表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

78/126

77_カラスの裏切り_その1

 どうしてカラスたちは僕たちを裏切ったのだろうか。目的はなんだ? カラスたちが北欧の神々にとってかわり、エインフェリアを従えて一大勢力を築こうとしている……というのは違う気がする。


 カラスたちがそんな野心を持っていたようには見えないし、そもそも今、彼らが所属している陣営はムスペル教団に押され気味なのだ。覇権を取りたいという理由なら、ムスペル教団を倒した後で裏切るべき。僕たちを排除するタイミングは今じゃない。


 そうなるとカラスたちは、彼らの背後にいる何者かのために動いていると考えるべきだろう。


 以前までは、カラスたちは偽バルドルに従っていた。けれどそれは、カラスたちがバルドルを偽物だと知らなかったからだ。それ以降は独自に動いているか、ヴァーリと一緒に行動している僕たちに従っていた。


 今、カラスたちは誰に従っているんだ? おそらくは、北欧の神の誰かだと考えるのが妥当だと思う。エインフェリアがカラスたちを従えているとは考えにくい。


 生き残っている北欧の神は、ヴァーリ、ロキ、オーディン、そしてレギンレイヴの本体だ。


 ヴァーリは当然違う。ロキはムスペル教団側なので、彼女も除外していい。そうなると残りはオーディンかレギンレイヴの本体だけど……。


 動機の面で考えれば、レギンレイヴの本体も除外していいはずだ。ヒカちゃんとロキの証言によると、彼女は『戦争は嫌い』『平和な世の中にしたい』と考えているらしい。僕たちを襲うどころか、むしろ味方してくれそうな思想の持ち主と言える。


 一方でオーディンは、複数のパラレルワールドに跨った大戦争を起こし、大量の犠牲者を出そうとしている。そして僕たちは、このパラレルワールドのためにオーディンを止めようとしている。季桃さんだけは止めるというか、出身パラレルワールドに帰るためにタウィル・アト=ウムルの力が必要という理由だけど。現在のタウィル・アト=ウムルはオーディンなので、オーディンが季桃さんのために力を行使してくれるのでなければ、衝突するのは避けられない。


 そういうわけで、オーディンと僕たちは明確に敵対しているのだ。オーディンには僕たちを排除する動機がある。


 ……もしかして、カラスたちは元の鞘に収まっただけではないだろうか。


 カラスたちは元々、オーディンが従えていた情報収集用の使い魔だ。けれど今までカラスたちは、オーディンが生き残っていることを把握していなかった。もしくは、把握していてもオーディンと連絡を取ることができなかった。


 そういった理由で、カラスたちは独自の判断で行動していた可能性がある。


 けれどつい最近、オーディンと連絡が取れるようになり、従来の主に従って僕たちと敵対し始めたんじゃないだろうか。


 いや、そもそもカラスたちはずっと、オーディンのための行動しかしてないんじゃないか? カラスたちは僕たちが最初にエインフェリアになったとき、平和のためとか人々のために行動しているといっていた。


 けれどそれって要するに、オーディンが異なるパラレルワールドの自分と戦争するときに使える戦力を増やしておくということじゃないか? 平和を守っていれば人口が増えて、将来的な戦力が増える。


 僕は以上の考察をみんなに共有する。すると心子さんから指摘があった。


「動機の面では筋が通っていると思います。けれど、カラスたちはどうやってオーディンから指示を受けているのか、そこを説明できないといけませんね」


 確かに心子さんの指摘はもっともだった。


 オーディンは窮極の門にいるのだ。お祖母さんの研究ノートやロキの証言から考えると、そう簡単に出入りできる場所じゃない。


 出入りするためにはロキが言っていた正規ルートか、もしくは角度の次元ティンダロスを経由した裏ルートのどちらかを通る必要がある。


 少なくとも裏ルートを通るのは、相当厳しい。お祖母さんは裏ルートを通るつもりだったらしいけど、正直なところ、成功する可能性は非常に低かったと思う。エインフェリアでかつ、銀の鍵を持っている僕ですら現実的じゃない。


 そんな裏ルートを連絡に使えるとは思えないので、使っているとしたら正規ルートの方だろうか。正規ルートが何なのか僕たちは知らないけど、ロキによると、正規ルートはオーディンがバルドルにあげたらしい。


「オーディンがバルドルにあげたっていうと、黄金の腕輪が有名だよね。ドラウプニルっていう、9日ごとに9つに分裂して増えるやつ」


 そんなことを季桃さんが言う。


 黄金の腕輪は世界の在り方を表している腕輪と言われていて、伝承に語られる腕輪の増え方と、パラレルワールドの増え方が一致していることがわかっている。

 なんとなく、ヨグ=ソトースと関連がありそうなアイテムだ。


「そうか、黄金の腕輪か。おそらくは、それが窮極の門へ至る正規ルートなんだ」

「でも黄金の腕輪って偽バルドルが持っているんじゃねぇのかよ? 偽バルドルがカラスたちに貸すとは思えねぇな」


 ヴァーリが反論してくる。けれど、それに対する答えもある。


「よく思い出して。ロキはバルドルを偽物だと知っていたよね。ロキが知っていて、オーディンが知らないはずがないんだ。偽バルドルはオーディン公認の存在なんだよ」

「ってことは、カラスと偽バルドルって最初からグルか!?」


 カラスたちは僕たちの指示で偽バルドルを探していたと思っていたけど、そうじゃない。偽バルドルがオーディンとの連絡手段を持っているから、合流しようとしていただけだ。


 偽バルドルは複数の分体に分かれて行動している。おそらくは別世界の僕に倒された分体がカラスたちとやり取りを担当していて、カラスたちは孤立してしまっていたんだろう。


 けれど最近になってようやく合流できて、オーディンから指示を受けることができた。


 カラスたちが裏切ったというよりは、僕たちが騙されていたというべきだろうか。これがカラスたちが僕たちと敵対している真相だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ