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85_VS神話時代のエインフェリア

 僕たちは神話時代のエインフェリアと対峙する。この程度の相手なら、銀の鍵を使わずに倒したい。


 敵の構成は、短剣を持った男が1人、長剣を持った女が1人、弓を持った男が1人だ。剣を持った2人が前衛で、弓を持った男が後衛らしい。


 対する僕たちは、僕と季桃さんが前衛。ヒカちゃんが中衛。ヴァーリと心子さんが後衛の布陣で迎え撃つ。……つもりだったけど、予定を変更しよう。


 この布陣がダメなわけじゃない。というか、これが僕たちがよく使う陣形だ。スコルの子を退治するときも、この隊列で戦うことが多い。


 でも今回は僕たちを侮って敵が油断しているし、人数的にもこちらが有利だ。相手は日本語を理解できないはずだから、僕は口頭で仲間たちに作戦を伝える。


「僕とヒカちゃんで前衛の2人を抑えるから、その間に季桃さんは弓を持っている後衛を倒してくれる? 季桃さんは近接戦に強いし、近づいてしまえば相手の射手をほとんど一方的に倒せると思うんだ」


「あぁなるほど。いつもは結人さんが後衛を倒してるもんね。今回は私がやればいいんだ」


 いつもというのは、スコルの子と戦うときの話だ。スコルの子にも知性があるので、前衛と後衛に分かれている襲ってくることがある。


 そういうときは、僕が空間転移で後衛に急接近して蹴散らしておくのだ。でも今回はできるだけ銀の鍵は使わないことにしていたので、季桃さんに役割を譲った。


 季桃さんの身体能力なら、きっとできるはず。


「なるほどな。いいんじゃねぇか。速攻で1人落とせると楽になるしな」


 とヴァーリからもお墨付きをもらえた。経験豊富な彼に賛成してもらえるなら、大丈夫だろう。もう少しだけ作戦の詳細を詰めて、僕たちは動き出す。


「じゃあ突撃するから。フォローよろしくね」


 季桃さんはそう言ったとほぼ同時に、濛々と雪煙を上げて疾走する。前衛のエインフェリアが反応する間もなく、季桃さんは後衛に位置する弓使いの目前まで辿り着いた。


 季桃さんは身体能力全般が優れたエインフェリアだけど、その中でも瞬発力が抜群に良い。どのくらい優れているかと言えば、瞬発力で季桃さんを上回るエインフェリアを見たことがないとヴァーリが言うくらいだ。


「オラッ! よそ見してんじゃねぇって!」


 ヴァーリがすかさず弓で攻撃し、季桃さんを援護した。僕とヒカちゃんも敵の前衛たちに向かって飛び出す。


「ヒカちゃん、僕たちもいくよ」


「うん、ユウ兄と一緒ならいつでも大丈夫!」


 僕とヒカちゃんは前衛に攻撃をしかけて、彼らの足を止める。こうすることで、敵陣に深く切り込んだ季桃さんに攻撃が集中しないようにするのだ。


 季桃さんの様子を見ると、敵の弓使いを圧倒していた。懐にまで潜り込まれて弓使いはナイフを取り出して応対するも、季桃さんの動きに全くついてこれていない。弓使いが倒されるのは、時間の問題だろう。


 敵前衛の2人が弓使いを守りに行こうとするが、僕とヒカちゃんに邪魔されて、合流できそうにない。そしてそのまま、僕たちが敵前衛を足止めしている間に、敵の弓使いは倒されてしまった。


「Hann fékk högg! ? Ég mun aldrei leyfa það. Ég mun að minnsta kosti særa eitt sár」


「『あいつがやられた!? 絶対に許さない。せめて一矢報いてやる』だって。何か切り札があるのかも」


 短剣を持った男の発言を、ヒカちゃんが通訳してくれる。


 短剣の男が今までとは違う構え方をする。何か特別な攻撃をしてくるつもりだろうか。武器の特性的にも当然だけど、この短剣使いは一撃の威力よりも、手数を重視しているタイプだ。


 彼の切り札はエインフェリアの身体能力を活かした連撃系の剣技と考えるのが合理的だろうか。


 もしそうなら、僕は下級ルーン魔術の『打たれ強くなる』魔術を使うべきだろう。


 以前にも言及したが、防御系のルーン魔術は『打たれ強くなる』魔術と、『障壁を張る』魔術の2種類が存在する。


『打たれ強くなる』魔術は敵の攻撃を完全に無効化できるわけではないが、一定の時間内であれば、ダメージを軽減する回数に限りはない。『障壁を張る』魔術は完全に無効化できるけれど、回数に限りがあるし、その回数も少ない。


 そういうわけで手数が多い相手なら、『打たれ強くなる』魔術の方がいい。僕は守りを固めて短剣使いからの攻撃を誘い、攻撃を受け止めてからカウンターを狙うつもりでいた。


 しかし、僕は彼の武器の振り方を見て、受け止めるのはまずいと途中で気づいた。急いで腕を引いたから、掠る程度で済んだけれど……。短剣使いの攻撃は、『打たれ強くなる』魔術を貫通してきた。


 僕はこの攻撃を、優紗ちゃんとの模擬戦で見たことがある。相手の防御を素通りするような剣術は彼女の得意技だった。


 この素通り攻撃はとてつもない高等技術のようで、僕や季桃さんもときどき挑戦しているのだけど、全く成功する兆しがない。ヴァーリは弓がメイン武器だから分野が違うとはいえ、彼も素通り攻撃は使えない。


 素通り攻撃を使える者は、神話の時代でも少ないらしい。それを使える短剣使いは、戦争に満ちた神話の時代を何年も生き抜いているだけの実力を持っていると言えるだろう。


 まあ優紗ちゃんは半月ほどで同等の技術を身に着けていたけど。あれは優紗ちゃんが天才すぎるらしい。ヴァーリにも優紗ちゃんの強さを説明したことがあるが、「そいつをエインフェリアの基準にするのはやめろ」と言われたことがある。


 優紗ちゃんが生きていた頃は、僕たちは一般的なエインフェリアの戦闘力を知らなかったし、自分たちは経験が浅くて弱いエインフェリアだと思っていたけど……。実際は僕、ヒカちゃん、季桃さんはエインフェリアとしては相当に強い方で、優紗ちゃんは異常なほど強いという認識が正しかった。


 ちなみに別世界の優紗ちゃんである心子さんだが、彼女も素通り攻撃はできる。だけど残念ながら心子さんには人間の筋力しかないので、できてもあまり意味はない。


 というわけで話が反れてしまったが、僕たちは難なく前衛の2人も倒した。


 後衛を倒した時点で人数差も大きくなった上、彼らの切り札が僕たちにとって馴染み深いものだった以上、僕たちの勝利は当然と言えた。


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