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79_撤退戦

 ヴァーリが僕に訪ねてくる。


「なあユウト、どのくらいで転移はできそうなんだ?」

「5分あれば十分だよ。持ちこたえられそう?」

「愚問だな。それくらいできなきゃ、俺は戦争を生き残ってねぇよ!」


 ヴァーリはそのような、かなり強気な返しをしてきた。おそらくは僕たちを勇気づける意味もあってのことだろう。


 一方で季桃さんは不安そうな顔をしていた。頑張るとは言っていたけど、彼女は実践で人と戦うのは初めてだし、どうしてもメンタル的な懸念がある。


「季桃さん、大丈夫?」

「うーん……まあ一応? 時間稼ぎだから殺す必要は無いわけだし。だいぶ気が楽かな」


 なんか、負ける気ゼロの言葉が返ってきた。勝つことは当たり前で、トドメを刺さなくて済むから気負わなくていいみたいな。


 そういう精神状況を維持できているなら、季桃さんについても心配いらないだろう。


 僕はヴァーリと季桃さんに障壁を用意する。今は空間転移に手一杯だからいつもより頼りない強度でしか張れないが、少しは足しになるはずだ。


 心子さんも「僕もお二人に魔術を使っておきますね」と言って2人に『被害を反らす』という魔術をかける。これはある程度までの威力の攻撃なら、自動で受け流してくれる優れた魔術だ。特に季桃さんと相性がいいだろう。


 季桃さんは高い身体能力を活かした、回避戦法が得意だ。完全に回避できなくても、直撃を避けてダメージを減らすことができれば、『被害を反らす』魔術によって被害をゼロにできる。


 ミゼーアの先端と戦ったときは敵の一撃が重すぎて使える場面が無かったが、今回は役に立つだろう。


 ヴァーリがエインフェリアたちの方へ、一歩踏み出す。そして弓矢を構えた状態で、敵を威圧するように叫んだ。


「俺を北欧の神ヴァーリだとわかった上で敵意を向けているんだろうな!! 死にたい奴から前に出ろ!!」


 こちらにも北欧の神がいると知らなかったエインフェリアもいたのだろう。エインフェリアたちに動揺が広がる。

 ヴァーリの啖呵を信じなかったエインフェリアもいるが、それでも単純にヴァーリを強者だと感じ取って萎縮し始める者もいた。


 もちろん彼らの中には果敢に立ち向かってくるエインフェリアもいるけれど、そういう人物を優先して、ヴァーリは次々と矢を放って吹き飛ばしていく。


 エインフェリアの肉体は強靭なので、大砲のようなヴァーリの射撃を受けても一撃で死んだりはしない。

 けれどヴァーリが見せつけた戦闘力はまさに、神話時代の戦争を生き残った者として相応しい強さだった。


「リモモ! 抜けてきたやつを頼む!」

「わかった、任せて!」


 敵の数が多いため、さすがに全てをヴァーリが対処することはできない。ヴァーリの射撃をかいくぐって接近してきたエインフェリアは、季桃さんが受け持つことになる。


 だけど季桃さんはエインフェリアとしての才能に溢れた人物だ。彼女の身体能力はエインフェリアの中でも群を抜いている。


 それに戦闘経験は浅いはずなのに、これまでいろんな強敵と戦ってきたこともあって、季桃さんは並みのエインフェリアよりも戦闘に関する直感が鋭くなっていた。


 敵対しているエインフェリアたちも季桃さんの強さに驚きを隠せないようで、


「なんだこの女、全然攻撃を当てられねぇ!」

「一撃も重いぞ……!? どんな怪力をしてやがる!?」


 と口々に呟いている。


 遠距離攻撃を仕掛けてくる敵もいるため、さすがの季桃さんもまったくの無被弾というわけにはいかない。けれど、かする程度なら心子さんがかけていた『被害を反らす』魔術のおかげでノーダメージだ。


 季桃さんは多数を相手に優位に立ち回り、隙あれば相手を掴んで放り投げていた。投げられたエインフェリアは再びヴァーリが放つ矢の雨に晒されることになる。


 人数的な不利を押しのけて、ヴァーリと季桃さんは有利に戦っていた。僕と心子さんが空間転移をさせるまで、このまま時間を稼げるか……?


 そう思わなくもなかったが、さすがにそこまで甘くはなかった。最初に戦意を消失していた奴らがきちんと戦力になり始めたのだ。


 僕たちの方が1人1人の質は高いけれど、圧倒的な人数差があるので、普通にやっていればあちらが勝つ。最初は僕たちの勢いに飲まれていたけど、エインフェリアたちも冷静さを取り戻して、体制を立て直していた。


 あちらの動きが変わるなら、僕たちも戦い方を見直す必要があるだろう。


 僕は仲間たちに声をかける。


「みんな、作戦変更だ。正面から受け止めるんじゃなくて、攪乱する方向でいこう。季桃さんは心子さんを背負って全力で逃げ回ってほしい。僕もヒカちゃんを守りながらそうする。ヴァーリは僕と季桃さんを狙ってくる敵を牽制してくれるかな」

「わかった。心子ちゃんのことは任せて」

「俺もいいぜ。牽制だけじゃなくて、別に倒してしまってもいいんだろ?」


 ヴァーリが不敵に笑って見せる。実際、数人くらいなら1人で倒してくれるだけの実力を彼は持っている。


 この作戦は僕が意識不明のヒカちゃんを守りながら逃げ回る必要があるため、先ほどまでより空間転移に集中することができず、転移までに時間がかかってしまう欠点がある。

 だけどあのままだと、さすがにヴァーリと季桃さんに負担がかかりすぎだろう。それで仕方なく作戦を変更したのだ。


 でも心子さんは引き続き季桃さんが守ってくれるので、空間転移に集中できるはず。僕が転移に集中できない分、心子さんには頑張ってもらわなければならないが、彼女なら心配いらないだろう。


 まあ、人のことではなく、僕は僕の役割を果たすべきだ。


 僕が得意な戦い方は2つある。1つは体術を用いて攻撃を受け流す前衛としての戦い方で、もう1つが時空操作魔術を用いて支援を主に行う戦い方だ。

 残念ながら、今はどちらも不完全にしか使えない。ヒカちゃんを抱えているから体術で受け流すことは難しいし、時空操作魔術も今は転移封じのせいで万全ではないからだ。


 そういうわけで僕の強みはいくらか削がれてしまっているが、障壁はまだ使える。攻撃を考えず防御に徹するのであれば、エインフェリア数人が同時に襲い掛かってきても、まだ多少の余裕があった。


「転移の準備が整いました! この場から離脱しましょう!」


 心子さんがそう叫ぶ。


 僕は心子さんを補助する形で、2人がかりで転移封じを破って空間転移を発動する。かなり強引な空間転移になってしまったが、それでも僕たちは無事に逃げることができた。



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