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93_ルベドの正体_その2

 ミッドガルドまで戻ってきた僕たちは、ヴァーリとヒカちゃんに案内されながら目的地へと向かう。


 その道中で、シグルドの妻であるクリームヒルトについて、季桃さんが話してくれた。


「クリームヒルトについて一言で言えば、『戦乙女に全てをめちゃくちゃにされた女性』だね。オーディンが最も目をかけていた戦乙女のブリュンヒルデと並々ならぬ因縁があるの」


 クリームヒルトとブリュンヒルデの因縁は、大きく2つに分けられるそうだ。


 まず1つ目が戦争での敗北。


 以前にも季桃さんから聞いたが、戦乙女は人間同士の戦争に介入して勝敗をひっくり返すことがある。


 クリームヒルトはブルグント王国という国に生まれたお姫様なのだが、ブルグント王国はブリュンヒルデの介入で戦争に負けてしまうのだ。


 しかもクリームヒルトには兄がいるのだけど、そのお兄さんがなぜかブリュンヒルデに惚れてしまうという。


「なんでお兄さんはブリュンヒルデに惚れたの……? ブリュンヒルデのせいで戦争に負けたんだから、普通は恨むんじゃないの?」


「そこは伝承に残ってないからわかんない。ヴァーリ君は何かわかる?」


「惚れたというよりは、自分のものにして支配したかったらしいぜ。噂に聞いただけだから本当か知らねぇけど。シグルド、クリームヒルト、ブリュンヒルデは超有名だからよ、死後もゴシップが大量に出回ってて、何が本当かわからねぇんだよな」


 現代に伝わっている北欧神話でも、シグルドに関する話は様々なバリエーションがあって、細かいところがそれぞれ食い違っているそうだ。


 真相は噂という闇に葬られてしまって、本当のことは当人にしかわからないのだろう。


 もう一方の因縁について、季桃さんが話してくれる。


「もう1つの因縁は、シグルドの取り合いだよ。端的に言えば、クリームヒルトとシグルドが婚約していたのに、横からブリュンヒルデが割り込んできたの」


「クリームヒルトの兄はブリュンヒルデ狙いだから、四角関係のドロドロ恋愛なのか……」


「一応補足すると、クリームヒルトの方が横やりした説もあるんだけどね。でもそれだと近隣国の王子であるシグルドがブルグント王国にいた理由が説明できないから、個人的にはクリームヒルトが先だと思うけど」


 季桃さんの持論にヴァーリも同調する。


「俺もクリームヒルトが先だと思うぜ。ブリュンヒルデのせいで戦争に負けたって話があったろ? ブルグント王国はその補填のために、莫大な金が必要になったはずなんだよ。シグルドが殺した竜は大量の黄金を溜めこんでいたって噂があってな。クリームヒルトのために竜を殺して、黄金を持ち帰ろうとしたらしいな」


「その時点のシグルドってエインフェリアですらない人間だよね? 竜に勝てるものなの?」


「普通は無理だ。だからシグルドはクソ有名になったんだぜ。エインフェリアでも勝てるかわからん相手に勝利したんだからな。まさに命を賭してってやつだよ。それほどクリームヒルトを愛していたのかもな」


 シグルドはルーン魔術と大剣で戦う戦士だったらしい。ルベドが剣を扱っている姿を僕は見たことがないが、少なくともルーン魔術を扱う点は一致している。


 ルベドがシグルドの息子だとすれば、ルベドは人間であるにも関わらず、エインフェリア数人を相手に戦える戦闘力を持っていることも頷けるかもしれない。



 クリームヒルトの話に戻るが、これまでの話で説明された通り、クリームヒルトとシグルドは深い愛で結ばれて婚約していた。


 だけどオーディンが『ブリュンヒルデの結婚相手は最も勇敢な者とする』と決めてしまい、竜殺しを達成するほど勇敢なシグルドは、ブリュンヒルデと婚約することになってしまった。


 オーディンの決定に逆らってクリームヒルトとシグルドが駆け落ちしても、オーディンの怒りを買って2人は殺されてしまうだけだろう。


 人間が神に敵う道理はない。普通であれば2人は泣き寝入りして、シグルドはブリュンヒルデと結婚する運命だった。


 しかしクリームヒルトは記憶を消す薬をシグルドに飲ませて、シグルドの記憶からオーディンの命令を消してしまう。


 消した動機については推測するしかないが、おそらくはクリームヒルトの身を案じて、シグルドがブリュンヒルデと結婚しようとしたからじゃないかと季桃さんが言う。


 そういうわけでクリームヒルトはオーディンの決定を無視してシグルドと結婚しようとするのだが、さすがに無策でオーディンに殺されるつもりはない。


 オーディンがブリュンヒルデの結婚相手として宣言したのは『最も勇敢な者』。シグルドと名指しされたわけじゃないのだ。クリームヒルトは代わりの結婚相手として、ブリュンヒルデに惚れていたクリームヒルトのお兄さんを用意する。


 ブリュンヒルデとオーディンを騙し、シグルドよりお兄さんが勇敢であると偽装できれば、シグルドをブリュンヒルデに差し出す必要はない。


 クリームヒルトは槍投げなどの武勇でシグルドとお兄さんを競わせて、こっそり不正を行ってお兄さんを勝たせることに成功した。


 その甲斐あって、晴れてシグルドとクリームヒルト、お兄さんとブリュンヒルデが結婚したのだけれど……ある日事件が起きる。


 お兄さんの方が優れていると本気で信じているブリュンヒルデがシグルドを散々に侮辱したところ、クリームヒルトがそれに耐えかねて本当はシグルドの方が強いことをばらしてしまったのだ。


 それで真実を知ったブリュンヒルデは激怒して、お兄さんを利用してシグルドを闇討ちで殺してしまう。


「確かにそういった経緯ならシグルドに子供がいてもおかしくないし、シグルドの妻のクリームヒルトが戦乙女とオーディンを恨むかもね……」


「シグルドが死んだ後も少し続きがあってね。クリームヒルトは復讐のためにブルグント王国から去るの。そしてしばらくした後、彼女は他国の王と再婚して、故郷であるブルグント王国に戦争を仕掛けるんだ。

 最終的に復讐は完遂されて、シグルドの暗殺に関わった人はオーディン以外はブリュンヒルデやクリームヒルトの兄とかも含めてみんな死んでおしまいって感じ」


 ちなみにここまで全部、質の良いエインフェリアに確保するためにオーディンが練った策略という説もあるらしい。

 以前聞いたようにシグルド自身はエインフェリアになった直後に自殺したらしいが、クリームヒルトが復讐を遂げる過程で、多くの戦士が死んでエインフェリアになっている。


 ルベドは家庭をめちゃくちゃに壊されたからオーディンを恨んでいる、とロキが言っていた。ルベドがシグルドとクリームヒルトの息子であり、ブルグント王国の王子であるなら、ロキの証言とも合致する。



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