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78_カラスの裏切り_その2

「ねぇ結人さん……。カラスたちが管理しているエインフェリアは20人未満って聞いてたのに、なんか30人くらいいるね」


 季桃さんがげんなりとした様子でそう呟いた。


 まあ、カラスや偽バルドルが僕たちに嘘をついていたんだろう。


「これからどうする? 逃げる? 銀の鍵で転移すれば逃げられるよね?」


 全員を相手するわけにもいかないし、最終的には逃げることになるだろう。


 ヒカちゃんは意識を失ったままなので、こちらの戦力は4人だけ。僕たちはヒカちゃんを守りながら1人で7~8人ずつ倒さなければならない計算だ。


 こちらには銀の鍵があるとはいえ、さすがに無理がある。特にエインフェリアや半神ではない心子さんには厳しい。


「でも逃げる前に、こっちの正当性だけは主張しておこうか。うまくいけば敵の士気を下げられるかもしれない」


 カラスたちの言い分は、大きく分けると『バルドルを傷つけたこと』および『戦乙女をたぶらかしたこと』の2つだ。


 ヒカちゃんがこっちにいる以上、戦乙女の方は弁明が難しい。反論するなら、バルドルについてだろう。


 僕はカラスが従えているエインフェリアたちに向かって、大きな声で宣言する。


「よく聞け、北欧の神々を取りまとめているバルドルは偽物だ! 神話で伝えられているバルドルとヘズの復活は無かったんだ! キミたちを従えているカラスもそのことは知っている。その上で、彼らは真実を知った僕たちを消そうとしているんだ!」


 エインフェリアたちの反応は様々だった。動揺する者もいれば、全く意に介していない者、僕たちが虚言を吐いたと決めつける者もいる。


 けれど、彼らは誰一人としてこちらの味方をしようとはしない。ここにいるエインフェリアたちはムスペル教団へ裏切らなかった者たちだろうから、それは予想通りだった。


 ただし理由は様々で、カラスたちへの忠誠が高い者もいれば、多数派に属して自分の身を守ろうとしているだけの者もいる。


 忠誠心が低くて戦いに消極的なエインフェリアは戸惑っていて、結果から言えば全体の士気を大きく下げられたようだった。


 ただし、カラスたちも言われたままではない。


「エインフェリアたちよ、反逆者の言うことを真に受けるな。その黒いコートの男、久世結人に注意しろ。そいつはおぞましき魔術と奇妙な弾丸でバルドル様を傷つけた上、ヴィーダル様を殺害し、エインフェリアも殺して回っている」

「貴君らの中には久世結人に戦友をやられた者もいるだろう。最悪でも久世結人の確保か殺害は必ず成し遂げろ、必ずだ!」


 おぞましい魔術というのは時空操作魔術のことだろう。そっちを否定する気はないが、奇妙な弾丸で偽バルドルとヴィーダルを攻撃したのは別世界の僕だ。エインフェリアが殺されているのは初めて聞いたが、それも別世界の僕の仕業に違いない。


 カラスたちは僕と別世界の僕を区別できているだろうが、エインフェリアたちの士気を高めるためにあえて混ぜて話しているようだった。


「行け! 死せる戦士たちよ! バルドル様に盾突く愚か者どもを始末しろ!」


 カラスの号令に従ってエインフェリアたちが、僕たちに襲い掛かってくる。


 だけど僕たちは彼らをまともに相手するつもりはない。倒しても数を減らせる以外のメリットがないからだ。


「心子さん、空間転移をお願いできるかな。僕は念のために障壁を張っておくよ」

「承知しました! お祖母さんが使っていた魔術工房が幻夢境にいくつかあるので、そちらへ転移します!」


 心子さんは銀の鍵を使って転移を試みる。しかし、より上位の力に押さえつけられるように、心子さんの転移は妨害されてしまった。


「えっ!? どうして……!? カラスや偽バルドルは、時空操作魔術を使えないはずですよね? しかもお祖母さんとロキが同時に転移封じをしていた時よりも転移が難しいです。僕1人では突破できません!!」

「わかった。僕も協力する。それで転移ができればいいんだけど……」


 僕も銀の鍵で探ってみると、今まで感じたこともないほどの強い力で転移が封じられていた。対抗できないことはなさそうだが、心子さんと2人がかりでも転移可能になるまで時間がかかりそうだ。


 でもいったいどうやって? ここまで強いとなると、おそらくは銀の鍵以上に、ヨグ=ソトースから力を引き出している。

 もしかしてオーディンが窮極の門から干渉してきているのか? 窮極の門から直接干渉することはできないだろうから、黄金の腕輪を経由していると思うんだけど……。まさかこの近くに、偽バルドルがいるのか?


 偽バルドルを探して辺りを見渡すが、見つからない。黄金の腕輪を奪えるなら奪いたいけれど、この状況で偽バルドルに襲われても対処できる自信はない。残念だけど今は逃げることに重点を置いた方が良いだろう。


「ヴァーリ、季桃さん、少し時間を稼いでくれるかな。それでなんとか転移をしてみせるからさ」

「任せとけ。きっちり仕事はしてやるからよ」

「初めての対人戦だなぁ……。カラスが率いるエインフェリアと戦うとは思ってなかったけどさ、いつかはエインフェリアと戦うこともあるって覚悟はしてたから、頑張るね」


 そういえば季桃さんは模擬戦以外で人と戦うのは初めてか。僕は偽バルドルと一緒にムスペル教団の拠点を襲撃したけど、確かに季桃さんは化け物退治しかやってなかった。


 僕と心子さんは空間転移に集中するため、万全の状態で戦えるのはヴァーリと季桃さんだけだ。


 かなり厳しい戦いになるだろうけれど、2人ならやってくれると信じている。


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