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86_ユグドラシルの根本へ

 ヴァーリが倒したエインフェリアたちへトドメを刺していく。彼は戦争の経験者だから、その手つきは慣れたものだった。


 一方で季桃さんとヒカちゃんは辛そうだった。敵対した人物を殺害する経験は初めてだろう。

 トドメを刺す作業はヴァーリがやってくれているので、彼女たちが直接手を下しているわけではないが、トドメを指すという決断は僕たちみんなで決めたものだ。


 季桃さんとヒカちゃんがそれぞれ呟く。


「相手にも何か事情があったかもしれないとか考えちゃうよね。こっちにも事情があるから負けられないけどさ」


「……こんなことをしなきゃいけない戦争が大好きだなんて、オーディンは間違ってる。しかも、現代でも同じことを繰り返そうとしているんだよね」


 季桃さんを出身パラレルワールドに帰すためにも、戦争を起こさせないためにも、僕たちはオーディンと戦わなければならない。そしてそのために、まずは偽バルドルが何の邪神の一部なのかを突き止めなければならない。



 ◇



 世界樹ユグドラシルへ向かう道中では、他にも僕たちを襲ってくる者がいた。


 北欧の大地は何年も雪と氷に閉ざされてしまっているから、今も生き残っているのは食糧を巡る争いに勝利してきた強者ばかりだ。そのせいもあって襲ってくるのはエインフェリアがほとんどだったが、稀にエインフェリアではない人間もいた。


 銀の鍵を使わずに勝利していったので、絶対に殺さなければならないわけではなかったが……。一度だけ見逃してみたところ、見逃した奴らが背後から再度襲ってきたので、結局は殺すことになってしまった。


 何でもいいから僕たちから物を奪わなければ、物資不足で生き残れないと判断しての行動だったのだろう。


 彼らは夢の狭間に再現されたシミュレーションであり、本物ではないけれど……。敵対する人物であっても殺害するのは精神的に疲弊する。

 オーディンはこんな地獄を現代で繰り返そうと言うのか。僕にはオーディンの考えが到底理解できない。



 しばらくして、僕たちはユグドラシルの根本付近へ辿り着いた。


 あとはニブルヘイムへの入口を見つけて、地下へと潜っていくだけ。しかし、ヴァーリが異変に気付いたようで足を止める。


「チッ、そういやもうすぐ巨人たちがアスガルドに侵攻する頃か」


「アスガルドへの侵攻? もしかして神話上ではロキが戦死するやつ?」


「あぁそうだ。世界樹ユグドラシルはニブルヘイムだけじゃなくて、神々の国アスガルドにも繋がってんだよ。ここは巨人たちの進軍予定ルートから近いんだよな」


 ニブルヘイムはここから地下に潜っていくと辿り着けるらしいが、反対にアスガルドは上の方にあるらしい。上というのは本当に物理的に上空にあるそうで、ビフレストという虹の橋を渡って行けばアスガルドに辿り着くそうだ。


 巨人たちがアスガルドに侵攻するためには、その虹の橋を渡らなければならない。虹の橋をどれだけの巨人が一度に通れるのか、戦場にしても強度的に問題がないのか。そういったことを、巨人たちが調査隊を組んで調べに来ている時期だった。


「ほら、あそこを見てみろよ。いるだろ、巨人が3人。あれは霜の巨人だな」


 ヴァーリに示された方をよく見ると、木々の合間から巨人たちを見つけることができた。


 北欧神話における巨人とはオーディンと敵対している神のことで、身体の大きな人間のことではない。例外はいるらしいが、あそこにいる3人の巨人たちは一般的なタイプで、僕たちとそれほど体格は変わらない。日本人よりは大柄だから、身長は2メートル近くあるけれど。


 彼らを霜の巨人とヴァーリは呼んだが、巨人は住んでいる場所によって呼び方が異なるそうだ。例えば霜の巨人とか、山の巨人などと呼ばれている。基本的にはどこの巨人も強さや能力に大きな違いはない。

 ムスペルと呼ばれる炎の巨人だけは例外で突出して強いそうだが、炎の巨人がミッドガルドやアスガルドへ侵攻してくるのはもっと遅い時期らしい。今この辺りにいるのは霜の巨人だけだとヴァーリは言う。


「ニブルヘイムの入口は、この奥にあるんだよ。迂回して別の道を行ってもいいんだが、虹の橋に近いこの辺りには、虹の橋の周辺を警備しているエインフェリアや神もいるはずだ。


 巨人の別動隊と遭遇する可能性もあるし、新手に見つかるリスクを考えれば、目の前の巨人をぶちのめして進む方が楽かもしれねぇ。ただ言っておくと、巨人たちは強いぜ。だからどう対応するのがベストか、一概には言えねぇな」


 巨人がどれくらい強いのか、ヴァーリに教えてもらったことがある。ヴァーリ流の分類方法だが、北欧の神々の強さを階級分けするとしたら、


 ・オーディン

 ・最上位の神、巨人

 ・戦闘特化の神、巨人

 ・普通の神、巨人

 ・戦闘特化の半神

 ・普通の半神

 ・戦闘特化の人間

 ・普通の人間


に分けられるらしい。


 ランクが1つ違いなら、5~10倍くらいの人数で挑めば太刀打ちできる可能性がある。だけど2つ以上違うなら何人で挑んでも勝つことは諦めたほうがいい。


 エインフェリアは戦闘特化の半神ランクだ。エインフェリアは後天的な半神のようなものである上に、オーディンが戦争のために作り始めた存在だから、ここに分類されるのは当然と言える。


 ヴァーリもヘズを殺すためにオーディンが産ませた子供だから、戦闘特化の半神だ。


 ちなみに心子さんは戦闘特化の人間ランクで、ロキは最上位の神ランク。オーディンは別格なので、単独でランク分けしている。初代レギンレイヴのような、純粋な神の戦乙女は戦闘特化の神。スコルの子は個体差が激しいが、戦闘特化の人間~普通の半神ランクくらいだ。


 今僕たちの目の前にいるのは、普通の巨人もしくは戦闘特化の巨人だろう。今まで戦ってきたエインフェリアたちは同ランクだけど、この巨人たちは僕たちより1つか2つ上ということになる。


 僕たちは人数で勝っているし、エインフェリアの中でもかなり強い方ではあるけれど……。悩ましい状況だ。


 目の前の強敵を回避して安全なルートがある可能性にかけるか、不測の事態を避けるために確実な困難を乗り越えていくか……。


 でもヴァーリは彼らに勝てないとは言わなかった。それに巨人たちは今まで戦ってきたどの敵よりも強いかもしれないが、ロキよりは弱い。


 僕たちはいずれロキやオーディンとも戦うつもりなのだから、こんなところで怖気ついてはいられない。


「目の前にいる巨人を倒す方針で行こうか。巨人たちは僕たちに気づいていないから、僕たちが先制攻撃できるしね。それに巨人がどれほどの強さなのか、一度経験しておきたいな」


「僕も結人さんに賛成です。最悪、夢の狭間から離脱すれば良いですからね。安全に力を試せるなら試してみるべきです」


 心子さんも僕と同じ意見のようだった。夢の狭間から離脱したら、また初めからやり直しになってしまうが、逆にいえばそれだけだ。いくらでも取り返しがつく。


 僕たちの意見を聞いて、ヴァーリも納得したようだった。


「確かにユウトたちは巨人と戦ったことがねぇもんな。今後のことを考えれば、戦ってみた方がいいか。銀の鍵は使うのか? たぶん、使わねぇとかなりやばいぜ」


「そうだね。この戦いでは解禁しよう」


 先ほどの階級分けについてだが、実は魔術について考慮していない。ルーン魔術や時空操作魔術、銀の鍵を活用すれば戦力差はもっと縮まる。


 ルーン魔術はオーディンが考案したものだから、巨人たちは基本的に使わないのだ。それだけで1ランクまでとはいかずとも、0.5くらいは階級差が縮まるし、銀の鍵をうまく活用すれば1~2階級差を埋められないこともない。


 例えば僕は、エインフェリアになる前に出身パラレルワールドで、銀の鍵を使ってエインフェリアを相手に立ち回って見せた。


 他にも、心子さんは並みのエインフェリアより強いかもしれないと今まで何度も語ってきたが、それは多彩な魔術と銀の鍵、トートの剣のおかげで2階級差を埋められるからだ。戦闘特化の人間ランクというのは魔術や魔道具なしの話で、制限なしの心子さんは戦闘特化の半神クラスにいる。

 まあ耐久性や攻撃力は著しく低いので、実際には正面からぶつかるのは難しいだろうけど、搦め手込みならそのクラスにいる。


 それに戦い方の相性だって重要なので、ヴァーリ流の階級分類法は絶対的なものではない。あらゆる手段を駆使すれば、僕たちが2階級上の巨人たちに勝てる可能性は十分にある。


 もちろん基礎的な戦闘能力は圧倒的大差で負けているので、間違いなく厳しい戦いになる。かなり危険ではあるけれど一度戦ってみて、本当に僕たちの力が神や巨人に通用するのか。それを確かめる重要度は高い。


 僕たちは物陰に隠れて作戦を立て、巨人たちに奇襲をかけることにした。


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