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81_作戦会議

「率直に言って、オーディンに勝てると思う?」


「…………無理だな」


 僕たちの分析は、季桃さんとヴァーリのそんな言葉から始まった。


「ロキが相手なら何とかなるかもしれねぇ。単純な戦闘力で負けてても、こっちには銀の鍵が2つもあるからよ。でもオーディンはタウィル・アト=ウムルだから、銀の鍵による優位性がない。そうなると俺たちが上回ってることが何1つねぇんだ。もう1人のヒカルとレギンレイヴと合流できたとしても、この戦力差は覆らん」


「正面から戦うのが無理なら、何か策が必要だね」


 とはいえ、少し工夫したくらいじゃどうにもならなさそうだ。オーディンは軍略の神でもある。直接的な戦闘力だけでなく、知略の面でも優れているだろう。


 軍略の神を相手に、作戦勝ちを狙うのは無謀だ。それよりは正面から高火力をぶつける方がマシだと思う。


 そのためには何か強い武器が必要なわけだけど、1つだけ心当たりがあった。


「レーヴァテインを使おうか。世界を焼くほどの力を秘めている、あの恐ろしい杖をね。オーディンに対抗するためには、それくらいの道具は必要だと思うんだ」


「確かにレーヴァテインならいけるかも! 黄金の林檎と組み合わせれば世界を滅ぼせるくらいだし、単品で使ってもきっとすごい火力になるよね」


 問題はレーヴァテインを持っているのはムスペル教団ということだけど、ロキなら今の僕たちでも倒せる可能性があると先ほどヴァーリが言っていた。


 ヴァーリは神話時代の戦争を生き残っただけあって、その辺りの機微が鋭い。彼の言うことなら信頼できる。


「レーヴァテインのためにまずはムスペル教団を倒そうっていうのはわかったけど……。ムスペル教団の拠点がどこにあるのかってわかんないよね。どうやって探せばいいのかな」


 ヒカちゃんがそう呟く。確かに手がかりがない。カラスたちとは敵対したから、彼らに任せることもできない。


 こちらから探し出すのではなく、向こうからやってきてもらうのはどうだろう。ルベドやロキの行動は予想するのが難しいけど、ムスペル教団に協力している別世界の僕の行動指針ならわかっている。


「付け入る隙があるとすれば、別世界の僕かな。別世界の僕が黄金の腕輪を狙っているのはわかっているからね」


「先に黄金の腕輪を手に入れて、待ち伏せするってこと? でも黄金の腕輪を持っている偽バルドルがどこにいるかもわからないよね」


「それについては考えがあるんだ」


 偽バルドルの捜索は、なにもカラスたちに全部丸投げしていたわけじゃない。僕は心子さんと一緒に、偽バルドルと接触するための方法を模索していた。


 まだ完全ではないけれど、割と見込みがある状態までは持ってきている。


 心子さんが僕に代わってみんなに説明を始める。


「偽バルドルの居場所がわからないなら、呼び寄せればいいのです。偽バルドルを召喚しましょう」


「召喚? そんなことできるの?」


「偽バルドルが何の邪神の一部なのか、それを突き止められたら召喚できますよ」


 僕は召喚魔術は専門外だけど、ざっくりとだけなら概要を知っている。季桃さんのお祖母さんが元々は召喚魔術を専門とする魔術師だったので、研究ノートにも少し書いてあった。


 召喚魔術が呼び寄せられるのは、基本的には邪神の眷属や化身だけだ。人間や一般的な動物を召喚することはできない。


 召喚魔術も時空に作用する魔術の一種なので、ヨグ=ソトースかミゼーアに近しい存在しかおそらく対象にできないのだろう。


 ヨグ=ソトースは外なる神と呼ばれる邪神の中でも副王とされる存在で、力が強い分、ヨグ=ソトースに連なる邪神も多い。というかほぼ全ての邪神はヨグ=ソトースと遠い親戚関係にある。


 でもヨグ=ソトースに近い方が召喚しやすいかというと、そうではない。人間では強大な存在を召喚ための力が足りないからだ。


 そういうわけで、ヨグ=ソトースとの関連性や強さのバランス的に、比較的弱い眷属や化身のみが召喚可能となっている。偽バルドルの格を考えると、僕たちなら十分召喚可能な範囲なはずだ。


 そして第二として、召喚魔術を成功させるためには、対象についての十分な知識が必要とされる。対象の知識が不十分だと、事故が起きてしまう。


 例えばお祖母さんはナイアラトテップの召喚を行ったとき、予定と異なる性質を持った化身を呼び出してしまったらしい。これは間違いなく、ナイアラトテップへの理解が足りなかったから生じた事故だ。


 ……そもそもナイアラトテップを正確に理解することなど可能なのか、という大前提からお祖母さんは間違っていたと僕は思うけど。


 出てきた化身が弱かったから大事には至らなかったものの、場合によっては死体の山が積み上がる事態に発展していたかもしれない。


「ユウ兄と心子さんは、偽バルドルが何の邪神の一部なのか心当たりがあるの?」

「心当たりはありませんが、正体を突き止めるための秘策があります。結人さんとヴァーリさんが協力してくだされば、きっと大丈夫です」


 心子さんは夢のクリスタライザーを取り出しながら、ヒカちゃんにそう答えた。


 夢のクリスタライザーは、お祖母さんの研究室で心子さんが探していた魔道具だ。研究室では見つけられなかったが、お祖母さんが持ち歩いていたので、遺体から回収してきた。


「ユウトは時空操作魔術で手助けするんだろうが、俺は何をすればいいんだ?」

「準備ができたらお呼びしますよ。それまで待っていてくださいね」


 準備が整うまではヴァーリの出番は無い予定だ。まあ近いうちに声をかけることになるだろう。


 とりあえず今後についての目処は立った。やることを順番に言えば、


 1.偽バルドルを倒して黄金の腕輪を手に入れる

 2.別世界の僕を倒してムスペル教団について情報を吐かせる

 3.ムスペル教団を倒してレーヴァテインを手に入れる


 という順だ。


 黄金の腕輪が手に入れば、別世界の僕を呼び寄せる餌として活用できるだけじゃなく、窮極の門への道も開ける。


 偽バルドルを倒すためにはまず、彼の正体を突き止めなければならない。僕と心子さんは協力してそのための準備を進めるのだった。

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