働させられないかな」


「ごめん無理! 時間をかけたらハッキングみたいなことはできるかもだけど、戦いながらは無理!」


「ヴァーリは権限持ってないの?」


「悪ぃけど持ってねえな! 停止機能があることも今知ったよ!」


 無理ならさっさと作戦を切り替えるべきだ。とにかくカラスの数を減らさないと話にならない。


 ルーン魔術を封じられたせいで、偽バルドルへ有効な攻撃手段が減ってしまった。他の何かで補わなければならないが……。


「あとは銀の鍵を父上に封じてもらうとするか」


 まずい! 銀の鍵まで封じられてしまったら、僕たちに勝ち目はない。


 偽バルドルは窮極の門への正規ルートである黄金の腕輪を持っている。その正規ルートを通じて、偽バルドルはオーディンに干渉を依頼しているようだ。


 だけど僕たちの心配は杞憂に終わった。


「できない? ……父上、不調ですか? まあいい。父上の手を煩わせなくとも、俺だけでお前たちを排除するなど造作もない。俺が父上に認めてもらうための糧となれ。父上に楯突く愚か者どもめ!」


 もしかして僕の世界のヒカルとレギンレイヴの本体が、オーディンを妨害してくれているのか? オーディンが力を発揮できない原因はそれくらいしか思いつかない。


 僕の世界のヒカルが作ってくれたチャンスなら、絶対にものにして見せる。僕はこの状況を打開するための作戦を思いついていた。



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